すっかり日常が戻ってきた?
タンに突っかかっていた少年三名への処分は、軽いものとなった。タンの体質魔法の秘匿のため、また、浅緋・タンともに事を荒立てたくないと意思表示したためだ。
浅緋が目覚めてから数日、浅緋もタンも体調が回復し、リルも風邪が治り、すっかり日常が戻ってきた。
……はずだったのだが。
「あのさ、一応確認なんだけど。陛下と浅緋サマって、付き合ってはないんだよね?」
庭園でのお茶会の最中、タンによって、突如爆弾が落とされた。
飲んでいたお茶が気管に入り、浅緋は思いきり噎せた。その隣で、リルが勢いよく立ち上がる。
「どっ、どどどどどういうことですのっ!? 詳しくお願いしますわ!」
「だってなんか親密な感じだったし」
「親密な!?」
「手とか繋いでたし」
「手を!?」
浅緋がゲホゲホと苦しんでいるうちに、二人の間で会話が進んでいく。なんというか、リルがこれまでで一番興奮しているように見えるのは、気のせいだろうか……。
どうにかこうにか呼吸を落ち着かせ、浅緋は二人を制止した。
「ちょっと待って、二人とも。確かにラピスとは仲良くなれてると思うけど、恋人ではないし、そういった話が出たこともないよ」
浅緋が言うと、リルが「はい、浅緋さま」と神妙な顔で挙手した。
「はい、リルさん」
勢いで指名すると、流れるように質問タイムが始まった。
「それではどうして手を繋がれましたの?」
「え! えっと、オレにもよく分からないんだけど、多分暗かったから手を引いてくれたんじゃないかと」
「では、繋がれたのは陛下から?」
「う、そうだけど……」
「でも浅緋さまは断らなかったんですわね? それって嫌ではなかった、ということですわよね?」
「ま、まあ嫌では、なかったけど……」
浅緋の答えを聞いた途端、タンとリルが顔を見合せた。
「これは、ありますね」
「ええ、ありますわね」
「何が!?」
浅緋の叫びも虚しく、恋愛名探偵リルが追撃してくる。
「ちなみに浅緋さま、手を繋ぐ以外のこと――キスとかハグとかは、されていませんわよね?」
「うぐっ」
クリティカルすぎる。恋愛名探偵の目が光った。
「なんですの、その反応は! まさかキスを……」
「しっ、してない! キスはしてないよ!」
「へえ、じゃあハグはしたんだ」
今度はタンに核心を突かれ、浅緋は押し黙った。これ以上口を開いたら、余計なことを言いそうで怖い。いや、探られて痛い腹はないけど!
リルは大きな瞳をキラキラさせて、「浅緋さま!」と顔を覗き込んできた。
「私は、いつでも浅緋さまの味方ですわ! 全力で応援いたしますわね!」
だから何を!?
と、叫びたくなるところをぐっとこらえて、浅緋は両手を振って二人の勢いを遮った。
「おわりおわり、この話おわり! そもそもオレだって、タンにお兄さんとの関係について言いたいことあるからね!」
「ばっ、俺に話を振るなよ!」
タンが途端に慌て出すが、止まるつもりはない。
「タンって、お兄さんのこと『コイズ様』って呼んでるし、関係が悪いのかなとか心配してたのに、ただ憧れてるだけなんでしょ?」
「まあっ! そうでしたの?」
リルが幼子を見るような優しい目でタンに微笑みかける。タンは居心地悪そうに視線を逸らした。
「俺のことは別にいいだろ……」
「よくないよ、オレたち友達でしょ? 『兄様』とか呼んだら喜ばれると思うんだけどなぁ」
「にっ、にいさま? ムリムリ、恐れ多いって!」
形勢逆転してタンを追い詰めていると、リルがふと口を開いた。
「先ほどから思っていたのですけれど……お二人とも、いつの間にこんなに仲良くなりましたの?」
「えっ」
「あっ」
そういえば、リルにはタンの能力のことを伝えていないんだった。
すっかり忘れていた、とタンのほうを見れば、同じような表情のタンと目が合う。
「それは、秘密かな」
「それは、秘密です」
二人で声を合わせて返事すると、リルは「ええっ!」と仰け反った。
「もうっ! 私が体調を崩している間に、お二人ばっかり仲良くなってズルいですわーっ!」
抜けるような青空に、リルの叫びが響き渡るのであった。




