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1話

初投稿で、至らない点も多々あると思いますが、よろしくお願いします。



「いいから、早くダンを出してっ」

「ですからボスは―」

「あんたじゃ話にならないって言ってるでしょっ」

「只今ダニエルは会議中です。終わり次第こちらに戻ってくるので、ご伝言がございましたら―」

「だからあんたじゃなくてダンを出せって言ってるじゃないっ」



エンドレスリピート。

おおよそ三十分前にこの電話を取り次いで以降、ずーぅっと似たようなやり取りを繰り広げている。

会社に電話してくるということは、あの男は恋人にプライベート用の携帯番号も教えていないのか。

それとも恋人ということさえおこがましい関係の女性なのか。


まあ、どっちでもいいけど。




「申し訳ありませんが、ご伝言が無いのでしたらこれで失礼させていただきます。私にも業務がありますので」

「あ、待ちなさ―」



ぷつん。


受話器を元の位置の戻し、無意味としか思えない会話を強制終了させた。

後のフォローは、あの男が勝手にやるだろう。

あたしの知ったこっちゃない。

ちょうど次の企画で使う資料をまとめていたときに、こんなしょうもない理由で仕事を中断させられていた鬱憤もたまっている。

今度同じ内容の電話がかかってきたならば、クレーム処理に回してやる。

決意を込めて、パソコンのキーを強めに叩いた。





*****





「ただいま、サエ。留守中に何かあった?」



次の出店に関する会議が終わったのだろう。いささか疲れた表情で、諸悪の根源であり我らが社長様のお帰りだ。


あたしが何をまかり間違ってか現在進行形で勤務しているのは、『パンプキンレストラン』という一大レストラングループを有する『D・Kカンパニー』という会社である。

あたしが就職したての五年前はまだここまで大きい会社ではなかったが、安い早い美味いと評判になった『パンプキンレストラン』が大当たりし、消費者の皆様のニーズにお応えしていくうちにアメリカ全土に六十四店舗を数えるようになり、親会社である『D・Kカンパニー』も急成長を遂げた、という訳だ。

あたし自身も最初はアルバイトとして『パンプキンレストラン』に勤めていたが、あれよあれよという間に社員になりマネージャーになり、現在は社長様であらせられるダニエル・カーターの秘書なんてものをしている。

現場で培った見識をぜひ本社で生かしてほしいと打診されれば、誰だって悪い気はしないはずだ。

秘書業務は誤算だったが。

何でも、彼に就く秘書がろくに仕事をせずにダニエルに迫る、ということが多発し仕事にならないといった経緯から、藁にもすがる思いでニューヨーク店のマネージャーであるあたしにこの依頼が回ってきたらしい。


そんな問題が起こるのならば、男の秘書を雇えばいいんでないかとも思うが。


三十三歳の独身貴族であるダニエルは容姿も悪くない。

どころか極上だ。

少し癖の強いダークブロンドに青灰色の瞳。高い身長に、引き締まった身体。

女受けの良い甘いマスクで微笑めば、見慣れているあたしでも惚れぼれする。

勤務時間中に見せる厳しい表情も、顔立ちが整っているせいかそつなく決まっている。

美形はどんなシーンやどんな表情にも対応できるようだ。

我ながら日本人らしい顔立ちのあたしから見ると実に羨ましい。

目鼻立ちは整っている、と言われたこともあるが、こっちでは童顔でおまけにちんちくりんだなんて言われることも珍しくはない。

あたしの身長は156センチ。

決して低い方ではないが、アメリカで比べようとする方が馬鹿らしい。





「エリーゼ・マックス様からお電話がありました。ご伝言は」

「ないんだろう」



あたしの言葉にかぶせるようにそう言い放った上司は、面倒くさそうに前髪を掻きあげる。

そんな何気ない仕草さえ様になるとは、本当に美しいというのはお得だ。



「よく解りましたね」

「あの手の女のことはね」



さいですか。

先週はマリナさんって人でしたもんね。

二股は掛けていないらしいけれど、このサイクルの速さには目を見張る。

というか、上司の女性関係まで管理しなければならいって言うのがいまいち腑に落ちない。


大学入学後、外語大ということもあって二年間留学していたからか、こっちでの就職にあまり反対されなかったけど、こんな時は、本心では日本に帰ってきてほしいらしい両親の顔が浮かぶ。


この女癖の悪ささえ無ければ、いい上司なんだけどなあ。



『女嫌いのプレイボーイ』という、何ともけったいな異名を持つ上司は、今日も最高に濃いコーヒーを片手にニューヨーク本社の上階で売り上げの数字とにらめっこである。



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