険悪な雰囲気とは裏腹に
険悪な雰囲気とは裏腹に、空は晴れ渡っていた。
城内の庭園には小川が流れ、それに沿って柳のような木々が植えられていた。さらに、見上げるほど高い木々も繁っており、黄緑色の木漏れ日が目に優しい。赤紫色や青緑色など、色とりどりの可憐な花がついた低木もあり、管理が行き届いていることがうかがえる。
爽やかな風を感じながら、浅緋は伸びをした。マーシュでの生活に不満はないつもりだったが、いざ外に出てみると、随分と身体が凝り固まっていたことに気付く。
当初はどこへ出かけようかとリルが盛り上がっていたものの、タンがストップをかけた。浅緋にとっては久々の外出であること、不特定多数の人間がいる場所は護衛が難しくなることから、しばらくは城内の外出に留めてほしいと言う。今日は浅緋の外出に合わせて庭園の立ち入りを規制してあるとのことで、リハビリがてら散歩をすることになったのだ。
タンは「護衛の仕事はする」という言葉のとおり、無愛想ながらもしっかりと周りを警戒してくれていた。怪しい影がないか移動中も常に左右を確認し、物音がすれば浅緋を庇える位置に素早く移動する。なんだか、とても偉い人にでもなったような気分だ。
やっぱり、悪い人ではなさそうなんだよな。
タンを見ていると、そう感じる。はじめにリルに挨拶したときの丁寧さや、護衛の仕事への真剣さを見るに、真面目で人当たりの良い少年であるように思えるのだ。だからこそ、異世界人に対する憎悪にも、理由があるような気がする。
浅緋がタンをそれとなく眺めながら、あれこれ考えていると、リルから「浅緋さま」と声をかけられた。
「明日以降の外出で、何かなさりたいことはございまして?」
「明日以降かぁ」
まだ城外に出ることができない以上、できることは限られる。今日の散歩も気持ちいいし、明日もこれでも良いけど……と考えていて、一つ思いついた。
「そうだ、お菓子作りとか、できないかな」
「お菓子作り……ですの?」
「うん、この国に来て食べたものが全部美味しかったから、どうやって作ってるのか知りたくて」
「わかりましたわ。厨房を借りられないか、掛け合ってみますわね」
リルが「タンさまも、それでよろしいですわね?」と厳しい口調で問う。これなら文句ないでしょう、とでも言わんばかりの雰囲気に、浅緋は苦笑した。タンの浅緋に対する態度が、よほど腹に据えかねているらしい。
タンが「構いませんよ、厨房なら護衛も楽ですし」と頷いたことで、明日の予定は決まった。
そんなこんなで迎えた翌日――厨房は悲鳴に包まれていた。
「きゃあっ! どっ、どうしてこんな色になりますの!?」
「落ち着いて、リルさん……って、うわっ! 何この煙!」
リルが混ぜていたボウルから出てきた緑色の煙を吸い込んでしまい、二人してごほごほと咳き込む。
本当に、どうしてこんなことに……。
昨日、早速リルが厨房を借りる許可を取ってくれたのは良かった。そして、レシピや材料も料理人の方々が用意してくれて、これまた順調だった。予想外だったのは、リルがまったくの料理初心者だったこと、そして、浅緋もマーシュの食材とは、まったくの初対面だったことだ。
手探りの料理が上手くいくはずもなく、二人で右往左往しているうちに、気付けば煙が上がっていた。
「うぅ、ど、どうしましょう……食材の残りが少なくなってしまいましたわ」
「この量だと、もらったレシピ通りにはできなそうだね……」
お菓子になるはずだった残骸と、半分ほどに減ってしまった材料を見て、肩を落とす。
と、そこで「ああもう、見てらんない!」と声がした。




