ああもう、見てらんない!
「ああもう、見てらんない!」
突然の声に驚いて振り向くと、これまで静観していたタンが、肩を怒らせてこちらを睨んでいた。
「一体どれだけ材料を無駄にすれば気が済むわけ?」
言いながら、タンが厨房の窓を空けてまわる。室内の空気が流れ、充満していた煙が外へ押し出されていく。
そのままずんずんとこちらへ歩いてきたタンは、残った材料を見て「よし」と腕まくりした。
「これなら、カルクロメなら作れる」
浅緋が「カルクロメ?」と首を傾げると、リルがすかさず「小さな焼き菓子ですわ」と補足してくれた。
「タンさん、手伝ってくれるの?」
浅緋がタンに問いかけると、タンはハア、とため息をついた。
「俺がいくら護衛したところで、アンタ自身が作ったもので死なれたら意味ないじゃん」
「うぅ、仰るとおりです」
浅緋は項垂れた。さすがに死にはしない、と言いたいところだが、先ほどの緑の煙を見てしまうと、ないとは言いきれない。
タンはそんな浅緋を一瞥して鼻を鳴らしてから、「じゃ、アンタはまずボウルを洗って。後で使うから、ちゃんと拭いてよ」と指示を出し始めた。
タンの指示は的確かつ簡潔で、わかりやすかった。先ほどまでの大混乱が嘘のように、順調に材料の準備が整っていく。
「それじゃあリル様、アッサールは小さめの器に、別々に、十Gと五G入れといてください」
「では、合わせて十五Gですわね!」
「別のタイミングで使うから分けて入れろって言ってんだろですよ」
……やっぱり、順調ではないかもしれないが。
「じゃあ次は、これをヘラで切るように混ぜてください」
「あら、切るのでしたらハサミのほうがよろしいのでは……」
「切るようにってのはホントに切るわけじゃねえんだよ、ですよ!」
先ほどから敬語がおかしなことになっているタンを見かねて、浅緋は助け舟を出した。
「リルさん、オレ、代わるよ」
リルからボウルを借り受け、ヘラを立ててさっくりと混ぜていく。
「へえ、上手いじゃん」
タンが感心したようにつぶやくのが聞こえ、時々作ってて良かった、とこっそり胸を撫で下ろした。
「これくらいで良いかな?」
ボウルを見せると、タンは「ああ」と頷いて、「じゃあ次に」とテキパキと指示していく。
やっぱり、タンさんって根が良い人なんだな。
昨日から感じてはいたことだが、確信に変わる。
ただ、一つだけ、気になることがあった。タンは指示を出してくれるものの、手を動かそうとはしないのだ。
はじめは、元々作りたがっていたリルと浅緋に、作業を譲ってくれているのかとも思った。しかし、口で伝えるのに限界を感じるような時でも、頑なに実演しようとはしない。さらに言えば、調理には明らかに向かないであろう黒手袋も、着けたままだ。
これだけお菓子作りに詳しいんだし、自分でも作ってそうなのにな。
パーソナルなことかもしれないし聞かないでおこう、と思いながらも、いつの日か教えてもらえることを夢見てしまう浅緋であった。




