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EP9赤眼の記憶〈記憶はまだ温かかった〉

挿絵(By みてみん)


アカネは過去の憧憬に包まれる…………



赫月〈かつげつ〉村で両親と姉と師匠とユイと…

懐かし日々が鮮明に蘇る


――――――


アカネは師匠・カイの前に正座していた。

地面に描かれた魔術陣は、午前の陽光を受けて淡く光っている。師匠の指先が空をなぞるたび、空気が震え、術式が揺れる。


「集中しなさい。君の赤眼は“感情”で揺らぐ。」


師匠の声は低く、鋭い。

アカネは目を閉じ、呼吸を整える。だが、次の瞬間――


「おーい!アカネー!お昼ごはんできたよー!」


遠くから、姉・ミナの声が響いた。

その声は、術式の緊張を一瞬で溶かす。アカネの肩がふっと緩み、魔術陣の光が消える。


「……ふっ。まだ“無”には程遠いですね」


師匠は口元に薄く笑みを浮かべ、背を向ける。

アカネは立ち上がり、修練場の外れに立つ姉の姿を見つける。

白いエプロン姿、手には木の器。その笑顔は、赫月村の昼の光よりも温かかった。



縁側に並べられた木の食卓には、湯気を立てる薬草粥と焼き魚、山菜の煮物が並んでいた。

ミナが器を配りながら、笑顔で言う。


「今日はアカネがちゃんと午前の修練を終えたから、ちょっとだけ豪華だよ」


カイは器を受け取りながら、口元にわずかな笑みを浮かべる。


「豪華かどうかはともかく、粥の香りは悪くない。薬草は“感情”を鎮める効果がある。君にはちょうどいいね、アカネ」


「ええっ、またそれ言うの?」


アカネが苦笑しながら箸を伸ばすと、父が静かに魚をほぐしながら言った。


「修練も大事だが、食事は命の基本だ。よく噛め」


母は煮物を器に分けながら、ミナに目を向ける。


「ミナ、今朝摘んだ薬草、粥に合ってたね。師匠にも褒められてよかった」


ミナは照れくさそうに笑いながら、カイの方をちらりと見る。


「カイ様、また午後もお願いします。アカネ、ちゃんと集中してね」


「うん……でも、今はこの煮物に集中する!」


笑いが起きる。



その言葉に、父が「それは正しい」と笑い、母も「食べる時は食べる!」と頷く。

師匠も、わずかに肩の力を抜き、箸を動かす。

その瞬間だけは、赫月村に流れる時間が、穏やかで、優しく、永遠に続くように思えた。




午後の陽が傾き始め、修練場の石畳に長い影が伸びていた。

アカネは師匠・カイの前で膝をつき、魔術陣の中心に集中していた。午前の団らんの余韻はすでに消え、空気は張り詰めている。


「“感情”をコントロールしなさい。君の赤眼は、揺らぎを許さない」


師匠の声が響いた瞬間――


「アカネッ!!」


森の方角から、幼なじみのユイが

息を切らし、顔は蒼白。手には折れた枝、服には泥。


「森から……熊の魔獣が出た!村の外れまで来てる!」


空気が一変する。

師匠は一歩前に出て、ユイの肩を掴む。


「何頭だ。大きさは?」


「3頭……でも、大きくてなんか普通じゃない……!」


師匠はすぐに背を向け、外套の裾を翻す。

その動きに、アカネが立ち上がりかけると――


「アカネ、待ってなさい」


師匠の声は低く、鋭かった。

振り返らずに言い放つ。


「キミはまだ“感情”に支配される。今、来ればそれが命取りになる」


「でも、ボク――」


「これは命の判断だ。命令です。」


師匠はそのまま森へ向かって走り出す。

ユイはその背を見送りながら、アカネの腕を掴む。


「……師匠、ひとりで大丈夫かな」


アカネは拳を握りしめ、師の後ろ姿を見つめていた。

その瞳には、赤い光がわずかに揺れていた。



師匠の背が森へと消えていく。

ユイがボクの腕を掴んだまま、震えていた。


「……アカネ、師匠に言われたでしょ。行っちゃダメだって」


ボクは拳を握りしめて、奥歯を噛み締める

胸の奥が、ざわざわと騒いでいる。


「……でも、いやな予感が……師匠ひとりじゃ……」


「でも、命令だよ。“来るな”って言ったじゃん!」


ユイの声は正しい。

でも、ボクの中で何かが叫んでいた。


「ごめん、ユイ。ボク……行く」


ユイの手をほどいて、走り出す。

修練場を抜けて、薬草畑を越えて、村の外れの石門をくぐる。


森の入口は、夕陽に染まって赤く光っていた。

風が吹いて、木々がざわめく。まるで、ボクを拒んでいるみたいだった。


それでも、足は止まらない。

師匠の言葉が頭に響く――「命令だ。来るな」


でも、ボクは思った。


「師匠を、ひとりにしない」


その瞬間、赤眼がわずかに光った。

森の奥から、低い咆哮が響いた。


ボクは、足を踏み入れた。




森の中は、昼の光が届かないほど暗かった。

枝葉が重なり、風の音すら吸い込まれる。ボクは息を殺して、師匠の気配を探していた。


やがて、木々の間から、低く唸るような音が聞こえた。

魔獣だ。熊の形をしているが、目が赤く、毛並みは黒煙のように揺れていた。


師匠はその前に立っていた。

外套の裾が風に揺れ、片手を前に出している。魔術陣が空中に展開され、淡い光が師匠の周囲を包んでいた。


「……式脈を持つ魔獣か。面倒ですね。」


師匠の声は低く、しかし揺らぎがなかった。

魔獣が咆哮を上げ、地を踏み鳴らす。その衝撃で、木々が震え、鳥が飛び立つ。


ボクは木陰に身を隠しながら、拳を握った。

「来るな」と言われた。でも、目の前で師匠が命を懸けている。


魔獣が突進した。

師匠は瞬時に魔術陣を展開し、地面から黒い杭が立ち上がる。魔獣の脚を貫き、動きを止める。


「……式の魔獣。村の結界が弱っているか」


師匠は冷静だった。

でも、ボクには見えた。師匠の左腕が、わずかに震えていた。


「師匠……!」


声が漏れそうになる。

でも、ボクは口を塞いだ。今、出れば足手まといになる。


魔獣が再び咆哮を上げる。

その声は、ボクの胸の奥に響いた。赤眼が、勝手に反応する。


「……ボクも、戦える。戦うんだ」


その瞬間、ボクの瞳が赤く光った。

師匠が振り返る。目が合った。



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