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勇者の能力

「いや。たとえば、浅緋の話から勇者の能力についても見えてきた」

「……え!?」

 そんな話、一切した覚えがない。どういうことかと浅緋が身を乗り出すと、ラピスは漆黒の人差し指を立てた。

「以前、勇者の能力――魔王の威圧を数人分無効化できる力については話したな」

「うん」

 たしか、大抵三、四人のパーティで攻めてくるという話だったはずだ。

「そのことから、勇者の能力の効果は少人数にしかかからないことはわかっていた。ただ、浅緋の話から、異世界人が我々の想定よりも遥かに弱いことがわかった」

 ラピスが大真面目な顔で言うものだから、浅緋は「それは否定できない」と苦笑するほかなかった。

 ラピスが続ける。

「異世界人の弱さは、我々マーシュ人はおろか、『彼の国』の人間とくらべても相当なものだ。……だとしたら、この城に勇者を連れてこないほうが良いとは思わないか」

「あ」

 確かにそうだ。勇者の加護を得た『彼の国』の人間数人のパーティで攻めてくれば、わざわざ勇者を守りながら戦う必要もない。それはつまり。

「勇者の加護には、距離的な制約がある……?」

 浅緋が顎に手を当てつつ呟くと、ラピスは頷いた。

「ああ、私もそう思う。だとすると、真正面からパーティ全員と戦ってやる必要はない。勇者をほかのメンバーから引き離せれば、楽に倒せるだろう」

「確かに……」

 浅緋は思わず唸った。

 他愛もない話をしてきたつもりだったが、役に立てているというのは本当らしい。

 感心していると、ラピスが唐突に「すまない」と謝罪を口にした。何事かと見ると、ラピスが不安げな顔をしていて驚く。

「ええと、すまないって、何が?」

「浅緋にとっては、同郷の者を倒すという話だろう」

 ラピスが目を伏せながら口にした言葉に、目を丸くする。言われてみれば確かに、勇者も浅緋と同じ異世界人――それも、恐らく日本人なのだ。

 しかし、浅緋は勇者に対して、不思議なほどなんの感情も抱いていなかった。勇者が同郷だということも、ラピスの言葉で思い至ったくらいだ。それよりもむしろ、ラピスやリルが傷つくほうが、余程つらい。

 薄情かもしれないが、すぐそばにいる親しい人のほうを優先してしまうのは、当然じゃないだろうか。

「ラピス」

 名前を呼び、机の上で握りこまれたラピスの左手にそっと触れる。ラピスはハッとしたように顔を上げた。戸惑うように揺れる黄金の瞳を見つめながら、慎重に告げる。

「オレはべつに良い人じゃないから……よく知らない勇者より、ラピスが傷つくほうが、ずっと嫌だよ」

 途端に、ラピスの瞳が見開かれる。

 ちゃんと伝わった、かな。

 触れていた右手を離そうとしたその時、ラピスの両手に手を包まれた。

「えっ」

 突然のぬくもりに、頓狂な声が出る。

 漆黒の大きな手はあまり力を入れないよう気を付けているようで、そっと触れる程度に握られている。べつにそこまでか弱くないのに、と思うけれど、ラピスが自分のためにそうしていると思うと、なんだかこそばゆい。

 ラピスが長い指で、浅緋の親指の付け根をなぞる。たったそれだけで、全身の感覚がその一点に集中したように感じて、背筋が熱くなった。

「ラ、ラピス……?」

 浅緋がおずおずと名前を呼ぶと、ラピスは噛み締めるように「嬉しかったんだ」と呟いてから続けた。

「本当はずっと、迷いがあった。浅緋の了承を得ているとは言え、浅緋の知識を戦いに役立てて良いものかと……何より、浅緋との会話を、毎日心待ちにしている自分がいたからこそ、尚更」

 ラピスが浅緋を見つめて、ふわりと笑う。浅緋は――浅緋だけが、この顔を知っている。ラピスは心の底から嬉しいとき、こんな表情をする。

「もう少し、こうしていても良いか」

「え、あ、はい……」

 情けない返事が口からこぼれた。でも、返事できただけでも褒めて欲しい。

 だって……だってこんなの、あまりにもずるくないですか!

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