14話
ちょっと展開が前進してきました。
早絵視点です
デジャヴ、デジャヴが・・・。
何か、前にもこんな状況があった気がするのは気のせいか。
いや、気のせいなんかではない。
金持ちの金銭感覚、マジで解らん。
どういった思考回路を経て、こんな風になるんだ一体。
「何考えてんですか、貴方は」
「気に入らなかったか? なら、他の物を」
「いやいやいや、私が言いたいのはそおいうことではなくてですね」
「すまない、サエの服の好みが分からなかったから」
「ですから、」
「すぐに手配するから、」
「だーかーらーっ」
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ダニエルとの押し問答の結果、無難にスキニーのパンツとターコイズブルーが眩しいブラウスをお借りすることにした。
実際問題、着れるサイズがそんなに無かった故の消去法ともいう。
あの男には貢ぎ癖がある、絶対。
しかし、ここで大問題が発覚した。
・・・下着が、ありません・・・・・・・。
いやいやいやいや。
ここで、パンツやらブラジャーまで完璧に手配されてたらドン引くけど、これが無いことには話にならない。
ノーブラも十分あれだけど、ノーパンでいるのはもっと嫌だ。
すったもんだの末、カーター家御用達の衣料品店に電話し、サイズを伝えて届けてもらうことになった。
ていうか、リアルに存在するんだ、御用達って・・・。
生着替えを男に披露する変態な趣味はないので、注文した品が届き次第、クローゼットルームにこもることとなった。
ついでに化粧ポーチに入ってたもんで軽ーく整える。
いつものお仕事スタイルのときほどがっちりメイクせんでもいいだろう。
一応、プライベートに分類されるだろうし。
上司の奇行は気になるが、追求は見苦しくない格好になってからでも遅くはない、と信じたい。
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かっさらわれた時以上オフィスで顔を合わせるとき以下の、詰まる所オフの日仕様の見た目でドアを開ければ、そこには甘ったるく微笑む上司の姿が。
思わず開いたばかりのドアを瞬時に閉めたくなったが、手に力を入れ何とか踏ん張る。
流石に、ここでそれをする勇気はあたしには無い。
大人になれ、山本早絵っ。
騙し騙し自分に言い聞かせる。
どういった経緯があれ、ここで事を荒立てるのは得策ではない。
内心の嵐を押し隠し、にっこりと営業スマイルを浮かべることぐらい、朝飯前だぜっ。
「色々とありがとうございました、ダン」
そうにっこり告げると、相手もにこりと笑う。
口角を上げ歯を見せる、これって威嚇行動だよな、本来。
だから、使い道としては間違ってない、うん。
「つきましては、」
「オフィスではないんだから、そんな堅苦しい喋り方はよしてくれ」
「は・・・?」
今度は何を言い出すんだ、何を。
「他人行儀だろう?」
「他人ですよね」
おっと、思わず本音が。
あたしに言葉に、ダニエルが子どもの様に顔をくしゃっと歪める。
い、言いすぎたかもしんないけど、これくらいは許されるだろ、誘拐に比べたら。
「・・・覚えていないか」
「何をですか」
「昨日も言ったが、泥酔している状態だったからな」
そう、うんうんと一人納得するように頷く男に不信感が募る。
何やら、身の危険を感じるんだが、盛大に。
頭に赤い警告ランプとそれに伴うブザーが鳴り響く。
今からコイツが言うことを聞くべからず、と。
「サエ、あい」
「わああ!」
「あいし」
「ぎゃあ!」
「あいして」
「あーあーあー、なーにーもーきーこーえーまーせーん!」
「・・・強制的に口をふさぐぞ」
本気の声音に、ダンの台詞を遮っていた奇声をぴたりと止める。
ゆらり、とダニエルの背後に不穏な空気が渦巻くのにも気がつく。
こ、これは、まずい。
「いや、あの、これはですね、」
「サエ、」
背負ってるオーラとは正反対に、優しい手つきで頬をするりと撫でられ、視線を合わせられる。
そのまま緩く、だがあたしが決して逃げられないような力で抱き寄せられる。
目線は勿論合わせたままだ。
瞳に宿るその熱に、真夏のソフトクリームのように、とけてしまう。
そんな錯覚を起こしてしまいそうな、焦げつく熱さ。
「愛している。傍にいて欲しい」
き、聞かなかったことにさせて下さいーっ!!
ヒロインの往生際の悪さは天下一品です。