HELLO!BABY!
俺がNICUに異動になってから五か月がたった。
もうだいぶ、仕事にも慣れてきた。
今日も、ベビーの入院があるようだ。
NICUの扉が開き、ベビーが入ってきた。
『Hello!』
外人さんだ!
ちなみに言っておくが、俺は英語が苦手だ。
『よっ?』
『何だ何だ?』
『ハロー?』
『はろう?』
『波浪?』
『はるお?』
こいつらよりはましなレベルだと思うが。
『Hello!』
そんな中、一人、めっちゃいい発音で返事をしたのは、荘太だった。
『My name is Sara. Nice to meet you!』
ちなみに言っておくが、俺は英語が苦手だ。
『ん?何て言った?』
『わからん!』
『もう一回言って!』
ほら、こいつらにだってわからない。
『My name is Sota. Nice to meet you, too!』
ちなみにくどいようだが、俺は英語が……って、今の、荘太か?
またしても荘太が流暢な英語を披露していた。
荘太は、驚いているベビーたちに説明した。
『私の名前はサラ。初めましてって言われたから、俺の名前は荘太、初めましてって答えたんだ』
荘太、お前は本当に一歳か?
『荘ちゃん、すごーい!』
『ボクも、名前覚えてほしい!』
『私も!』
『アイツの言葉、覚えたい!』
自分たちにとって、わけのわからないものに対して、拒絶することなく素直に興味を示せる好奇心。
大人はどこに落としてきてしまったのだろう?
大人がみんな、こいつらみたいに友好的でいられたら、世界はどれだけ平和になっているのだろう?
ふと、サラの隣のベッドの梓が聞いた。
『何で荘ちゃんは、サラの言葉がわかるの?』
『俺が母親のお腹の中にいた時に、母親が英語の勉強をさせられていたからだろうな』
胎教、恐るべし。
もっと恐るべきものは、荘太の能力なのかもしれない。
『うちのママ、お笑いと昼ドラと韓流ドラマしか見てなかったからなぁ』
『じゃあ、韓国語とか覚えたのか?』
『ヨン様とか?』
それは、日本語だ。
入院したその日のうちに、サラはすっかり日本のNICUに溶け込んでいた。
『ササオカ!Milk!』
『おおっ!サラがミルクって言ったぞ!日本語覚えたんだな!』
日本語でも英語でも、ミルクはミルクだ。
『ササオカ!オムツ!』
どうやら、オムツという単語も覚えてくれたようだ。
その方が、俺としても助かる。
「今日、入院あっただろ、おっ!この子か」
纐纈がベビーたちの様子を見にやってきた。
嬉しそうに纐纈を見つめるサラに、隣のベッドの梓が耳打ちするかのように小さな『声』で言った。
『纐纈、イケメン』
『Oh!コーケツ、イケメンdoctor!』
和洋折衷?
纐纈を見つめ続けたサラは、ちらりと俺のほうを見て、纐纈に視線を戻しながら言った。
『ササオカ、ザンネン……』
残念で悪かったな!