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親愛なる 次の魔王へ

〈親愛なる 次の魔王へ〉

 そう書かれた表紙を、ラピスが震える手で開く。しかし、中身を見てひとつ息を吐くと、すぐさま浅緋にノートを渡してきた。

「え? オレが読んでいいの?」

「ああ、中を見てみろ」

 言われるままに表紙を開くと、最初のページには共通語が書かれていた。

〈このノートは秘密に異世界人に渡すして、お願い〉

 文法はかなり怪しいが、「こっそり異世界人に渡してほしい」ということだろう。他のページをざっと確認するが、すべて日本語で書かれている。最初の文章を見るに、共通語の筆記はまだまだ勉強中だったらしい。

「これは、浅緋に託す。持っていてくれるか」

「……うん。わかった」

 浅緋は頷いた。勇者・萌黄の手記自体が持つ意味も、それをラピスが託してくれる意味も、とても重い。でもそれは信頼の重みだ。ならば、浅緋はそれに応えたい。

 手記捜索中だった他のメンバーにも声をかけ、宿泊先の村に戻る。浅緋は食事もそこそこに、部屋に引き上げて手記を読み始めた。

 手記の日本語の部分は、勇者・萌黄からのメッセージで始まっていた。


 ――あなたは、僕の次の勇者でしょうか。このノートを受け取っているなら言うまでもないかもしれませんが、魔族(マーシュ人)は悪ではありません。魔族が魔獣を操って人々を襲わせているという話も、嘘です。

 ――このノートは、元々日記のつもりで書いていたものです。でも、僕になにかあった時、あなたに真実を伝えられるよう、ノートを隠すことにしました。

 ――このノートのことは、パーティの仲間にも秘密にしてください。あなたが本当に信頼できると思った人だけに、共有してください。

 ――木村萌黄


 間違いなく日本語だ。自分以外の書いた日本語を見るのがあまりにも久しぶりで、なんだか不思議な感じすらする。

 最初に書かれていた通り、ノートのほとんどは日記だった。仲間を集めた、魔獣を倒した、人助けをした、といった記述が続く。フィクションでは何度も見たような展開だが、これを書いた人間は、この旅を本当に経験したのだ。浅緋には真似できる気がしない。

 やがて、萌黄は先代魔王と接触し、マーシュ人に対する考えを改める。そして、先代マーシュ国王とともに、世界で初めて、両国民合同の村を試験的に作った。今からほんの、六、七年前の話だ。

 ここまでは、タンの記憶やこれまで聞いた話から、浅緋が想像していた内容と、そうかけ離れてはいなかった。

 雲行きが怪しくなったのは、魔法使い・イトの名が多く出てくるようになってからだ。

 魔法使い・イトは、一番最初に萌黄の仲間になった人物だ。そして、タンの記憶では、萌黄が共通語で〈仲間の魔法使いが、魔族の手により殺された〉と言っていたはずだ。恐らくこのイトが、殺されたという魔法使いだろう。

 最初に仲間になっただけあって、当然日記の序盤から登場はする。しかし、他のメンバーよりも問題行動が少ないのか、名前が出てくる頻度はそう高くなかった。だが、先代マーシュ国王との和解、村の設立のあたりから、それが一変する。

 萌黄と、魔法使い・イトの考えが、対立したのである。

 マーシュ友好派の萌黄に対して、イトは絶対に魔族とは相容れないという思想の持ち主だった。

 しかし、萌黄は忍耐強かった。意見が食い違うたびにイトを説得し、対立が決定的になることを避けていたようだ。

 そして、村ができてから数ヶ月が経ったころ、萌黄はイトと一対一で話し合うことにしたらしい。

 イトとの対話を終えた萌黄の日記は、こう始まっていた。

 ――魔法使い・イトは、大魔法使いブランだ。

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