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「キリト!そろそろ起きなよ!」

「だめだめ。キリトは寝起き悪いから♪」

「もう」

 2人の声がする。

キリトは眠い目を擦りながら身体を起こした。いつもキリトはソファーで寝ている。

「なんだ、朝か」

 額に手を当てながらキリトは起き2人の方へ顔を向けた。

 アキラの姿は見えなかったが、先が近くにいた。濡れた髪をタオルで拭いていた。

「サキ、シャワー浴びたのか?」

「うん♪貸してもらった♪ほらキリトも早く起きて顔洗いなよ!アキラ君が朝ごはん作ってくれてるから食べて学校行こ!」

「学校・・・?今日行くのか?」

「当たり前でしょ!今日は小テストがあるんだから!」

「俺はいいよ・・・眠いし」

 キリトはまた横になろうとした。サキが慌てて側に寄ってきた。

「あー!寝ちゃダメ!早く起きて学校行くの!」

 サキはキリトの肩を揺すった。少し濡れた髪が当たり、シャンプーの香りがする。

 サキが軽く覆いかぶさっているせいか、サキの胸が近かった。恐らくノーブラなのだろう。

アキラのパジャマは少し小さいのか、その形がわかった。

 キリトはサキから離れるようにして起きた。

「わかった・・・起きるから。」

「もう!やっと起きた。早く顔洗ってきなー」

 クソ・・・目覚め良いんだか悪いんだか・・・・。勘弁してくれ。


 重い頭を引きずりながら俺とサキは学校に行き、死んだ虫みたいな小テストを受けた。テスト自体はさほど難しいものではなかった。脳みその奥の方に鈍く重いものが入っていなければもっとよかったとも思う。

 サキの方は肩を落としている。さっきから搾り出すような溜息ばかり吐いている。負のオーラが全開だ。胸のポケットからタバコを出して一本くわえ、火をつける。一口目を深く吸い込んでからサキに声をかけた。

「・・・・おい、どうした?」

「ダメだった・・・・」

「・・・・は?」

「私の力はこんなものじゃないのよ・・・・・あぁ」

「・・・・。」

 どうやらテストが上手くいかなかったんだろう。この様子からすれば。二日酔いという感じはしなかったので実力的にダメだったんだろう。俺とは違うようだ。

 そんなことを思ってもしょうがないものだ。なにせテストは終わったのだし、元からそのようなものなのだから気を落としてもしょうがない。

「まぁサキ・・・・ドンマイ」

「ちょ!なによキリト!そんな惨めな者を見るような目で慰めないでよ!」

「いや、それは誤解だ。そんなつもりじゃないよ」

「フン!なによ!どうせ私はバカですよ!アホキリト!」

 何で俺が蔑まれてんだ。わけわからん。

 とにかくこの空気はたまらん。うるさいのもアレだがこんな雰囲気じゃあと何回意味もなく罵倒れるかわからん。

 急用があるって言って逃げようかな。そんなことを思っているとサキがこちらを恨めしそうに睨みながら唸るように喋った。

「キリト、これから付き合いなさい」

「・・・・・は?」

「これから遊びに行くって言ってんのよ!」

「はぁ?何でまたいきなり。意味が分からないぞ?」

「そんなの決まってるでしょ?落ち込んでる奇麗な女の子がいたら慰めるものでしょ?だから今から新宿に行きます」

「いやいやいや。綺麗かどうかはさておきだな・・・・」

「拒否権はありません!キリト!じゃないと変な噂流して学校中の女の子から変態を見るような目で見られるようにするわよ!」

なんちゅうことを言う奴だ。これは脅しだ。とてつもない脅しだ。元から友人の少ない俺だからさほど問題は無さそうだがサキのことだ。何を言うかわからん。それに、きっと何て言っても解放はしてくれないのだろう。諦めるしか、ないようだ。

 はぁ。今度は俺が溜息をつく。タバコの煙がいつもより苦く感じた。


 二人は新宿に向かう電車に乗り込んだ。不思議なことにサキの機嫌はもう悪くないようだった。かわりに俺の方が気分が落ち込んでいった。

 今日はアキラの方に仕事はきていないのだろうか。今日ほど仕事が待ち遠しいのも珍しい。今ならどんな仕事だって喜んで引き受けるだろう。それこそ、戦争だってな。

そんなことをぼーっと考えているうちに電車は新宿に到着し、キリトはサキに引っ張られるように電車を降りた。

 サキは東口の方に行きたいようで、俺たちはアルタ前に向かった。そんなに暗い時間ではなかったが、アルタ前にはいつものようにホストやキャッチが辺り構わず声をかけていた。きっとサキも俺がいなかったら声をかけられていただろう。

