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 俺の名前はキリト。仕事が大嫌いだ。正確には嫌いになった。

タクシーが停まり運転手にお金を渡す。ドアが自動で開いて外に出る。

 するとドアの先に眩いばかりのライトで照らされた豪華な建物があり、胸に手を当てて訓練されているのであろう黒服の男が慇懃に出迎える。

 俺と、横にいるサキに向かって。

 なんでこんなことになったんだろう・・・・。


「二人とも、パーティーは好き?」

 全てはこの言葉から始まった。

アキラが放った言葉の意味がよくわからず呆けた。先ほどのアキラと同じだ。フリーズしてしまった。

 サキが先に口を開いた。

「大好き!パーティーって楽しいよね!」

 サキが言うとなんか誰かのお誕生日会のように聞こえる。実際そんな感じにしかキリトも思っていなかった。

「そっかー!いや良かった!実は二人に行ってもらいたいパーティーがあるんだよ」

 ・・・・・。なんだ?なんか嫌な予感がする。嫌な予感しかしない。

「え?そうなの?私が行ってもいいの?」

「うん。ちょうどサキちゃんもいるしサキちゃんに行ってもらいたいな」

「ま、待て待て!ちょっと待て!」

 キリトは慌てて口を挟む。

「パーティーってなんだ?しかもなんでサキと行かなくちゃいけない?」

「何よキリト?私と行きたくないの?」

「いや、そういうわけじゃなくてだな・・・・」

「ならいいじゃない。ねぇ、それってどんなパーティー?」

 話しを進めるな!

 アキラはキリトの方を見て少し愉快そうに笑ったように見えた。こんな狼狽するキリトは珍しい。

「うん、まぁ僕の知り合いの人が大きなパーティーするみたいでね。それに招待されたんだけど、いかんせんそれは男女ペアでって感じなんだよ。僕が行くわけにも行かないしどうしようかなって思ってたんだけどサキちゃんが行ってくれるなら大助かりだよ!」

「へぇ?なんか凄い大人な感じがするね?私ドレスとか持ってないよ?」

「大丈夫!ちゃんと貸すから!サキちゃんなら余裕でセレブになれるよ!」

「え~そんなぁ~セレブになれるかなぁ?」

 二人してこんな調子だ。マズイ。これはまずいぞ。


「アキラ、ちょっといいか?」

俺は立ちあがりアキラを隣の部屋に促す。アキラも分かってたように立ち上がりキリトについていく。振り返りざまに

「サキちゃんちょっと待っててね?」と言った。


「おいアキラ!どういうわけだ!?これも仕事なんだろう?サキが一緒じゃまずいじゃないか?」

「そんな大声出さないでよー。サキちゃんに聞こえちゃうよ?」

 そう言われたがキリトはどこか府に落ちない様子。

「しかしだが・・・こういうのは今までないこともない。が、そんな時は他の専門に頼むもんだったろ?なんでサキと一緒なんだ?」

「まぁね。前にも僕が女装したこともあったけどやっぱり僕は外に出てやる仕事は向いてない。それにこれは急な仕事だったから今から相手を募集するのは少しきついんだよ」

「だからってサキだぞ?あれは普通の学生だ」

「確かに。だけどこの仕事はお得意さんで断れない。僕の用心深さを知っていると思うけど、ペアを外に頼むにしたって色々調べなきゃいけない。それよりもサキちゃんのが何倍も安全だってのはキリトもわかるだろ?」

「だからって・・・・大丈夫なのか?」

「仕事内容はいつもどうり渡しだ。このパーティーが受け渡しにちょうどいいんだろう。こっちとしてもお客に紛れられるしね。だからサキちゃんには普通にパーティーを楽しんでもらって構わない。キリトはそれをエスコートしつつターゲットに物を渡してくれればいい。それだけさ」

「それだけって・・・・」

「俺も勿論バックアップはする。定期パーティーみたいなもんだからチェックは然程厳しくないから、一応キリトも護身にアレを持ちこめるよ」

「・・・・・・・。

「まぁ確かに俺も普段ならこんなことしないけど、ちょっとしたサキちゃんへのお礼だよ。最近サキちゃんのおかげで楽しいからね!だからキリトも頼むよ?」

 そうアキラに頼まれてしまっては断れない。

俺はサキとそのパーティーに行くことになった。


 それで現在ここだ。

 受付でアキラから渡された招待状を渡し、キリトとサキは会場内に足を運びいれた。


「わぁ・・・・すごーい」

 サキは目を丸くして辺りを見回す。こういうパーティーは初めてなのだろう。キリトは初めてではないがあまり得意ではない。

「でもホントにこのドレスで来てよかったー♪最初はこんなドレス着たことないから恥ずかしかったけど、今は着てないと恥ずかしいと思うよ」

「そうだろうな・・・・」

 この定期パーティーはロードという商社の開催するもので、ロードはかなり手広く仕事をしている分、招待されているお客も数が多い。

 しかし、キリトたちほど若い招待客はいない。

 周りはみなそれぞれに社会的に立場が高そうな連中ばかりだ。つまり、そういうパーティーなのだろう。

 企業とはそういう繋がりを大事にする。


 その中で俺たちはやはり浮いているのかも知れない。傍から見てどこかの御曹司と思ってくれればいいのだが。変に浮くのはごめんだ。

 サキは鮮やかなピンクのドレスを身にまとい、髪もそれなりに巻いている。俺の目からではあるが、今のサキは育ちの良さそうなどこかのお嬢様と言った感じだ。中身は普通の女子大生なんだが。馬子にも衣装とは言ったものだ。

