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会議は和やかに進んだ

 会議は和やかに進んだ。

 円卓を囲んで座るのは、ラピス、白桜、浅緋の三人だ。自分までここにいて良いのか、と浅緋は思ったが、ラピスに頼まれてしまっては断れない。

 三人はまず、萌黄の手記からわかっていることや現状を確認した。

 白桜は理解が早かった。勇者パーティや『彼の国』寄りの偏った見方をしない、フラットな目の持ち主であることが大きいだろう。それは、白桜に初めて会った時から、浅緋が感じていたことだ。本人は無自覚かもしれないが、白桜は常に、まっすぐ正しさだけを見つめている。萌黄といい、それもひとつの勇者の条件なのかもしれない。

 認識のすり合わせが終わると、議題は当然、大魔法使い・ブランのことになった。

「さて、ブランについてだが……パーティの誰かに違和感を覚えたことなどはないか?」

 ラピスの質問に、白桜は首をひねった。

「うーん、三人ともめちゃくちゃ変わった奴らだとは思うけど、助けられることも多いし、違和感は別に……そもそも、全員打倒魔王って感じで一致してたし」

「確かに萌黄の手記でも、対魔王で団結しているうちは、ブランも変わった様子は見せていなかったな。となると、一人ずつ順に接触するのが良いか……」

 ラピスと白桜が、考え込むように下を向く。会話が途切れたタイミングで、浅緋はおずおずと手を挙げた。

「あのさ、オレ、気になることがあって……魔法使い・シロが、木村萌黄の姿だったんだよね」

 ラピスと白桜がハッと息を呑む音が聞こえた。

 シロと名乗った男が萌黄と同じ顔であることは、すぐに気付いた。初めは目を疑ったが、同行している間、何度も見た上で確信した。

 張り詰めた沈黙の中、先に口を開いたのはラピスだった。

「間違いないのか」

 浅緋は頷く。

「うん。髪が伸びてたし表情も全然違ったけど、間違いない」

「……そうか」

 ラピスも納得したように頷く。浅緋はタンの記憶の中で、萌黄の姿を見ている。ラピスもそれを知っているからこそ、浅緋の言葉を信用したのだろう。

 ラピスが白桜に問いかける。

「我々は、歴代勇者は魔王を殺した後、『彼の国』に戻って暮らしているものと思っていたが。勇者・白桜はどう聞いている?」

「魔王を倒せば、元の世界に帰れるって言われたけど……」

 浅緋がラピスに「そうなの?」と訊ねると、ラピスは顎に手を当てた。

「我々も詳細な術式までは知らないが、召喚魔法は膨大な魔力が必要だ。勇者の帰還のためにも魔力を使っているとしたら、このスパンで勇者を召喚することは難しいように思う。そもそも、私の生死と勇者の帰還には、何の関係もない」

「じゃあ、魔法使い・シロはやっぱり、本物の萌黄?」

「その可能性は高い。もしくは……」

 ラピスが言い淀む。その後を継ぐ者はいなかったが、恐らく三人とも同じことを思っているはずだ。

 大魔法使い・ブランは、勇者・萌黄を操ったのではなく、その体を乗っ取ったのではないか。

 沈鬱な空気が立ち込める。白桜が「萌黄は元の世界に帰った」と聞かされていたのであれば、先代の魔王討伐後、本物の萌黄と会った者はいないのだろう。だとしたら、萌黄はどうなったのか。嫌な想像をしてしまうのも、無理はない。

 ラピスが覚悟を決めたように、白桜のほうを向いた。

「勇者・白桜よ。我々は元々、貴殿をパーティに返したあと、大魔法使い・ブランと思われる人物に接触しようとしていた。……だが、萌黄の件を考えると、貴殿の安全のためにも、話し合いではない解決法も、視野に入れる必要があるかもしれない」

 つまり、必要があれば、大魔法使い・ブランを殺すかもしれない、という意味だろう。

 白桜はまだ現実を飲み込みきれていない様子だ。これまで味方だと思っていた人物を唐突に疑うのは、難しいことだろう。

 白桜は、テーブルの上に置いた両手をギュッと握りしめて、顔を上げた。

「マーシュ国王の言うことも、わかる。でも、まずは俺に、シロと話し合いをさせてほしい。あいつをどうするかは、その後で決めてくんないかな」

「真実を知りたいのは私も同じだが……危険すぎるのではないか。萌黄と同じ目に遭う可能性もある」

「大丈夫。あんたには威圧の力があるんだろ? それでシロの魔法を封じれば良い。それに……もしもの事があったら、あんたか浅緋が、俺を止めてくれるだろ」

 浅緋は目を丸くした。似たような表情のラピスと、顔を見合わせる。

 なるほど、白桜は確かに勇者だ。

 まっすぐで、フラットで、無謀で、力強い。

 ラピスは頷いた。

「わかった、協力しよう」

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