 俺はサキにアルタ前でタバコを一服したいと言った。ここらで一回煙を入れとかなければ次にいつ吸えるかわからない気がしたからだ。

 サキは唇をすぼめながら文句を言ったが了承してくれた。俺たちはアルタ前の喫煙所に足を向けた。

 俺はタバコを取り出してジッポで火を点けた。ここはいつだって誰か知らがタバコを吸っている。ゴミ溜めの中で吸っている気分になる。

目の前にはアルタの巨大ビジョンでCMが流れている。サキはそれを何ともなしに眺めている。俺はタバコを持ちながらサキに話しかける。

「サキ、そういえば昨日のことは覚えてるのか?」

「え?昨日?アキラ君の所でお茶したこと?」

「そこじゃねぇ。バーに行っただろ?覚えてないのか?」

「あんまり」

「・・・・・・。」

このやろう。やっぱり覚えてなかったか。人が苦労してたのにこいつは・・・・。

「まったく、まぁいい。それで今日はどこ行く気なんだ?」

「なによ?なんかあったの?まぁ今日はちょっと服見に行きたいかな」

「服か」

「うん。だからキリトは似合ってるかちゃんと判断してね」

「嫌だね」

「なんでよー!」

「俺はそういうのわからんからだ」

「へーんだ!そんなことは分かってましたよ!どうせキリトは女の子のことなんてわからないなんてね」

「おい、ちょっとまて。誰が・・・・」

「まぁキリトには期待してないから。買い物に付き合ってくれるだけでいいから」

「俺は女のこと少しは・・・・」

「ほら!もうタバコいいでしょ!早く行こう!」

 俺は手を掴まれたので慌ててタバコを灰皿に投げ込んでサキに引っ張られていった。


 サキは店を決めているわけではなく目に入った店に入って行った。店内はそこそこの広さだが客はまばらだった。サキはコートを眺める。

「うーん、少し地味かなぁ?キリトどう思う?」

「別に地味じゃないんじゃないか。試着してみろよ」

「わかった!じゃあこっちも着てみよっと。」

 サキはコートを手にして試着室に向かった。俺もしょうがないので試着室に向かったが、サキが着替えている間どうしていいかわからずそわそわして待った。

サキが試着室から出てきた。

「じゃーん!どうかな?似合う?」

サキはブラウンのファー付きロングコートを着て俺に見せた。

「ほー・・・いいんじゃないか?」

「そうかな?似合ってる?セクシー?」

「セクシーかどうかしらんが似合ってるぞ」

「ちぇ、ノリ悪いなーキリトは。でも似合ってるかー。」

悪かったな。ノリが悪くて。

「でも着心地いいしポケットとか良い感じだし・・・これにしよっと♪」

「決めるの早いな」

「うん!私って決める時はささっと決めることにしてるんだ。変に悩んでもあんまり良いことないしね」

へー。女の子にしちゃ珍しい奴だな。もっと悩むもんかと思ったが。まぁ俺からすれば早く決めてくれた方が助かるけどな。

「えっと、これいくらだろ?・・・ゲッ!結構高いじゃん」

「いくら?」

「7万円だってー。はぁ、ちょっと高いなぁ。今日そんなに持ってきてないよー。諦めるかなー?」

 サキはコートを脱ぐ。ちょっと残念そうだ。

 やれやれ、しょうがねーな。そんな顔されたらちょっと可哀想になる。

「いいよ、それ。俺が買ってやるよ」

「え?」

「俺が買ってやるから。その服」

「で、でも高いし悪いよ」

「それが気に入ったんだろ?」

「うん・・・・」

「なら気にすんな。そのかわり飯おごれよ?な?」

俺はそういってサキのコートを受け取る。

「・・・・あは!キリトありがとう!」満面の笑顔でサキは俺に抱きついてきた。

「なっ!オマ、何してんだ!離れろよ!」

「えへへー」

まったく・・・・。勘弁してくれ。それにまぁこのコート、サキにけっこう似合ってたしな・・・・。

 俺は抱きつくサキを引き剥がしてコートをレジに持っていった。


 コートを入れた袋を持って俺たちは店を出た。サキは後ろから満面の笑みでついてくる。ちょっとこういうのは苦手だ。サキの方に振り返る。

「ほらよ」

 袋をサキに差し出す。ちょっと照れくさい。こういうのにはあまり慣れていない。仕事で取引はよくするのに。取引のが仕事と割り切れる分、まだ楽だ。

「ありがとうキリト!すっごい嬉しいよ」

 笑いながらサキは袋を胸に抱きしめる。そんなに嬉しいものなのだろうか。なるほど、これぐらい喜ばれるとプレゼントをあげたくなる気持ちもわからなくもないな。

「でもキリト本当に大丈夫?お金とか・・・・?」

「気にするな。普段あまり金とか使わないからな」

「へー。まぁそんな感じするけどさ。あ!」

なんだ。

「じゃあこれからキリトの服も見に行こうよ!」

「は?いいよ俺は」

「良いじゃん!ね?行こ!」

 なんてこった。俺は別にいらねーぞ?それに今着てるこのトレンチコートだって気に入ってるんだ。動きやすいし軽くアラミド繊維を混ぜて手を加えた強化版だ。これ以上の服なんて普通の店においてあるわけがねぇ。逆にミリタリーショップなんて行きたくねーぞ。

