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外出解禁から数週間

 外出解禁から数週間経った。日々のルーティンも定まってきたある日、イレギュラーが起きた。

 リルが、風邪をひいたのである。

 朝、リルの代わりにやってきたタンが、事情を話してくれた。軽い風邪だが、浅緋にうつしてはいけないからと、気を遣ってくれたらしい。

「ま、そういうわけだから。今日の外出はなしで良いよね」

 タンがそう切り上げようとするのを、浅緋は「あ、待って」と止めた。

「タンさんさえ良ければ、今日も外出、お願いできないかな」

「は? 俺と?」

「うん」

「二人で?」

「うん」

 タンが「正気かコイツ」とでも言いたそうな顔で見てくる。しかし、浅緋が「ダメかな?」と首を傾げると、タンのほうが折れた。

「はあ……わかったよ。じゃあ、朝食の後ね」

「うん、ありがとう」

 リルの代わりにタンが運んできてくれた朝食をいただいてから、二人で外に出る。

 最近は、浅緋が外出するからと言って人払いもしていない。時折、城内の人を見かけることもある。

 今日は、庭園を一周することになった。浅緋たちが、頻繁に使っているルートだ。タンは特段嫌そうな顔をするでもなく、きちんと周囲を見ながら浅緋を先導してくれている。

 今日の外出をお願いしたのは、歩きたかったから、というだけではない。タンとの距離を縮めたかったのだ。一緒にお菓子作りをしてからは、タンの浅緋への態度も、かなり軟化したと思う。それでも、普段三人で外出したときはリルと浅緋の会話が九割だし、タンの異世界人に対する感情は、根本からは変わっていない。浅緋としては、タンの優しさや真面目さを確信しているからこそ、仲良くなりたいのだが。

 半歩前を行くタンに「今日はありがとう」と声をかけてみる。タンはちらりと振り返ったが、すぐに前へ向き直ってから「別に」と口にした。

 そのまま歩いていると、タンが「あのさ」と口を開いた。

「アンタ、なんで俺にどんな態度とられても、怒ったりしないわけ? 俺、異世界人嫌いなんだけど」

 こちらを向いていないため顔は見えないが、声色から、本当に困惑しているのが伝わってくる。どうやらこれは、いつものつっけんどんな言動とは違う、素直な疑問のようだ。であれば、誠実に応えたい。浅緋は少し考えてから、答えた。

「オレ、そもそも、タンさんに対して怒りとかは、感じたことないよ」

「……なんで?」

「だってタンさん、オレ個人のことが嫌いなわけじゃないでしょ」

 浅緋が言うと、タンはぐっと押し黙った。図星、なのかもしれない。

 そう、タンからの態度は確かに友好的とは言えない。それでも、タンから人格を否定されたり、浅緋個人に対して攻撃的な言葉をかけられたりしたことは、一度もない。

 少しの間逡巡するように黙りこんだタンが、黒手袋に包まれた両手をぎゅっと握りしめた。

「それでも俺は、異世界人を許すわけにはいかない」

 タンの声は固い。

 タンは「許せない」でも「許さない」でもなく、「許すわけにはいかない」と言った。その言葉は、まるで自分自身にかける呪いのように聞こえた。

 なんと返せば良いか迷ったが、浅緋は少し話を逸らすことにした。なんとなく、タンは自分自身のことを話したがっていないような気がする。

「でもタンさんは、オレの護衛をきっちりやってくれてるよね。それも、オレがタンさんのことを怒る気にならない理由かも」

 わざと明るい口調で言うと、張り詰めた空気がほどけ、タンが肩の力を抜くのを感じた。

「当たり前でしょ、仕事なんだから。俺に任せてくださったコイズ様の顔に泥を塗るなんて、絶対嫌だし」

 コイズ様――たしか、コイズ・ソルという名の、浅緋の外出に反対した人物だったはずだ。そして、タンの兄でもあるはずなのだが。

 お兄さんに対する呼び方にしては、かなり他人行儀なような……。

「タンさん、コイズさんって――」

 お兄さんだよね、という言葉はしかし、声にならなかった。タンが突然立ち止まったためだ。

「タンさん?」

 浅緋がたずねると、タンから「動かないで」という鋭い声が飛んできた。

 タンは前方へ視線を固定しつつ、浅緋を庇うように左腕を広げた。

「誰だ」

 タンが前方へ、硬い声で問いかける。あたりがしんと静まり返る。しかし、タンが「返事がないなら、攻撃する」と言うと、ガサガサと音を立て、茂みから三人の少年たちが出てきた。

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