方針が固まったのち
勇者側との対話を目指す、という方針が固まったのち、議題は自然とその方法に移った。
「対話をするにしても、やっぱり勇者は引き離したほうが良いのではないかしら。勇者だけ、あるいは勇者抜きのパーティだけなら、何かあっても対処しやすいでしょう?」
トアの言葉に、ほかの四魔賢が同意する。
ラピスも「私もそう思う」と同意を示したあと、続けた。
「まず対話するとしたら、勇者のほうを狙うべきだろう。勇者の加護の力は脅威だ。先に取り込んでおきたい。ただ、こちらの思惑が露呈すると、先代の時と同様、ブランが勇者を操って攻撃してくる恐れがある。そこで、スタルの幻術を使おうかと考えている」
コイズが「ああ」と納得したように声を漏らした。
「勇者を引き離している間、スタル殿が勇者のふりをするのですね」
コイズの言葉に、ラピスが「そうだ」と同意する。
つまり、何らかの方法で勇者をパーティから引き離して、マーシュ側が接触する。その間、スタルが勇者のふりをして、勇者パーティとともに行動する、という作戦のようだ。
でも、それって。
「どうやって勇者だけを引き離すつもり?」
浅緋も抱いた疑問を口にしたのは、トアだった。
「誘拐でもする? でもそんなことをしたら、勇者は話を聞いてくれないわよね。かといって、勇者への接触は、ほかのパーティメンバーに気付かれてはいけない……」
「ああ。まさに、そこが問題だ」
ラピスが顎に手を当てて考え込む。四魔賢のほうも良い案はないらしく、各々思案顔になった。
つられて、浅緋も考える。
マーシュ側が接触したことを勇者パーティに悟られてはいけない、そして、勇者の信頼を得なくてはいけない。
そこまで考えて、浅緋はハッとした。
見つけたかも。たぶん、一番良い方法。
相変わらず静まり返っている出席者たちを見回しながら、浅緋は手を挙げた。
「あの……オレが勇者パーティに接触して、こっそり勇者を説得するのはどうでしょう?」
途端に、四魔賢の視線が突き刺さる。はじめは怪訝な顔や驚いた顔をしていた四人だが、すぐにその意味を理解したらしい。
「なるほど。たしかに、良い手かもしれません。贄川浅緋殿なら、『彼の国』の人間と見分けがつかない」
「ああ。それに、勇者にも警戒されずに済むかもしれんな」
「すごいわ、浅緋ちゃん。そんな方法があったのね」
四魔賢が口々に賛同の意を示す。パーズも、相変わらず口は開かないが、こくこくと頷いている。
が、会議室に突如、ラピスの大声が響いた。
「絶対に駄目だ!」
浅緋はギョッとしてラピスのほうに目を向ける。
ラピスは立ち上がり、浅緋のほうへ身を乗り出していた。
会議室は水を打ったように静かだ。浅緋は、ヴェールに覆われたラピスの顔をまっすぐ見て、「どうして?」と尋ねた。
「危険すぎる。そんなことさせられない」
「別に戦いに行くわけじゃないよ。話をしに行くだけ」
「もしもパーティにブランがいたら、言語魔術を使っていることはすぐに気付かれる」
「〈オレがどれだけ共通語の練習をしてると思ってるの?〉」
「そもそも浅緋はマーシュ人ではないだろう」
その言葉に、浅緋はムッとした。思わず、棘のある言葉が飛び出す。
「なにそれ。これだけ協力してるのに、まだオレのこと仲間じゃないと思ってるんだ」
つられるように、ラピスの語気も強まる。
「だからこそだ! これだけ協力してもらっているのだから、命まで懸ける必要はないと言っている!」
その時、「ラピスちゃん!」と鋭い声が飛んだ。見ると、四魔賢の面々が、何かに耐えるように辛そうな顔で俯いている。
あ、そっか。威圧の力……。
ラピスもすぐに気付いたらしく、居心地悪そうに着席した。
「すまない……」
「ううん、いいのよ。私は浅緋ちゃんの作戦、良いと思うわ。もし実行するなら、全力で浅緋ちゃんの身の安全を守ると約束する。でも、陛下の言うことも一理ある。だから、ちゃんと二人で話し合って、結論を出しなさい」
トアが「皆、それで良いわね?」と円卓を見回す。ほかの四魔賢もそれに同意したことで、ひとまず会議はお開きとなった。