「お、おい、本当にいらねーから・・・」

「よし!それじゃあメンズショップ行きますかな」

「おい・・・」

サキには俺の言葉は通じないようだ。今日は成すがままらしい。厄日かな?諦めるしかないようだ。


 サキと色々な服屋を見て回った。サキは自分が見つけた服を俺に合わせ、また試着を強要した。これはなんて拷問なのだろうか?俺はこんな拷問を受けたことはない。さらにサキはよりにもよって店員まで呼んで一緒になってあーだこーだ言いやがる。公開処刑だ。

「この服似合うと思うんだけどなー」

「良く似合ってますよ!彼氏さん身長も高いし細いからこういう服はよく着こなせてますよ?」

「これ彼氏じゃないですよー」

「え?違うんですか?てっきりカップルかと。でも勿体ないなぁ。美男美女のカップルだと思いますけど♪」

「えー?そんなことないですよ。美男美女だなんて」

「確かに美女じゃねーな・・・」

「ん?何か言ったキリト?」

「なんでもねーよ」

「仲がいいですねー」

 こんな店二度と来ない。俺はそう胸に強く誓った。


 結局あの店員に(サキが)乗せられて適当なシャツを買わされた。わずかな抵抗で無難なグレーの色にさせたのがせめてもの救いだ。

「あの店員さん面白かったね。またあの店いこー」

「二度と行かないわ」

「えー?なんで?そういえばキリト一着サイズ小さいの買わなかった?」

「あー」

「なんで?弟さんとかいたっけ?」

「まぁそんなところだ」

 時計を見るともうすぐ午後7時になるくらいだった。意外と時間が経ってしまった。

「サキ、これからどうする?けっこう時間たったぞ?」

「え?あ、ほんとだ。早いねー。どうする?どっかでご飯でも食べる?」

「そうだな・・・」

 その時携帯が鳴った。相手はアキラだ。


「もしもし?」

「あ!キリト?今どこにいる?」

「今新宿にいるけど」

「なら丁度いいや。今からウチに来れないかな?ちょっと話したいことがあるんだけど」

「今からか。どうかな?今サキといるんだけど」

「あらデート?」

「ちげーよ」

「照れちゃってー」

「ちげーって言ってんだろが。急ならここでサキを帰すけど?」

「いやそこまで急いだ話じゃないよ」

「ちょっと待て。サキに聞いてみる」

携帯を顔から離しサキの方へ向く。

「サキ、悪いんだがこれからアキラに合わなくちゃいけないみたいだ」

「あら?そうなの?なら私もいくー」

「は?」

「いいじゃん別に。ね?私も行くから」

「ちょっと待てって」

「いいからいいから♪」

 何にもよくねーよ。こいつのペースに俺は圧倒される。仕方無くアキラにそのことを伝える。

アキラなら駄目だと言うだろう。

「アキラ、サキも行きいって言ってるんだが駄目だよな?大事な話だもんな」

「え?サキちゃんも来るの?全然いいよー。むしろおいで」

「いや、大事な話が・・・」

「そんなんすぐ終わるし。じゃあ待ってるね」

そういうとアキラは電話を切った。

 サキの方を見ると、サキはニコニコと笑顔を向けていた。

俺の口から出るのは、もちろん溜息だ。


 アキラのマンションの前に着いた。俺とサキはスーパーの袋を抱えていた。アキラの家で何か作って食べることにしたのだ。

 いつものようにマンションの前で連絡し、アキラがチェックを済ませたら中に入る。ドアをノックするとアキラが扉をえ開けてくれた。

「おっかえりー♪お二人さん」

「あぁ・・・」

「アキラ君ごめんねー。今日も来ちゃった」

「ううん、ありがとねー。さぁ入って入って」

アキラは俺らを中に招き入れた。どうしてこうなった。不思議だ。


 アキラは俺らのためにコーヒーを作ってくれていた。サキは買ってきた食料品をキッチンに置きに行っている。俺はソファーに深く腰をかけてタバコに火を付けた。なんだか今日はやけに疲れた。


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