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ここでの生活は退屈ではないか

「浅緋、ここでの生活は退屈ではないか」

 部屋に入ってきて席に着くなり、ヴェールを外したラピスから尋ねられる。

「え? うん。けっこう楽しいよ」

 浅緋がこの世界にやって来て二ヶ月が経ち、毎晩の『仕事』――といっても、ラピスと会話するだけだが――にもすっかり慣れた。ラピスはこの部屋へ来ると、すぐにヴェールを外すのがお決まりになった。相変わらず部屋からは出られない日々だが、ラピスとリルのおかげで特に不満はない。

「そうだ、最近はリルさんに文字を教えてもらってるんだよ」

 言いながら、棚から紙の束を持ってくる。練習した文字でびっしり埋まっている紙を、ラピスが手に取ってまじまじと眺めた。

「ほう……なかなか上手いな」

「ありがとう。といっても、文法とか単語とかは、子どもよりも分かってない程度だと思うけどね」

 ラピスにかけてもらった言語魔術によって、会話には苦労していないが、文字には魔術が適用されないらしい。気付いたのは、リルに暇つぶし用の本を持ってきてもらった時だ。以来、リルに文字を教えてもらうようになった。

 とはいえ、読み書きには必然的に、文法や単語の知識が必要になる。リルには時間の許す限り、この世界の言語を基礎から教えてもらっている。

「言葉を覚えるのは楽しいけどさ、オレてっきり、魔法で読み書きも出来るようになると思ってたよ」

 この世界の魔法は、浅緋が思っているよりも制限が多い、というのが、この二ヶ月での浅緋の感想だった。以前ラピスに魔法で空を飛べるか聞いた時も、ポカンとした顔をされた。

 「そんな簡単にはいかないんだね」と苦笑すると、ラピスが頷く。

「ああ。実を言うとマーシュでは、攻撃魔法以外の研究があまり進んでいなくてな。言語魔術も、『彼の国(かのくに)』に存在したという大魔法使い・ブランによって開発された魔術をそのまま使っているから、応用ができないんだ」

 へえ、そうなんだ、と頷いてから、ふと気付く。

「あれ? その人はマーシュ人じゃなかったんだよね? なのに魔法を使えたの?」

 『彼の国』――すなわち、勇者を召喚している、人間たちの国。そして、マーシュ人を魔族と呼び、ラピスを魔王と呼んでいる国。

 『彼の国』の人間は、その身に魔力を宿していないのではなかったか。

「ああ……そうか、説明していなかったな。『彼の国』の者も、大気中の魔力を使うことで、魔法を使うことが可能だ。マーシュ人の魔法の威力とは比べものにならないが、その分攻撃以外の魔法の研究は、あちらの方が進んでいるのも事実だ」

「へえ……」

 だから言語魔術も向こうで開発された、ということらしい。

「なかでも、千年近く前に存在したという大魔法使い・ブランの功績は大きい。彼の生み出した魔術は、マーシュでもこっそりと輸入され、人々の生活を大きく変えた。まさしく天才、だな」

「そんなすごい人でも、書き文字の翻訳はできなかったのかぁ」

 開発しておいてくれれば楽だったものを、と思いながら、テーブルに向かって伸びをする。もっとも、既に十二分に恩恵を受けている身ではあるのだが。

「言語魔術の仕組みは、翻訳する二つの言語の言語体系を理解することで解き明かせると言われている。浅緋がこちらの言葉をマスターすれば、いつか言語魔術を解き明かし、文字翻訳も可能にできるかもしれないな」

 ラピスが少しだけいたずらっぽく微笑む。浅緋は「荷が重いよ」と笑って返した。

 ラピスはこのごろ、いろいろな表情をするようになった。最初は時折控えめに笑う程度だったのが、今では様々な笑い方をするし、感情がわかりやすくなった。人に感情を見せることを覚えた、と言っても良い。

 ラピスが色々な顔をするたびに、皆も見られたら良いのに、という気持ちと、誰も見られなくて良かった、という気持ちが同時に湧き上がる。

 こんなことを思うオレは、ズルいだろうか。

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