何も知らない王子様、貴方に目に現実(もの)見せて差し上げます。
暇潰しの執筆の息抜きに悪役令嬢モノとか逆行モノとか読んでたら書きたくなっちゃいました。
「クヌーニャ!クヌーニャ・フォン・ツァディク!出てこい!」
はぁ、まさか本当に"アレ"を実行しようと言うのかしら?
このパーティには他国の重鎮もいらっしゃるのですから。
この国の恥を他国にまで大々的に晒すことになってしまいます。
「今!この場でそなたとの婚約を破棄する!」
...はぁ、やはりこうなりましたか。
が!
こんな国家の最重要なパーティで実行するとは正気ではないと思うでしょう?
「分かりました。わたくし、クヌーニャ・フォン・ツァディクは第二王子殿下からの婚約破棄を受け入れましょう。」
「ふん、これだけで終わると思うなよ?...兄上!」
兄上?
...第一王子殿下?
「...ツァディク侯爵令嬢には、いくつもの嫌疑がかけられている。」
案の定ですか...
「いくつもの嫌疑?身に覚えがありませんわ。そもそも証拠はおありなので?」
「当たり前だ!ですよね兄上?」
「ああ、まず嫌疑の内容だ。」
...このような場でさらに国の恥を晒すつもりなのでしょうか?
「そういう話には然るべき場があると思いますが?」
「いや、お前のような悪女を断罪するのはこの場でもなければできないからな!」
「はぁ、どうぞお好きに。」
「ため息をつくとは!どこまで不遜なのだお前は!」
貴方の行いに呆れていたのですが?
「お前に任せていると進まん。少し黙っていろ。」
「も、申し訳ありません。」
「さて、ツァディク侯爵令嬢には複数件の貴族の嫡子暗殺の指示、禁制品の毒物の密輸、関税の無断で引き上げ、さらには我が弟の第二王子と、この私の暗殺計画、国王陛下の玉璽の偽造の嫌疑がかかっている。故にこのパーティの後、すぐさま処刑する手筈となっている。」
...よくもまぁそれだけのことを。
「弁明の機会を求めます。」
「できるものならな!」
はい、言質は取りました。
「今は口を挟むなと言っているだろう。」
「申し訳ございません。」
「ありがとうございます。まず、わたくしはその嫌疑のことには一切関与しておりません。今はただの第二王子殿下の婚約者であり、嫡子でもない一人の侯爵令嬢です。そのような大それたこと、できようはずもありませんわ。」
「ふん、口の回る...バガド!アレを持ってこい!」
「はい、ツァディク侯爵令嬢、こちらをご覧ください。」
渡された書類の束を見る。
「...何ですかこれは?」
「何だとは何だ!もしや目が見えないのか?ん?」
「でしゃばるな。」
「申し訳ございません。」
醜悪、ですわね。
「第一王子殿下、もしやこれが証拠だとはおっしゃいませんよね?」
「その通りだが?」
臆面もなくそう言い放つ第一王子殿下に頭痛がしてきます。
「では、問います。全員が匿名で私がこんなことをしているという噂があるうんぬんの話を書き連ねただけの書類を証拠とは言いません。いえ、言えません。」
「貴様!私の捜査にケチをつけるか!」
「私が申し上げましたのは事実です...」
「口答えするなクヌーニャ!私に婿入りしてもらわなければ家も継げない身だろう!お前はさっさと牢に入っていろ!...そうだ、私の仕事が溜まっているんだ。処刑までの間に終わらせておけよ?」
...はぁ、本当に何も知らないのですね。
この国家として本格的にまずいセリフを咎めない時点で第一王子殿下も同じ考えなのでしょう。
「はぁ、では、まず一つ目の貴族の嫡子暗殺指示の嫌疑でしたか、具体的な内容を教えていただいても?」
「はぁ?その書類で十分だろう?」
本当にこの王子たちは...!
「わたくしが知りたいのは、出来事ではなくその詳細です。この暗殺計画が、いつ?どこで?指示した人物の容姿は?暗殺の対象は?実際に使われた暗器などの物証は?などなど、そういう詳細です。」
「そんなものあるわけないだろう。王子二人が言っているんだぞ?それで十分だろう。」
なぜでしょう。胃がキリキリと痛みますわ。
ですが、一つ一つ現実を見せて懇切丁寧に教えてあげないといけないんでしょうね...
