違和感
サラの入院から数日経った。
『サラちゃんはどこから来たの?』
『America!』
サラは結構日本語を理解するようになってきた。
『アメリカ楽しい?』
『ワカラナイ!』
多少は日本語も話すようになった。
『ボクもアメリカ行ってみたいな!』
『ナンデヤネン!』
多少はツッコミなんかも入れるようになったりして。
『何か、アメリカって響きがカッコイイじゃん!』
『ドコガヤネン!』
まあまあ、ツッコミなんかも入れるようになったりして。
『だって、サラちゃんみたいな可愛いくてスタイルのいい子もいっぱいいるんでしょ?』
『オウベイカ!』
ツッコミ、入れすぎじゃありませんか?
『サラちゃん、そこのツッコミ、違うわ』
ん?ダメ出しか?
『そういう時はね、どこ見てんのよって言うのよ』
それもどうかと思うぞ。
『ワカッタ、アズサ、Thank you!ドコミテンノヨ!』
どうやら、これまでのサラのツッコミの数々は、梓が教え込んだようだ。
『そうね、サラちゃん、よくできました』
『アリガトウゴザイマシタ!シショー!』
しかも師匠かい!
梓はサラより少し前に入院してきた。
常に明るく元気で、面倒見の良い子だ。
ツッコミの英才教育はどうかと思うが。
そんな梓にふと違和感を覚えるときがある。
ツッコミの英才教育以外で。
いつも違和感を覚えているような気がするのだが、大抵周りの喧騒にのみ込まれてうやむやになってしまう。
それほどに騒がしくなるのは、採血や注射の時とか、あるいは……。
思い悩んでいる間にインターホンが鳴った。
「川嶋です」
どうやら面会時間になったようだ。
今日は梓の両親が一番乗りだ。
『あ!ママだ!ママ!ママ!』
「梓、今日も来たよ」
『ママ!ママ!』
「今日は、パパも来たよ!」
『ママ!ママ!』
違和感の正体はこれか!
梓は、父親を目の前にしても、『パパ』とは言っていないのだ。
「あず、今日は元気だねぇ」
梓のママは、梓を抱き上げた。
『ママ!ママ!』
梓は、嬉しそうに母親の顔を見た。
「僕も、あず、抱っこしていい?」
NICUに入ってきてからずっとそわそわしていた父親が、母親に話しかけた。
「はい、じゃあ、今度はパパね」
『ママがいい!ママがいい!』
そんなに父親は梓をひどく扱うのだろうか?
ところが、溢れんばかりの笑顔で梓を受け取った父親は、とても優しく、宝物のように大切に梓を抱っこしていた。
隣で「Sara!」と絶叫しながらわが子を振り回しているサラの父親に教えてやってほしいほどだ。
そんなに大切に抱っこされているにもかかわらず、梓は何だか不機嫌だ。
『ママがいい!ママがいい!』
梓が、ぐずり始めた。
「やっぱり、パパよりママの方がいいのかな?」
梓、パパ、めっちゃ残念そうだよ!
もっと、喜んであげようよ!
『もう、放してよ、オジサン!』
とうとう、梓は泣き出してしまった
え?オジサン?
まさか、この歳にして、反抗期?
『ナンデヤネン!』
サラさん、絶妙なタイミングでツッコミの練習しないでください!