ようやく焼きあがった
「ん〜! 美味しいですわ!」
ようやく焼きあがったカルクロメを一口食べたリルが、それはそれは幸せそうに顔をほころばせた。
続けて浅緋も、カルクロメをひとつ手に取る。カルクロメは、小さな球状のクッキーのような見た目だった。……色はショッキングピンクだが。
可愛らしいとも毒々しいとも言える色合いのそれを、えいやっとばかりに口に入れる。瞬間、浅緋は目を見開いた。
お、おいしい……!
生地に加えたショッキングピンクの粉は果実から出来ているのか、甘さと酸味が絶妙なバランスだ。噛むと、サクッとした軽い食感のあと、ホロホロと口の中で崩れ、溶けていく。おいしい。ものすごくおいしい。
リルが本領を発揮して淹れたお茶も相まって、先程までのドタバタが嘘のように、優雅なティータイムが完成している。
お菓子作りを手伝ってもらったことで、リルはタンへの態度を改めることにしたらしい。テーブルにはタンのためのお茶も用意されているが、タンは口をつけようとはしない。
「タンさんも一緒にどう?」
立ったままのタンに浅緋が試しに聞いてみると、呆れ顔が返ってきた。
「言っとくけど俺、仕事中だから」
それもそうだ。浅緋の護衛中だと言われては、無理強いはできない。
でも、タンさんがいなかったら、こんなに美味しいカルクロメは食べられなかったしなあ。
何かお礼ができないか、と考えて、浅緋は立ち上がった。
「リルさん、どこかに袋ないかな」
「袋、ですの?」
「うん。お菓子を入れられるやつ」
浅緋が言うと、リルも意図を察したようで「まあっ」と瞳を輝かせた。
「そういうことでしたら、綺麗な袋が良いですわね!」
リルはいそいそとティーセットのワゴンを漁り、色とりどりの袋をいくつか取り出した。
「こちらはいかがでして?」
リルが持ち上げたのは、青い袋だった。オーガンジーのような透け感があり、控えめながら細かい刺繍が美しい。
「いいね! じゃあそれと……これも、貰ってもいいかな」
浅緋が手に取ったのは、同じく透け感のある、黒い袋だった。留める紐は淡い青色で、金色のトンボ玉のようなものが、紐に付いている。
「もちろん構いませんけれど……こちらの袋はタン様に差し上げるものですわよね。そちらはどなたに?」
「これは、ラピスに」
甘いものが好きかはわからないけど、と浅緋が付け加えると、リルはいたく感動したらしく、勢いよく手で口元を抑えた。大きな青緑色の瞳が、キラキラと輝いている。
「浅緋さま……! 陛下もきっと、お喜びになりますわ!」
「だといいなぁ」
浅緋は笑って返しつつ、二つの袋にカルクロメを数個ずつ詰めた。そのうち青い袋のほうを、タンに手渡す。
「作り方、教えてくれてありがとう。タンさん」
浅緋が笑いかけると、タンは仕方ないとばかりにため息を吐きながらも、素直に受けとってくれた。
「ま、作ってるところ見てたし、これ食べて体調崩すことはないかな」
相変わらずの憎まれ口も、あの面倒見の良さを見たあとだと、微笑ましいとすら思えてくる。表情を見るに、リルも同じように感じているようだ。タンが「ちょっと、なんですかその表情は!」と睨んできても、二人のあたたかい眼差しが変わることはなかった。




