2話
前回の本文ではうっかり忘れてましたが、ヒロインのフルネームは山本早絵です。
今回はダニエル視点。
「慈善パーティー、ですか?」
「ああ、君にしか頼めない」
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自分で言うのも嫌味だが、俺は容姿も持っているスキルやステータスもイイ男だと思う。
学生のころに起業した会社は何年か前までは軌道に乗らずに苦労したが、小さいころから可愛がってくれた伯父が融資してくれたおかげもあってか、五年前に作ったレストラン事業部が成功し、今や押しも押されぬ一大企業へとのし上がることができた。
この成果をきっかけに他の事業からは手を引き、今はレストラン経営とホテル経営の二本に絞っている。あまりあれもこれもと手広くやるのは一点集中型の自分の性格上失敗しかねない。
会社が業績を伸ばすにつれて現れたのが、質があまりよろしいとは言えない女たちである。
端的にいえば、俺にひっつていることで味わえる旨味にしか興味のない連中である。
俺も男だから、女の柔らかい肌が嫌いであるなんて断じて言うつもりはない。
だが、『恋愛』という関係において女を信用するつもりはないし、されるのも真っ平御免だ。
地元の名士である伯父夫婦には子供がおらず、近所に嫁いだ妹の子供である俺を随分可愛がってくれていたし、今も何かと気にかけてくれる。
そんな自分にすり寄る女は幼いころから幾人もいた。
男尊女卑、女性蔑視主義、という訳ではないが、恋愛関係に陥ると女は信用ならないと痛感した手痛い経験もあってか、来年三十四歳にもなろうかというのに、いまだ独身である。
ここ最近は結婚をちらつかせる両親や伯父夫婦にも、あからさまに自分を売り込んでくるハイエナのごとき女たちにもうんざりしている。
そういったこともあってか、女を切らしたことはないが必要な時に手配できない、といった状況に追い込まれることも少なくない。
今まではそんなことがあってもガールフレンドの誰かに適当に声をかけるか一人で出席するかのどちらかを選択していたが、今回ばかりはその手は使えない。
「ボス、別に私でなくても誰か手配できるのでは・・・?」
パートナーを申し込んだときのきょとんとした表情から何となく予測していたが、俺の台詞に困惑し真意を測りかねているのだろう。遠回りに拒否されている。
彼女のその返答は予測はしていたが、実際に突きつけられるとその返事に少々がっかりしている。
それと同時にわずかな爽快感も。
今まで女性にこの手のことで断られとことが無いからだろう。
「えーと、昨日お電話があったマックス嬢とご一緒すればいいのでは?」
どうあっても断るつもりだ。業務中には見せたことのない表情をしている。
そこまでか。
「いや、実は伯父が一枚噛んでるらしいんだ」
「は?」
それがどうした、と言わんばかりのサエに苦笑し、事情も何も説明していなければこんな反応しか返せないよな、とも思う。
しかし、普段は柔らかい笑みを武器に正確に仕事をこなす部下のこんな一面は新鮮だ。
日本人らしい整った顔立ちは、確かにアメリカでは童顔などと言われるが、細すぎない女性らしい丸みを帯びた華奢な身体や、きめの細かい象牙色の肌には思わずぐっと来る男も多い。
まあ、今年で二十八歳には見えないが。本人いわく同郷の人間から見ると年相応らしい。
「俺が三十になっても結婚しないのを心配した伯父がね、誰か紹介してくれるらしいんだ」
「それが嫌なら、誰か誘えばいいじゃ・・・、ああ」
「うん、誰か連れて行けばその相手を」
「結婚相手にされかねない、と」
「そういう訳」
一人では参加できないが、誰かを伴っても厄介なことになる。
そんな上司の境遇には思わず笑いがこみ上げるのか自身が申し込まれたことも忘れ、サエはにやにやと人の悪い微笑みを浮かべた。
自分だってこれが他人事ならば指さして笑うが、あいにくと当人であるので笑いごとではない。
「で、今はそんな親密に付き合っている相手はいないから秘書を連れて行ってなおかつ女よけに使うと」
「頼む」
「そうですねえ・・・」
「時間外手当、付けよう」
「・・・・・・」
「今度のボーナスも弾むよ」
「仕方ないですね、今回だけですよ」
人の足元見てるな、コイツ。
だが、まあ、交渉成立だ。