「王子が言っているのだとしても、嫌疑をかけて刑罰を与えたいのであるならば、そのかける相手や嫌疑の内容にもよりますが、国王陛下の御前で証拠を提示し、嫌疑は真であると認められなければ刑罰を与えることはできませんよ?」
「う、うるさい!僕は王子だぞ!」
いい年(18歳)の大人が情けない...
この国では16歳で大人と認められますのに。
「はぁ、もういいです。この嫌疑だけではありませんが、他の嫌疑もしっかりと証拠を提示してくださいませ。まずはそこからでございます。」
そう言って出口へ向かう。
「おい待て!逃げる気か!?」
「どうにも殿下方はわたくしを陥れたいようですので、正式に国王陛下の御前で争う申請をしに行くだけです。では、ごきげんよう。」
そう言って妃教育の中でも、今までの人生でも一番多く行ったカーテシーをして会場を去る。
「さて、ここからが本番ですわね。」
ー◆ー◆ー◆ー
「ふうん。王家有責での婚約破棄は既に完了、さらに慰謝料に色をつけるから秘密裏に示談にしてくれ、ねぇ?」
どこまでも傲慢ね、王家という一族は。
「我が家にあれほどまで泥を塗っておいて対外的には何も無かったで済まそうというの?他国の重鎮もいたのに?」
ここで素直に応じて、一芝居打ってくれでもしてくれたなら考えたのだけれど、
「いいでしょう。目に現実見せて差し上げます。」
ー◆ー◆ー◆ー
「あれ、ツァディク侯爵令嬢よね?」
「あの後でよく来れたものよね...」
心無い悪口が聞こえますね。
一応ヒソヒソと喋ってはいますが、丸聞こえです。
「ふん、よく来れたものだなクヌーニャ!恥というものは無いのか?」
イディオート...殿下がわたくしに絡み始めたのを見て、会場がシンと静まります。
「いえ、本日は塗られた泥を返しに参りましたわ。先日手ひどく恥をかかされましたので。」
「ふん、泥を返すだと?王命で陛下御前の査問会は無くなったというのにお前に何ができる?」
この言葉にクスクスと人混みから笑い声が聞こえます。
ですがわたくしはその言葉も笑い声も無視して言います。
「イディオート殿下、貴方にはいくつもの嫌疑がかけられています。ですので別室までご同行願いますわ。」
「いくつもの嫌疑、だと?ふざけるな!私にはやましいことなど何もない!」
「では説明いたしましょう。まず、わたくしが自費で購入した物品の窃盗34件。次に婚約者費用の横領、述べ21回。さらに国王の玉璽の無断使用。さらにさらに下町で出会った宿屋の看板娘との浮気、これは王命に背いたということで反逆罪となります。」
「し、知らん!そんなこと!そもそも証拠はあるのか?無いだろう!」
「証拠ならございますわ。ねぇ、タハト公子?」
その呼び掛けに答えたのは、
「はい、こちらが証拠となります。」
「バガド貴様!裏切ったか!」
昨日の嫌疑の証拠とも言えない噂を書き連ねただけの書類を持ってきていたバガド・フォン・タハト侯爵令息。
「裏切ってなどおりませんよ第二王子殿下。私は元からクヌーニャ様の味方でございます。」
「くっ、バガドのような裏切り者の持ってきた物が信用できる訳ないだろう!」
「持ってきましたのがタハト公子であるだけでございます。調査は"影"が行いました。」
「影、だと?」
「バカな!"影"、王家の影の存在を教えられるのは第一王子だけのはずだ!」
会場のテラスからそう叫ぶのは第一王子殿下ですね。
てっきりサボっているのかと。
それにしても第一王子、いや立太子の可能性が高い王子にのみ教えられる王家の影を、せっかくわたくしがぼかしましたのに王子自ら証明してしまったのは明らかな愚行だと思いますけど。
「ええ、その通りです。本来第二王子の婚約者というだけのわたくしが知れることではありません。ですがお二人が勉強を抜け出されたことを諫めた際に、"お前が私の振りをして勉強すればいいだろ!"などと仰られたことが何度かありましたのでその時に習いました。」
あれは本当にやっておいて良かったですね。
あれのおかげで今王家の影の方との繋がりがありますし、第一王子殿下の変装が今でも得意です。
変装の方は役に立つことはほとんどありませんけれど。
「なっ、」
「ですので第一王子殿下、貴方の振りをして王家の影絡みの仕事を行ったことも何度かありますのよ?」
そう、妖しく笑って言ってみました。
すると、
「ヒィッ!」
そう言って尻餅を付いたようですね。
情けない。
たかが女の笑みですのに。
それほどまでに第一王子が立太子される条件の一つを、私が軽々突破したことが恐ろしいのかしら?
