魔鳥が二羽、寄り添いあって
魔鳥が二羽、寄り添いあって、滑るように遠ざかっていく。
静かに眺めていると、右手を握られる感触があった。隣に立つラピスを見るが、その目は変わらず空を見上げている。浅緋は魔鳥に視線を戻し、あたたかい手をぎゅっと握り返した。
スタルと、大魔法使い・ブランの死から、一年が経った。
一年間、あまりにも目まぐるしく多忙な毎日だったが、スタルの命日である今日は、別れの儀のために休暇を取った。
ラピスと浅緋は、スタルのための種と、もうひとつ、先代マーシュ国王のための種を用意した。スタルと先代国王は、きっと共に永遠の旅路を歩んでいるはずだ。
スタルが大魔法使い・ブランを殺したことは、公にはしなかった。
ただし、大魔法使い・ブランが歴代勇者パーティに潜り込み、マーシュ人への憎悪を煽っていたことは公表した。大魔法使い・ブランは、全てを見抜かれた結果、自害したことになった。
ラピスや勇者・白桜を始めとする、あの場に居た者たちは、現在、両国の関係改善に努めている。
近々、『彼の国』の国王がマーシュを訪問する予定も組まれており、現在はその準備で大忙しだ。
勇者パーティ主導のもと、両国民が合同で暮らす新しい村の準備も進んでいる。
白桜は、先代勇者・萌黄の夢を継ぎたいと話していた。そして、勇者パーティの一員である、魔法使い・シロの贖罪もしたいのだと。
この村の準備には、タンも積極的に協力している。先代のころの村にも、学ぶべき部分は多い。数少ない生き残りであるタンの知識は、とても重宝されているようだ。
今は浅緋の護衛ではなくなったタンだが、仕事も含め、会う機会は少なくない。浅緋のもとを訪ねてきたときは、よくリルと三人で話に花を咲かせている。
リルは今も、メイドの仕事を続けている。浅緋の専属というよりは、ラピスと浅緋が暮らす屋敷のハウスメイドに近い状態だ。それから、何故か勇者パーティのマゼンタが、理由をつけてリルによく会いに来ている。来る度にマゼンタが花束を持ってくるらしく、マゼンタの訪問後は必ず豪華な花々が飾られているので、わかりやすいのだ。
浅緋はといえば、スタルが担当していた業務を引き継ぎ、ラピスの補佐役を務めている。ラピスに威圧の力がある以上、補佐ができる人間は限られる。スタルがこなしていた業務量に慄きつつ、必死で食らいつく毎日だ。
浅緋は今のところ、ヴェールを被り、異世界人であることを隠して仕事をしている。しかし、両国の関係が改善されれば、公表できる日も遠くないと信じている。
ラピスと浅緋は、魔鳥がすっかり見えなくなるまで見送ってから、屋敷に戻った。
今日は二人とも、丸一日休みを取ってある。久々にゆっくりしようと、お茶の準備をしていた、その時だった。
バタバタと廊下を駆ける足音が聞こえたと思うと、ドアがノックされた。リルの声だ。
「陛下、浅緋さま! 突然申し訳ございません、コイズ・ソルさまがいらしておいでですわ。今よろしいでしょうか?」
ラピスが素早くヴェールを身に付け、浅緋が衝立を置く。この連携にも、かなり慣れてきた。
「入れ」
ラピスが声をかけると、リルが開けた扉から、コイズ・ソルが早足で部屋に飛び込んできた。その勢いのまま、衝立の前に跪く。
「陛下、お休みのところ大変申し訳……」
「謝罪は良い。火急の用なのだろう。本題に入れ」
コイズ・ソルが「はっ」と素早く一揖し、続ける。
「今しがた情報が入ったのですが……南方の村で、威圧の力が発現した子どもがいると、報告がありました」
浅緋は目を丸くして、ラピスと顔を見合わせた。ヴェールのせいで表情は見えないが、ラピスも驚いていることは伝わってくる。ラピスが衝立越しにコイズ・ソルのほうに向き直った。
「次期国王か。王城で保護したほうがよいだろう。すぐに王城へ向かわせるように」
「はい。既に向こうの村を出発してこちらへ向かっているようなのですが……」
「どうした」
「……その子どもが随分と暴れているそうで、檻に入れて運んでいるとのことです」
「……怪我人が出ないよう気を付けろと伝えておけ」
「はい、かしこまりました。失礼いたします」
コイズ・ソルとリルが、一礼して退室する。
浅緋は、ヴェールを外したラピスと、再び顔を見合わせた。
「ねえ、オレの聞き間違いじゃなければ、檻って言ってなかった?」
「ああ、私の聞き間違いでなければ、言っていたな」
深刻な顔を突き合わせているうちにじわじわと笑いが込み上げてきて、二人はどちらからともなく吹き出した。
「ッフフ、次期国王になる子なのに、檻って! どんだけ暴れたんだろ」
「浅緋、聞いて驚け。威圧の力がある以上、これから先、そのじゃじゃ馬の世話をするのは我々だぞ」
「ほんと、退屈してる暇がなくて何よりだよね」
「まったくだ」
ラピスが笑いながら立ち上がる。休んでいる場合ではなくなってしまった。どうやらお茶の時間はお預けのようだ。
揃って部屋を出ようとしたところで、スルリと右手を取られた。そのあたたかい手を、ぎゅっと握り返す。
この世界に来てから、本当に目まぐるしく、色々なことがあった。そして、きっとこれからも、想像も出来ないようなことがたくさん起こるのだろう。
それでも、絶対に大丈夫だと、浅緋は思える。このあたたかさこそが自分の帰る場所だと、胸を張って思えるのだから。
〈了〉
「親愛なる魔王へ」は、この話を以て完結となります。
彼らの旅路にお付き合いいただき、本当にありがとうございました!




