魔王と勇者の話をしよう
「丁度良い機会だ。……魔王と勇者の話をしよう」
「勇者……」
まあ、魔王がいるわけだし、そりゃいるか。
と、思いつつも、非現実的な相手からファンタジーな話をされている現状に、改めて夢を疑ってしまう。
促されて席に着くと、ラピスが切り出した。
「マーシュ人の歴史については、リル・リルハから聞いているな?」
ラピスの質問に頷く。迫害と殺戮の歴史は、一度聞いただけでも十分すぎるほど記憶に残っている。
「マーシュ人が国を作ったとき、他の人間たちに攻め滅ぼされなかった理由、それこそが、初代魔王だ」
「初代魔王……ってことは、ラピスのご先祖さま?」
浅緋がたずねると、ラピスは首を振った。
「いや。魔王は世襲制ではなく、その時最も含有魔力量が多い者が、魔王になる……そして、この世の全ての人類は、魔王に抗うことができない」
「抗うことができない? 命令に逆らえないってこと?」
「命令に逆らうことはおろか、顔を見て会話することも、魔力量の少ない者ならば私の前で立っていることすらできない。それが魔王だ」
「……え?」
ラピスが淡々と言うのを聞いて、すぐにある疑問が浮かんだ。
ならば何故、浅緋はこうしてラピスと会話できているのか。
「気付いたか」
ラピスの言葉に頷く。
「うん……オレがこうしてラピスと会話できるのは、異世界人だから、なの?」
「そうだ。異世界人は、この世の理に支配されない。そして、魔力を持たず、魔王に抵抗する術のない人類も、それに気付いた。異世界人ならば、魔王を殺せる、と」
異世界人ならば、魔王を殺せる。
脳内でその言葉を反芻する。それはつまり、浅緋ならば、魔王を殺せる、ということだ。もっとも、お前なら殺せるから頼んだ、と言われても、そんなことしたくないが。
浅緋が自分の立場をはかりかねていると、ラピスが、ふ、と息を漏らして笑った。
「安心しろ。お前に殺されるほど私は弱くないし、お前は勇者ではない」
「勇者じゃ、ない?」
「ああ。異世界人の中でも、勇者は特別だ。勇者は『勇者の加護』を使うことができる。加護を受けた人間は、異世界人と同じく、魔王の威圧が効かなくなる」
思わず、「え!」と声が出た。
「それって、勇者の加護を受けた軍隊とかも作れるってこと?」
だとしたら、とてつもない戦力になりそうだ。むしろ、今でもマーシュ人が生き残っているのが不思議にすら感じる。
しかし、ラピスは首を振った。
「いや、それは不可能だ。勇者の加護を受けられるのは、せいぜい三、四人程度。過去にマーシュ国王を殺害した勇者たちも、その程度のパーティで行動していたと記録が残っている」
「なるほど……」
フィクションでよくある、勇者、戦士、魔法使い、聖職者、みたいなパーティだろうか。
「三、四人とはいえ、強力なメンバーを集めれば、十分すぎるほどの脅威だ。だからこそ、奴らは勇者の召喚に力を入れている。そして、運悪くそれに巻き込まれたのがお前だ、浅緋」
「えっ? ……ってことは、オレと一緒にこっちに来たあの人が、勇者?」
白い光に包まれた前後のことを思い出す。ともに光に包まれた同年代の男。顔も覚えていないが、あの男の召喚に浅緋は巻き込まれたのだろう。
ラピスは「ああ、そうだ」と頷いてから続けた。
「そして我々もまた、偵察班を通じて勇者の召喚の情報を得ていた。過去に召喚に巻き込まれた異世界人は隠蔽のため殺されていたようだが、今回は処刑人が欲を出してお前をオークションに出したから、我々が競り落とせた。運が良かったな」
「はは……」
そもそも召喚に巻き込まれた時点で運が良くない気がするのは、オレだけだろうか。
ただ、マーシュ人に救われたことは、紛れもない事実だ。浅緋はとうとう、初めからずっと気になっていた疑問を口にした。
「それで、ラピスたちはオレの、何が必要なの?」




