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お茶の香り漂う室内は、緊張感に満ちていた

 会議の翌日、心地よい昼下がり、お茶の香り漂う室内は、緊張感に満ちていた。

 リルとタンは、先ほどから無言でアイコンタクトを交わしつつ、チラチラと浅緋のほうに目を向けてくる。

 理由は聞かなくても察しが付く。が、あまりの居心地の悪さに、浅緋は一応声をかけることにした。

「二人とも、何か気になることでもあるの?」

 二人はギクリと動きを止めたかと思うと、浅緋のほうへそろそろと近付いてきた。リルが恐る恐るといった風に口を開く。

「あの……浅緋さま。陛下とは仲直りできまして?」

 まあ、そのことだよね。

 浅緋は苦笑した。ここで頷ければ、どれだけ良かったことか。

「あー、実は昨日の会議の後、夜に日課の情報共有の時間があって、ラピスに会ったんだけど」

「まあっ!」

「さらにこじれた」

「まあ……」

 リルが忙しなく表情を変える。

 そう、昨日の会議の後、夜になるといつも通り、ラピスが訪ねてきた。そして、入室するなりラピスが言い放った。

「それで、あの計画については考え直したか」

 その言葉にカチンときた浅緋は、「は? オレの意見は変わらないけど?」と言い返してしまった。その後も議論は平行線の一途を辿り、最終的にラピスを部屋から追い出した。この日課が始まって以来の、滞在時間最短記録を更新したと思う。

 浅緋がざっと状況を説明すると、タンは堪えきれないとでも言うように笑い出した。

「ッハハ! アンタ、俺が思ってたよりすごい人だね!」

「んもう、笑いごとじゃありませんわ!」

「だって、陛下に喧嘩売るなんて! 昨日の会議のこと、兄様から聞いたけど、恐ろしすぎて呼吸すらできなかったって言ってたよ」

 浅緋は「はは……」と頭を掻いてから続けた。

「別にオレは、ラピスと喧嘩したいわけではないんだけどね」

 その言葉を聞いたリルが、不思議そうな顔でこちらを向く。

「まあ……それでは、どうして譲って差し上げませんの? 私、少し意外でしたわ。浅緋さまはいつもお優しいから」

「うーん……今回の件については、オレが言った作戦が一番成功しやすいと思ってるから、かな」

 それなのに、と浅緋は顔を曇らせた。

「ラピスが反対するから。オレは、ラピスが殺されるなんて絶対に嫌だから、最大限できることをしたい。なのに、ラピスはオレのこと信頼してないみたいだし……」

 言っているうちに、だんだん腹が立ってきた。素直に頼ってくれれば良いのに、ラピスのやつ。

 しかし、話を聞いていた二人は顔を見合わせると、リルはくすくすと笑い始め、タンは呆れ顔でため息をついた。

「えっ、何その反応」

 浅緋が戸惑っていると、リルが口を開く。

「浅緋さま、やっぱりもう一度、陛下としっかりお話しになるべきですわ」

「それはそうしたいけど……また喧嘩になるかも」

「それでも、ですわ。だって、陛下も浅緋さまも、同じことを思ってらっしゃるんですもの」

「ん? どういうこと?」

 浅緋が尋ねるが、リルは答えてくれない。代わりとでも言うように、浅緋のカップにお茶のおかわりを()いでくれる。良い香りだ。

「浅緋さま」

 浅緋が一口飲むと、リルが改まった顔で姿勢を正した。思わず浅緋も背筋が伸びる。

 リルが続ける。

「実は私、浅緋さまの作戦には反対でしたの。でも、浅緋さまの覚悟を知って、気持ちが変わりました。……私も、浅緋さまの作戦に賛成いたしますわ」

「リルさん……!」

 ありがとう、と浅緋が言おうとするのを制して、リルが「ただし!」と付け加える。

「作戦を実行する際には、私も同行いたしますわ」

「えっ!」

 思いもよらぬ条件に、浅緋は目を丸くした。

 たしかに、マーシュ人の中では、リルは『彼の国』の人々に紛れやすいだろう。それでも、もし過激派であるブランに、リルがマーシュ人だと気付かれたら? 考えるだけでゾッとする。

 不安が顔に出ていたのだろう。リルがふふ、と笑った。

「大丈夫ですわ、浅緋さま。隠し通す自信はございますもの。むしろ、ずっとコンプレックスだったこの外見のおかげで浅緋さまのお役に立てるなら、こんなに嬉しいことはございませんわ」

「でも、何かあったら……」

「……浅緋さま。それはきっと、陛下が浅緋さまに対して思ってらっしゃることではありませんこと?」

 ハッとする。リルの言う通りだ。気付けば自分も、ラピスと同じことを口走っていた。だとすればこの言葉は、信頼のなさの表れではなく――。

「決まり、ですわね」

 浅緋が口ごもった隙に、リルが微笑む。

 断る言葉が見付からなかった浅緋は、頭を下げた。

「ありがとう、リルさん」

 途端に、リルの顔がほころぶ。

「どういたしまして、ですわ。浅緋さまは私の、はじめての友人ですもの!」

 すると、黙って二人の会話を聞いていたタンが、「浅緋サマ」と声をかけてきた。

「タン?」

「リル様に先を越されたけど。俺も、作戦を実行するときは、護衛として影からアンタのこと守るから」

 タンが「安心しなよ」と言ってニヤリと笑い、手を差し出してくる。

 浅緋は、タンの言葉を思い出した。

 ――今度こそ、ちゃんと守りきるから。

 過去の夢から目覚めたとき、タンに言われた言葉だ。

 だから浅緋もニヤリと笑って、タンの手を握る。

「うん、信頼してる」

 その様子に、リルが首を傾げた。

「やっぱりお二人とも、突然仲良しになられたような……一体何がありましたの?」

 浅緋とタンは顔を見合わせた。今度は二人揃って、リルにニヤリと笑う。

「秘密!」

「秘密、です」

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