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7話

ダニエル視点です。

一応、R15です。



久しぶりに顔を合わせた彼女は、数週間前の記憶よりやつれていた。


平常時に比べると段違いの忙しさに加え、本社の役職付きの社員やその秘書や広報の人間はも自宅に帰れないどころか食事も睡眠もままならなかったのだから、当然と言えば当然だ。

自分もこの一ヶ月で大分体重が落ちた。

スラックスのサイズがワンサイズ下になってしまったほどだ。


その目が回るような忙しさもどうにか落ち着きを見せ、何とかまともに休憩が取れるようになったのはこの二、三日前から。

法的な手続きも完了し、警察や法廷に提出する資料も揃えたのならば後は弁護士の仕事だ。

素人が出る幕はない。


毎週やってくるはずの休日を返上して対応に追われていたが、どうにかこうにか、久しぶりに休みを確保できたこともあって、我ながら少々浮かれていたことは否めない。


仕事は適当に切りのいいところで切り上げて彼女を食事に誘うのは、別段不可思議なことではない。

サエがその誘いに何の迷いもなく頷くことも、それに幾ばくかの疾しさを覚えることも。

嫌な痩せかたをした彼女を心配する上司としての自分も、嘘ではない。

だが、それ以上に、いつもの凛とした彼女と違って、強く抱きとめていないと儚く消えてしまいそうなサエに庇護欲と欲情を強く感じたことも、否定できない。


彼女が俺の目を見て会話してくれている。

そんな些細なことに、心臓は苦しいくらいに舞い上がる。


まずいまずいとは感じていた。


同じ過ちを繰り返すつもりかと理性の部分は俺に忠告を発信し続けているが、それを凌駕する熱情。

それに逆らえるほど、俺は出来た人間ではなかった。





*****





焦がれ続けた象牙色の柔い肌が自分の腕の中でうっすらとピンク色に染まる。

キスを繰り返したせいでぽってりと赤く腫れあがった唇。

吐息に混じる密やかな嬌声。

アルコールのせいかこの行為のせいか、とろりと蕩けた漆黒の瞳。

この歳で、男性経験が無いとは思わなかったが、それを切望している己がいたことは事実だった。

この表情を、この反応を、他の男が知っているのかと思うと腸が煮えくりかえる。

これからは、自分以外許さない。

そんな思いを込めて彼女に口づけ、痕を残す。


溺れたのは、絡めとられたのは、自分の方だった。


観念しよう。

もう、サエが横にいないと、生きてはいけないと。





*****





カーテン越しに感じる日差しの気配。

心地よいまどろみの中、腕の中の愛おしい存在を抱きしめようと伸ばした腕は、空を掻いた。



「・・・サエ?」



昨日のアルコールが残っているのだろうか。

痛む頭をを無視し、起き上がってみても、そこにいるはずの彼女はいない。

サイドボードの時計の横に置いておいた眼鏡も、家に帰るなり脱ぎ散らかした服も、そこにはなかった。

シャワーでも浴びているのかとも思ったが、耳を澄ませても水音は聞こえない。



「サエ!?」



家じゅうの扉という扉、部屋という部屋を開け放って彼女の存在を探っても、返ってくるのは自分の必死な叫び声だけ。

バスルームにトイレ、果てはクローゼットの中まで確認しても、サエはいなかった。


思わず脱力して座り込む。

情けない、情けなさすぎる。

こうなることが解っていれば、何が何でも朝まで離さなかったのに。

掌に爪が食い込み血が出るほど握った。

その痛みは、彼女がここにいないということを自分に突きつけてくるだけだ。


手に入れたと思った。

だが、それは所詮独りよがりな自分の空想だった。

今までのガールフレンドはおろか、気の置けない長年の友人でさえあまり立ち入らせた事のない自宅に、誰にも無遠慮に土足で入り込んでほしくないプライベートな空間に攫ってきた意味を、サエは理解しているのだろうか。

目が覚めて、隣りにあるはずのぬくもりが無いことがどれほどの恐怖か、どれほどの絶望か、君はまだ知らない。



「・・・っは」



何をうじうじと悩んでいるんだ、ダニエル・カーター。

逃げた獲物は追いかける。

欲しいもの、いや、自分のものは奪い返す。


待っていやがれ、サエ・ヤマモト。

必ずこの腕に囲い込んで、二度と逃げる気などならないように。

閉じ込めてやる。



この、ヒロインとの温度差が物悲しい男です・・・(笑)

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