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行商の一団に属しているらしい

 アサヒと、連れの女性――リルは、行商の一団に属しているらしい。

 街から街への移動中、野盗に襲われ、仲間とはぐれてしまったのだと言う。道も分からない森の中で途方に暮れ、魔獣に襲われかけていたところ、白桜たちに会えたのだと教えてくれた。

 この森は、魔族の住む地域に近く、魔獣も多い。白桜たちが近くの街まで送ることを提案すると、アサヒとリルは感謝してもしきれないと言うように何度も頭を下げていた。

 白桜は最初アサヒのことを日本人っぽいと感じたが、気のせいだったのだろう。こちらの世界の言葉を流暢に話しているし、行商をやっているだけあって地理にも詳しく、様々な地域の話を聞かせてくれた。やはりアサヒも、この世界の人間なのだ。

 アサヒは、白桜の話も聞きたがった。アサヒが楽しそうに話を聞いてくれるものだから、つい喋りすぎてしまう。

 日本で流行っているマンガの話を終えたところで、白桜はふと思い出した。

「そういえば、お前の名前のアサヒってさ、日本語にもあるんだよ」

「えっ、そうなの。どういう意味?」

「朝の、太陽の光」

 アサヒはほんの少しだけ目を見開くと、ふふっと控えめに笑った。

「良かった。変な意味じゃなくて」

 その顔を見た瞬間、言葉が口をついて出た。

「あのさ、アサヒって恋人いんの?」

 アサヒが「えっ」と目を丸くする。

 あ、やべ。

 気になってはいたけど、聞くつもりはなかったのに。とはいえ、ここで質問を撤回するのもおかしいだろう。

「あーいや、リルとどんな関係なのかと思ってさ」

 慌てて笑って誤魔化すが、嘘だ。アサヒとリルが恋人でないことは、見ていればなんとなくわかる。

 だが、アサヒは特に(いぶか)しむこともなく、納得した様子で頷いてから、照れるような笑みを浮かべた。

「ああ、えっと……恋人は、その、いるけど、別の人だよ。リルさんはすごく大切な友達で、仲間」

「へえ、そっか」

 アサヒは見た目も雰囲気も、あまり派手なタイプではない。大人しい性格なのだろう。しかし、物腰が柔らかく、聞き上手だ。白桜の経験上、こういうタイプは地味にモテる。

 まあ、そりゃ恋人ぐらい、いてもおかしくないか。

 と、思う自分がいる一方で、少し残念に思っている自分もいる。

 いやいや、なんでアサヒに恋人がいたら残念なんだよ、俺……!

 白桜は慌てて頭を振った。と、マゼンタとともに先頭を歩いていたリルが、歓声を上げる。

「街道が見えてきましたわ!」

「ああ、あと少しで街に着くとも」

 マゼンタの言葉の通り、一行はほどなくして街に到着した。もうそろそろ日が暮れる時間だ。暗くなる前にたどり着けて、ひとまずほっとする。

 アサヒとリルは、街で一番良い宿の宿泊費を奢ると言ってくれた。シロは先を急ぎたがったが、ここ数日は野宿だったため、疲労も溜まっている。ほか三人の圧に負けて、最後はシロが折れた。

 アサヒとリルは夕飯まで奢ってくれた。久々に豪勢な食事にありつき、酒も進む。宿に戻った時には、全員すっかり出来上がっていた。

 ふらふらの足取りで、各々自分の個室に引き上げる。白桜は部屋に入るなり、ベッドに飛び込んだ。ふかふかの布団が、白桜を優しく受け止めてくれる。上質な寝床は何にも代えがたい宝である。これが、白桜がこの世界に来てたどり着いた真理だ。

 眠りについたことすら覚えていないほど、一瞬で寝落ちたらしい。白桜の意識が浮上したのは、かすかにノックの音が聞こえたからだ。

 外はまだ真っ暗だ。飲み足りないと(こぼ)していたイェイロあたりだろうか。

 寝ぼけ(まなこ)のまま扉を開けると、そこに立っていたのはアサヒだった。白桜の意識は、唐突に覚醒した。

「えっ、アサヒ!?」

 思わず声を上げると、アサヒは慌てた様子で人差し指を唇に当てた。白桜が口を抑えたのを見ると、アサヒが紙を見せてくる。

 そこに書かれた文章を見た白桜は、ハッと息を呑んだ。

 ――声を出さないで。部屋に入れてもらえるかな?

 それは、紛れもなく日本語だ。

 白桜はアサヒの顔を見た。自分が困惑しきった表情をしている自覚はある。アサヒはいつも通り、控えめな笑みを浮かべていた。

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