表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/50

重厚感のある扉の前で

 重厚感のある扉の前で、浅緋は大きく深呼吸した。

 ラピスの寝室である。浅緋も寝起きするこの建物は全体的に高級感があるが、その中でもこの扉は、とりわけ風格があった。

 昼間リルに言われた通り、ラピスときちんと話をしよう。

 そう思って部屋で待っていたのに、ラピスは日課の時間を過ぎても、来る気配がなかった。痺れを切らした浅緋は、ラピスの部屋に突撃することにしたのだ。

 建物内なら自由に移動できるようになったものの、いつもはラピスのほうから来てくれるものだから、浅緋のほうから訪ねるのは初めてだ。

 意を決して、扉をノックする。

「ラピス、起きてる?」

 途端に、扉の向こうからガタタッとものすごい音がした。

「えっ、大丈夫?」

 浅緋が大声で呼びかけると、すぐに扉が開いた。

「すまない、椅子を倒してしまっただけだ。驚いて……」

 バツが悪そうに目を逸らすラピスに、浅緋は思わず吹き出した。ラピスにどう話すか緊張していたのが、いつの間にか吹っ飛んでしまった。

「あまり笑ってくれるな」

「っふふ、ごめんごめん」

「その……入るか」

 ラピスが扉を大きく開く。浅緋はお言葉に甘えて、部屋に足を踏み入れた。

「お邪魔します」

 室内は、浅緋の部屋と同じく、黒を基調にした落ち着いた雰囲気だった。しかし、壁や窓枠、調度品などに、彫刻や宝玉による美しい装飾が施されている。

 高級感のある部屋だが、客を招くことはまったく想定されていないのだろう。椅子は一人がけのものが一脚あるだけだ。

 ラピスに促されて、椅子に座る。ラピスはベッドの縁に腰掛けた。

「ごめんね、夜遅くに」

「いや、こちらこそすまなかった。どう話せば良いのかと怖気付いていたら、こんな時間に」

「そっか」

 へそを曲げて部屋に来なかったのでは、とも思っていたので、ひとまず安心する。

 浅緋は椅子に座り直して、ラピスの顔を正面から見据えた。

「ラピス、あの件なんだけど。オレはやっぱり、オレが勇者に接触する作戦が、一番良いと思う」

 ラピスは、何かを言いたそうに口を開いた。しかし結局、もどかしげな表情で口を閉じる。

 ラピスはため息を()いて力なく項垂(うなだ)れると、ようやく話し始めた。

「以前、タン・ソルの体質魔法で、浅緋が目覚めなかったことがあっただろう」

「うん」

「浅緋が眠っている間……本当に、生きた心地がしなかった」

 ラピスが、膝に置いた両手を、ぎゅっと握りしめる。

 浅緋は立ち上がって、ラピスの隣に腰掛けた。二人分の重みで、ベッドがギシリと音を立てる。

 顔を上げたラピスと目が合う。その顔が、くしゃりと歪んだ。

「頼む……行かないでくれ」

 ラピスの金色の瞳が、ゆらゆらと色を変える。水面(みなも)みたいだ。

 ベッドに置いていた浅緋の手に、ラピスの漆黒の手が重ねられた。緊張からか、その手はいつもより少し冷たい。

「浅緋がそばに居てくれることは、私にとって信じがたいほどの奇跡だ。五年前のあの日から止まっていた私の時間は、浅緋のおかげで動き出した。……浅緋にもしものことがあれば、私の時計は再び止まってしまう」

 ラピスが再び「頼む……」と目を伏せる。その声は震えていて、痛切だった。

 それでも浅緋は、首を横に振った。

「ごめんね、ラピス。でも、これはやっぱり譲れない」

「……なぜ」

 ラピスが、掠れた声でつぶやく。

 浅緋は、重ねられた手の下から自らの手を引き出し、ラピスの手に重ねた。

 ゆるゆるとこちらを向いたラピスの顔を、しっかりと見上げる。

「ラピスのことが、好きだから」

 途端に、ラピスの目が大きく見開かれた。そのまましばらく固まったのち、手で顔を覆って長く息を吐き出す。

「……それは、ずるくないか」

 ラピスが指の隙間から、(うめ)くように言う。

 浅緋は小さく笑って、重ねた手を握った。

「オレは、ラピスに生きてほしい。だから、作戦は譲れない。でも、絶対に無事に帰って来るって約束する。……だってオレがこの作戦にこだわるのは、ラピスと一緒に生きるためだから」

 だから、大丈夫。

 握った手はあたたかい。ラピスが観念したように、脱力して笑いを漏らした。

 浅緋が待っていると、ラピスが姿勢を正して、こちらを向く。

「危険な真似はしないと、約束できるか」

「うん」

「何かあればすぐに作戦を中止し、迷わず逃げると約束してくれるか」

「うん」

「キスしても良いか」

「うん……うん!?」

 今なんて、という言葉は、声にならなかった。

 ラピスの唇で、塞がれたからだ。

 ほんの一瞬、唇にやわらかな感触があった。浅緋がその意味を理解できたのは、ラピスの顔が離れてからだった。

 理解した途端に、ドッと心拍数が上がる。

 顔が熱い。自分で自分の心音が聞こえる。

「そ、それは、ずるくない……?」

「お互い様だろう」

 ラピスがいたずらっぽく微笑む。

 二人は同時に吹き出すと、どちらからともなく指を絡めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