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ヴェールを取ってもらうことって、できる?

「あのさ、ラピス。ヴェールを取ってもらうことって、できる?」

 いつ言おう、どう言おう、と昨晩いろいろ考えていたのに、するりと言葉が出たことに、自分でも驚く。

 ラピスはヴェールの端を摘んで示した。

「……それは顔の、これのことか」

 浅緋が「うん」と答えると、ラピスは考え込むように俯いた。

「あー、ごめん。別に難しいなら良いんだけど……」

 不安になって撤回しかけるが、ラピスに「いや」と遮られる。

「できないわけではない。ただ、あまりに久しく、人前でこれをはずしていなかったからな。驚いただけだ」

「じゃあ、嫌じゃ、ない?」

「ああ。発想がなかっただけで、断じて嫌ではない。……少し待っていてくれ」

 ラピスはそう言うと、後頭部に手をかけた。ヴェールは思いのほかしっかりとした構造のようで、後頭部にいくつかあるらしい留め具をスムーズに外していく。すべての留め具を外し終えると、ラピスはヴェールを両手で取り、浅緋に顔を向けた。

 目が合った瞬間、浅緋は何も言えなくなった。

 その美しさを、なんと表現すれば良いのだろう。造形も美しいのだが、顔が整っている、というだけではない。元々完璧に美しい彫像が、割れたことでさらなる美しさを宿したような、そんな儚くも圧倒的な美しさなのだ。

 最も目を引くのは、漆黒の肌に映える、黄金の双眸だった。

 浅緋は不思議と、父に連れられて見た、早朝の海と砂浜を思い出した。散らばる光は一時も留まることなく、常に姿を変え、色を変えていた。ラピスの瞳も、まばたきをひとつすると、不思議なほど色合いが変わった。しかしその色は決して激しくなく、さらさらとこぼれ落ちる砂のように、優しい静けさを(たた)えていた。

「浅緋?」

 動くのが不思議なほど作り物じみたくちびるが、浅緋の名を呼ぶ。浅緋はハッと我に返った。

「ご、ごめん。びっくりするほど綺麗だから、見惚れちゃった」

 恋愛小説にでも出てきそうなセリフが、自然と口をついて出る。

 ラピスは驚いたようで、切れ長の目が見開かれた。黄金の瞳に光が射し込む。

「綺麗?」

「うん」

「そうか……ありがとう」

 ラピスが柔らかく微笑む。その表情を見た瞬間、浅緋の喉からヒュッと音が漏れた。

 浅緋は断じて面食いではない。が、そんな浅緋でもダメージを食らうほどの破壊力だった。

 さっきまで作り物じみていると感じていたのが信じられないほど、その笑顔は剥き出しのよろこびに満ちていて、黄金の瞳は蜂蜜を流し込まれたように色を変えた。

 これは……皆が見られたら、むしろ大変なことになってた気がする。

 魔王の威圧体質には相当の苦労があるのだろうが、かえって良かったのでは、などと思ってしまう浅緋だった。

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