それじゃあ今日は、なんの話をする?
「さてと、それじゃあ今日は、なんの話をする?」
言語魔術の話が一段落ついたところで、浅緋から切り出す。
異世界について教える、という『仕事』を忘れていないと示すためのポーズだ。もっとも、話す内容は雑談でしかないのだが。
「昨日は確か、RPGについて話したよね。今日もゲームについて話す?」
しかし、ラピスは首を振った。
「いや……今日は、私から話したいことがあってな」
ラピスが真剣な顔つきになり、浅緋も自然と背筋が伸びる。
「実は今日、浅緋について、四魔賢と話をしてきた」
「よんまけん?」
「マーシュにおいて、私に次ぐ権力を持つ、四家の当主たちだ。彼らに、浅緋をこの国に迎え入れた経緯を話し、浅緋の外出許可の了承を求めた」
いわゆる、魔王軍四天王、みたいなものだろうか。ラピスが続ける。
「ある程度の反対は覚悟していたのだが、四人中二人は賛成、一人は中立といったところだった。ただ、残る一人が頑固でな。コイズ・ソルというのだが、浅緋が勇者の仲間でないという確証がない以上、信用できないと……」
「まあ、そうだよねえ」
浅緋は苦笑した。自分が逆の立場でも、すぐさま信用することは難しいだろう。
「私としても言葉は尽くしたのだが、あちらもなかなか納得せず……ただ、賛成派のギヤマン・リルハが折衷案を出したことで、一旦は議論が収まった」
「あれ、リルハってもしかして」
「ああ。リル・リルハの父だ。彼が出した折衷案は、浅緋にコイズ・ソル派の護衛を付けるというものだった」
「護衛……」
護衛、と言えば聞こえは良いが、実質としては見張りのようなものたろう。
「もちろん私としては、浅緋の意思を最優先にしたいと思っている。私は浅緋に窮屈な思いをしてほしくないし、できることならこの国を好きになってほしい」
ラピスが真っ直ぐに浅緋を見つめて、「護衛の件、どうだろうか?」と首を傾げる。これまでヴェール越しにしか人と接してこなかったからか、ラピスはしっかりと目を見て話してくることが多い。はじめは落ち着かなかったが、だんだん慣れてきた。……とはいえ、今も少し恥ずかしいが。
「わかった、護衛を受け入れるよ」
浅緋は特に迷うこともなく頷いた。部屋での暮らしに不満はないが、外の世界に興味があるのも事実だ。浅緋に好意的でなくとも、護衛という名目上、まさか殴ってきたりすることはないだろう。
ラピスはホッとしたようで、一気に表情がほぐれた。
「ありがとう。明日、皆に伝えておく」
「うん。オレのほうこそ、色々考えてくれてありがとう。でもオレ、そんなに役に立ててないよね。もっと勇者の人のこととか、知ってれば良かったんだけど」
これまでに浅緋が『仕事』としてラピスに話してきたことと言えば、あちらの世界での生活や娯楽など、他愛もないことばかりだ。一緒にこちらの世界へ来た勇者のことは、同年代の男だったことしかわからず、浅緋は自分の話がラピスの役に立っているとは到底思えなかった。
しかし、ラピスはとんでもないとでも言うように目を見開いた。
「何を言う、そんなことはない。浅緋の話で初めてわかったことは多い」
「え、でもオレ、大した話はしてないような……」
「いや。たとえば、浅緋の話から勇者の能力についても見えてきた」
「……え!?」




