11話
今回も早絵視点です。
窒息しそうなほどのキスの雨に、思考も判断も鈍っていくばかり。
これは、あまり良い傾向とは言えないとわかっているけど、逃げ出す方法が見つかりません・・・。
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無駄に広いベッドにそっと座らされたあたしは、ただ茫然とその端正な顔を見つめる以外、何もできない。
当たり前だが、この短時間に事件が色々と起こりすぎたせいで、思考がまともに動いていなかったのが原因だ。
いろんな意味で体勢を立て直そうとする頃には、ダニエルがあたしの足元に跪いていた。
おおお、いつの間に。心臓に悪い絵面だな、おいっ。
内心、一人であわあわしてると、慎重な手つきでパンプスに手が掛かり、何のためらいもなく脱がされた。
な、何をなさるー!
しかも、昨日パンストを履けない状態にしちゃったから生足だし、お風呂も入ってないから汚いし、多分、いや、絶対臭うんですけどっ。
足を取り返そうともがくも、虚しいかな、本気の男の力に不安定な体勢で勝てるわけが無い。
掴まれている足は、痛みを感じるほどではないが、決してこちらに引き寄せられないような絶妙な力加減で、ダニエルの手の中から抜け出せない。
「ちょ、ダン、」
これはいかんと声をかけると、ちらりとこちらを見た。
そして、ニヤッと嫌な笑いを浮かべたかと思うと、こちらに見せつけるように足の甲に口づける。
ひ、ひえええええええ。
「や、やめて下さいっ」
「何故」
「き、汚いですよ、そんなとこっ」
「君の体に汚いところなんてない」
どもりながらも何とか反論を試みたものの、あっさりとそう返された。
いやいやいや、そんなことありませんって。
ていうか、足にキスしながら、そんなこっ恥ずかしい台詞を真顔で吐くなんて、外人怖え・・・。
ぐるぐるとそんなことを考えていると、ついには足の指を咥えられ、キャンディーみたいに嘗めまわされる。
いやああああ、舌の感触が気持ち悪いっ!
「ひゃあっ」
「っ!」
あ、いつもより乙女な感じの悲鳴が上げられた。
んなの別にどうでもいいじゃんとか思うけど、もうそろそろ若さでは勝負が難しい微妙な年頃の女には非っっ常に、大事なことなんです。
いや、上司相手にそんな上手くいっても困るのはあたしなんだけど、なんというか、プライドの問題なのだ。
しかし。
存外、これは効いたらしい。
興奮に目を充血させ、うっとりとあたしを見上げるダニエルと目が合う。
あ、対応、間違えた。
そのまま、さっきまで足の指を口に含んでいたことなど忘れたかのように、あたしの唇にその形良い唇を近付ける。
唾液塗れの指も気色悪いが、それ以上に、例え自分の足とはいえ、さっきまで通算二日も洗ってない足を嘗めていた口とはキスしたくないっ!!
「やっ」
そう言って顔をそらすと、なんだか不穏な空気が・・・。
やべ、とは思ったが、それよりも生理的な嫌悪感の方が勝ったのだから仕方が無い。
恐る恐る上目でダニエルを窺うと、そこには地獄の閻魔様もかくやと言わんばかりの社長様がいらっしゃった。
「ん、んんんーっ」
あたしが拒否ったからだろうか、さっきまで足を抑えていた両手で頬と後頭部をがしっと固定し、問答無用で噛みつくように口づけられる。
うわ、流石に経験値が違う。
キス、上手い。
舌で上唇も下唇も嘗められるが、最後の砦とばかりにあたしは口を閉じる。
だが、鼻で息をするも、やっぱり酸素が足りなくなってきて頭がぼうっとする。
やばい、やばい、やばい。
ふっと、ダニエルの唇が離れて、これ幸いとばかりにあたしは大きく口を開ける。
と、それを待っていたかのように、口腔に舌が挿しこまれた。
油断していたあたしは、為す術もなく、その軟体動物のように動き回る舌と、混ざり合う唾液と、ぴったりと触れ合う唇に、翻弄される。
お互い素面なはずなのに、この状況は、一体何なんだ。
なんでか、ヒロイン視点だとそういうシーンも色気がでません・・・。
あれ?