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15話

今回は、R15表現に加え、無理矢理の描写もあるので、苦手な方はご注意ください。

早絵視点です。



赤く潤む目に熱っぽく見つめられ、言葉が詰まる。

異性に、しかも極上の容姿の男にこうも真剣にあたしの存在を求められたことはない。

だが、この言葉の詰まりはそれが原因ではない。


非っ常に、困ったことになってしまった。


今回の出来事は、あたしの中では半ば事故として処理していた。

不幸な事故だが、人生八十年も生きてりゃこんなこともあるさ、と割り切るのは、そんなに難しいことではない。


それが、突然こんな面倒なことを言い出されるなんて、想像もしなかった。

程度の違いはあれ、これまでの上司の女性関連での経験上、あたしとの情事も軽く流されるだろうと踏んでいたのだ。

一夜の情事に溺れ、彼に付きまとう女性を目の当たりにしたことは多々ある。

そこまで執着するほどか、なんて冷静に電話を取り次いでいたのが懐かしい。

そう言った経緯があれば、我が上司ダニエル・カーターが、『オンナ』の部分のあたしを求めることは、実際問題あり得ないと思っていた、という方が正しいかもしれない。




「サエ、」



無言のあたしに焦れたのか、答えを促すようにファーストネームを呼ばれる。

こちらを誘惑しようと漂ってくる男のフェロモンにくらくらしながらも、どっか冷静な部分が残っている頭は思考を巡らす。


何をトチ狂ったかは知らないが、どうやらこの男はあたしに求愛しているらしい。

真剣かどうかはこのちんけな脳みそでは計り知れないが、行動や台詞から推察するに、本気ではあるようだ。


取りあえず、ここまでがダニエルのカード。


さて、振り返ってあたしは。

不幸な事故は起こってしまったが、あたしは彼の秘書だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

秘書である『私』は彼の部下だが、それ以外の『あたし』を求められても、正直困る。


そしてこれが最大の要因だが、あたし『山本早絵』は『ダニエル・カーター』に上司への親愛の情しか向けていない。

有り体に言うと、恋愛感情は持ち合わせていない。


これが、あたしのカードだ。


頭の中で、一昔前に流行ったカード会社のCMの台詞が繰り返されるが、手持ちの答えは決まりきっている。


うん。

仕事は暫くしにくくなるかもしんないけど、断る以外の選択肢が出てこない。


思考が固まれば、後は実行に移すのみだ。

彼の一挙一動にあたふたするプライベートのあたしを押しやり、オフィスでの秘書モードに切り替える。

甘ったるいイエスを期待している上司には悪いが、その期待には応えられない。

空気が変わったのを敏感に察知した上司の表情がさっきより強張る。





「お断り申し上げます」




その後のことは、実は記憶があやふやだったりする。





*****





あたしの返事に瞬間黙った上司は、それはそれは美しい微笑みをその華のかんばせに乗せたかと思うと、とんでもない行動に出た。


両手であたしの体を拘束したかと思うと、次の瞬間には朝までご厄介になっていた主寝室のバカでかいベッドに放り込まれる。

即座には対応できずに呆然とシーツの海に転がってると、逃げられないように全体重を掛け圧し掛かってくる。

借りた衣類を二度と着られない風にしていく男に、自分のことなのに現実味が湧かない。


その時の心境は、まさに恐怖一色だった。


だが、人間には適応能力というものが備わっている。

一晩だけとはいえ、色事に長けた男に仕込まれた身体は、あたしの意思とは無関係に悦ぶ。

そうして囁かれる卑猥な表現と愛の言葉と、ダニエルが望む答えを求められる。


ああ、正直に言おう、気が狂うかと思った。


身体の一番奥に籠る逃げ場のない熱に、過多な快感。

ダニエルは、自身が望む言葉を返せば、代償に多少は楽にしてくれる。

過ぎた快感は時に苦痛しか与えないということを身を持って体感した。


・・・結論からいえば、あたしはそれに屈したのである。


平たく説明すると、苦痛を取り除く見返りに相手の条件を飲め、と強要されたのだ。

しかも、昨夜とは違いあたしの意識がはっきりとある状態で、言質を取られたのである。

ついでに、無体な上司のせいでぐったりと疲れきってつぶれているところを、ばっちりデジカメに収められてしまった。


完全に、逃げ道を塞がれたのだ。


・・・・・・これって、警察に通報するレベルだよな、絶対。



警察に行けば、強姦罪が認められます(笑)

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