それとも、わたくし一人であの仕事を行なっていたことが恐ろしいのかしら?
「さて、これから皆様のお手元にも、第二王子殿下にお渡しした資料と同じ物をお配りいたします。ぜひご覧ください。ネエマン!」
そうわたくしの執事に呼びかけると、わたくしの配下の者たちが会場の方々に資料をお配りしていきます。
それを見た方々の反応は、
「これはいかに王子殿下といえど...」
「このことを王家は把握していなかったのか?」
など、王家批判の方向に向けられていますね。
良いことです。
「あ、あぁ。」
「ああ、そうでしたわ、もう一つ、申し上げなければいけないことがありましたわ。」
「...なんだ?」
「殿下は私のことを、"俺に婿入りしてもらわなければ家も継げない身だろう"と仰いましたが、わたくし、別に貴方が婚約者でなければ家くらい継げますし、たとえ貴方と結婚しても、私に男児が二人以上産まれればその子に家を継がせることはできます。」
「な、に?」
「さらに殿下はわたくしに婿入りした場合、第一王子が立太子されていたとして、わたくしの家が陞爵され、宰相となる手筈でした。」
「...つまり?」
「貴方はわたくしに婿入りできなければ、そうですね、今はうち以外に嫡子のいない侯爵家はありませんし、王命に背いておりますので、最悪処刑か、王籍を抜けてどこかの嫡子のいない伯爵以下の家に婿入り、そのまま当主となっていたでしょうね。当然、王城のような豪勢な暮らしはできませんわよ?」
「あ、あぁ。僕は、」
「殿下。」
「...なんだ?」
「ようやく現実が見えましたか?」
ー◆ー◆ー◆ー
後日談
「かなり手ひどくやったね?」
そうわたくしに聞くのはイーシュ。
フルネームはイーシュ・フォン・クラーブ。
クラーブ公爵家の次男で、わたくしの幼馴染です。
「あらイーシュ。もっと酷いこともできたのよ?」
「どんな?」
「今回は致命的じゃないのを厳選して公開したけど、致命的な醜聞もいくつかあるのよ。さらに第一王子殿下のもね。だからそれを公開して王家の信頼を失墜させて、これが一番難しいけど、ハスバラ公爵家を丸め込んでしまえば、あとは私と貴方が結婚してしまえば、王位の簒奪は簡単よ?」
「ふうん。俺と結婚する未来も考えてくれていたんだね?」
「貴方は嫌でしょう?私は"妹"ですものね?」
そう冗談めかして言ってみる。
「いいや?...もっといいところで打ち明けたかったけど仕方ないか。」
イーシュの真っ直ぐな瞳に胸がキュッとなる。
「な、なに?」
突然イーシュは跪き、
「クヌーニャ・フォン・ツァディク侯爵令嬢。貴女を昔から慕っていました。」
え、えっ!?これって!?
一気に顔が熱くなった気がする。
今の私の顔は真っ赤だろう。
「どうか私と共に歩む未来を選んでくれないでしょうか?」
そう言って跪いたまま、私に手を差し出した。
そのプロポーズに私は...
「面白い」「イーシュとクヌーニャの恋を見たい!」と少しでも思っていただけましたら、高評価やブックマークをお願いします。
最後までお読みくださってありがとうございました。
これからも拙著をお読みいただけると幸いです。
[その他]
王子ふたりのバカさの理由はタグから察していただけると...