 俺は普通のタキシードスーツ。こういう場に馴染むように髪も適当に撫でつけている。もしかしたらサキよりも俺の方が浮いているのかもしれん。男は損な生き物だ。

 サキは俺の肘に掴まって歩く。一応エスコートの形は取るつもりだ。今日は一日中サキをエスコートしてる気がする。

 というか会う度に、だ。

 ボーイに適当飲み物を受け取り辺りを軽く見まわす。辺りは絢爛さが歩いている。

 こういう場にいる人間はみな仮面を付けている。笑顔の仮面だ。まるでそれが義務のように。サキみたいな純粋無垢な笑顔の奴などいない。招待客はこういうパーティーを楽しみで着ているようには俺は思えない。きっと飽きてるんだろう。贅沢な話だ。

 会場のいたるところに豪華な料理が置いてある。贅の限りを尽くした、といった感じだ。

サキが引っ張るので俺もつられてそちらに足を運ぶ。

 サキが一口サイズに切られたステーキを口に運ぶ。

「うわぁぁ・・・・おいしー・・・・」

 もはや驚いている。今まで食べてきたものと違いすぎて上手く反応できないのだろう。俺も食べてみる。まぁ美味いな。

 サキは違う料理も皿によそってモグモグ食べている。

「あぁ・・・・シアワセ・・・・」

本当に幸せそうだ。この会場で料理を本当に味わっているのはサキだけだろうな。シェフも嬉しいだろう。

 今回の仕事に時間は然程関係ない。適当にターゲットに接触して物を渡せばいい。もう少しサキに付き合うことにした。


 サキと二人で食べていると、ふいに後ろから声をかけられた。

「もしもし?良いですか?」

 俺とサキは手を止め声がした方へ振り向く。そこにはこの場が住処といったような男女が立っていた。男女共若く、男は勿論御曹司のような感じだ。

 女性の方は・・・・美人だ。その形容がよく当て嵌まる。どこかの令嬢なのだろう。多分だが、この二人は許嫁どうしなのだろう。お似合いって言えばそのままだ・

 俺は男の方へ柔和な笑みを少し浮かべて話しかける。

「何か?」

 男は少しだけ少しだけ眉根を困ったように歪め片方の手の平を向けた。

「いやいや、急にすいません。申し訳ない。このパーティーに珍しく若い方がいらしてると思い話しかけた所存です。いかんせん私たちには少し、お暇なパーティーでして」

 男はおどける様に肩をすくめた。

 確かにこの場は楽しい「雰囲気」ではあるが、実際は社交辞令と美辞麗句が飛び交うだけのパーティー。ほとんど仕事で来ているような者が殆どだ。

 そんなパーティーに俺らみたいな若い人たちが来ても面白いとは思えないだろう。サキのように料理を楽しめればいいのだが。そんな考えは庶民だけだ。

「それで妹と二人で控室に帰ろうかと思っていたのですが、お二人をお見受けしまして。少しお喋りさせていただこうと考えたわけです。お邪魔、でしたか?」

「いやいや、私たちもただ招待されただけの余所者なので誰とも話すことも無かったのです。相方もこの通り、食べてばかりなので・・・・」

「ちょ、ちょっとキリト!そんな言い方ないでしょ?」

サキが慌てる。

 それにしてもこの二人は兄妹か。たしかにどこか似た雰囲気がある。両方ともとても綺麗な顔立ちをしているということも。どこかで見たような顔でもある。

「自己紹介が遅れました。私は獅道レイヤ。こちらは妹の獅道アヤカです」

 ほほう。そうきたか。なるほど、確かにこんなパーティーに子供連れで来る奴などあまりいない。彼らは『ロード』の御曹司と令嬢というわけか。

「こちらこそ失礼。私はキリト。こっちは・・・・」

「サキです!」

 サキが笑顔で答えた。

「キリトさんとサキさん、ですね。どうぞよろしくお願いします。いや、こんな場でこのように話せるのは嬉しいものです。なぁアヤカ」

「はい」

 隣に立っているアヤカ嬢も笑顔で答える。綺麗と言うにはまだどこか可愛らしいといった感じだ。

「こちらこそ・・・・」

 どんな言葉を繋いで彼らの親に会おうとかと思案した。今日の俺のターゲットは彼らの父である獅道ライヤに接触することだ。

 すると横からサキが喋った。

「わぁ・・・・アヤカちゃんすっごい可愛いなぁ♪お姫様みたいだよ!」

 サキはアヤカの前に出て笑顔で話しかける。

「え?え?いや、そんなことは・・・・」

「可愛いなぁ♪ね?キリトもそう思うでしょ?」

 ここで俺に振るなよ・・・・。しかし今は仕事、営業スマイルだ。

「そうだな。とても素敵です。誰かも見習ってほしい・・・」

 しまった!いつものノリで返してしまった。こんな軽口は叩くつもりはなかったのに。

「なによキリト!キリトだってレイヤさん見習いなさいよ!そんな気色悪い笑顔しちゃってー」

「な、きしょ・・・」

「あははは!お二人とも落ち着いて。こういった感じも久しぶりです。アヤカも少しばかり照れてしまったようです」

「あ、そんな、お兄様・・・・」

 アヤカは頬を紅く染め軽くうつむく。

「わぁ・・・お兄様かぁ。ほんとに可愛らしいなぁアヤカちゃん」

「ほらサキ、アヤカさんも困ってるだろ」

「あれ?キリト?なに照れてんの?」

「ちげーっての」

「アハハ」

 そんな二人をよそにレイヤは快活に笑っている。もうなんでもいいや。


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