表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

EP3一縷の願い︰〈名を持たぬ者の輪郭〉

門を越えた瞬間、空気が変わった。

霧は沈黙し、代わりに空間そのものが軋んだ。


ミリは足を止めた。

アカネは赤眼を開いた。


そのとき——


壁の奥から、輪郭が現れた。

それは人の形をしていたが、顔がなかった。

胸元には、空白が揺れていた。


「……アマツ。」


アカネの声が、構造に触れた。

だが、名はまだ呼ばれていない。

それは“語られぬ名”の輪郭——記憶の残滓ではなく、構造そのものの裂け目。


ミリは短剣を構える。


「来るよ。」


影が動いた。

その動きは、語られたことのない痛みのようだった。

空気が裂け、壁の言葉が崩れ落ちる。


アカネの術式が展開される。

赤眼が流れ、言界が震える。


「構造が拒絶している。だが、干渉は可能だ。」


ミリが跳ぶ。

短剣が空白を裂く。

だが、刃は“意味”に触れず、空間が反射する。


「……効かない?」


「語られていないものには、語られた刃は届かない。」


アカネが手をかざす。

術式が空間に展開され、言札が浮かぶ。


「ならば、仮の語式で揺らす。」


彼の声が、空気に触れる。


「〈未定義の構造、応答せよ〉」


輪郭が震えた。

空白が赤く染まり、街の記憶がざわめく。


ミリが再び跳ぶ。

今度は刃が“語られぬ痛み”に触れた。


影が崩れ、空間が軋む。


だが——


崩れた先に、もうひとつの輪郭が立ち上がる。


それは、完全な“無名”だった。

言葉も、記憶も、構造も持たない。

ただ、存在だけがそこにあった。


アカネが呟く。


「……これが、アマツの核。」


ミリは震えながら、言った。


「じゃあ、あたし……語るよ。名前を呼ばれる前に。」


アカネは頷いた。


「語ることが、構造を壊す。だが、壊してでも、進むしかない。」


二人は、語られぬ名に向かって歩み出す。


戦闘は、語りの始まりだった。



影が揺れた。

それは語られぬ名の輪郭——アマツの核。

構造の深部に触れた瞬間、空気が軋み、街の記憶がざわめいた。


ミリが短剣を構える。

だが、その刃は“語るため”ではなく、“憐れむため”に握られていた。


「……語られなかった痛みが、ここにある。」


アカネの赤眼が流れる。

瞳の奥に、断層が走る。

言界術が展開され、空間が震える。


「語式、展開。

 〈構造断層、応答せよ〉」


アマツの輪郭が反応する。

空白が赤く染まり、街の壁が言葉を吐き出す。


「彼は戻らなかった」

「声は届かなかった」

「記憶は、ここに残る」


ミリが跳ぶ。

刃が空間を裂く。

だが、影は語られず、ただ“存在”としてそこにあった。


アカネが言う。


「語られぬ名には、語りの刃は届かない。

 だが、願いは届くかもしれない。」


ミリは目を閉じる。


「なら、願う。

 この無惨な現実に、少しでも意味が宿るように。」


彼女の声が、構造に触れた。


その瞬間——


影が崩れた。

だが、崩れた先に、さらに深い“空白”が立ち上がる。


それは、語りも、願いも、憐れみも拒絶する“核の核”。


アカネが前に出る。


「……ここからが本当の戦闘だ。

 語ることが、構造を壊す。

 だが、壊してでも、願いを通す。」


ミリは頷いた。


「語りの刃で、無名に触れる。

 あたしの語りが、あんたに届くまで。」


二人は、語られぬ名の深部へと踏み込んだ。


願いは細く、構造は脆く、

それでも、語りは止まらなかった。


アマツの輪郭が、空間に根を張るように広がっていく。

それは“存在”ではなく、“拒絶された記憶の塊”。

語られず、名もなく、ただ構造に染み込んだ痛み。


ミリが跳ぶ。

短剣が空白を裂く。

だが、刃は“意味”に触れず、空間が反射する。


「……語りが届かない!」


アカネの赤眼が流れる。

瞳の奥に、断層が走る。

言界術が展開され、空間が震える。


「語札、展開——〈断層干渉式・第三層〉」


術式が空間に触れ、アマツの輪郭が一瞬だけ揺らぐ。

その隙に、ミリが再び跳ぶ。


刃が“語られぬ痛み”に触れた。

影が裂け、構造が軋む。


だが——


裂けた先に、さらに深い“核”が立ち上がる。

それは、語りも、願いも、憐れみも拒絶する“無名の中心”。


アカネが前に出る。


「……これが、アマツの核。

 構造の拒絶そのもの。」


ミリは震えながら、言った。


「じゃあ、あたし……語るよ。

 名前を呼ばれる前に。

 願いでも、祈りでもない。

 ただ、憐れみとして。」


彼女の声が、空間に触れた。


その瞬間——


アマツが応答した。

空白が赤く染まり、街の壁が言葉を吐き出す。


「彼は戻らなかった」

「声は届かなかった」

「記憶は、ここに残る」


ミリの刃が、今度は“語られぬ痛み”に届いた。

影が崩れ、構造が軋む。


だが、崩れた先に、さらに深い“拒絶”が立ち上がる。


アカネが術式を強化する。


「〈断層干渉式・第五層〉——赤眼、全開」


瞳が流れ、空間が裂ける。

語りが構造に干渉し、アマツの核が震える。


ミリが叫ぶ。


「……願いなんて、届かないかもしれない。

 でも、憐れむことはできる。

 それだけは、語っていい?」


アカネは頷いた。


「語ることが、構造を壊す。

 だが、壊してでも、進むしかない。」


二人は、語られぬ名の深部へと踏み込んだ。


願いは細く、構造は脆く、

それでも、語りは止まらなかった。


そして、アマツが初めて“声”を返した。


それは言葉ではなかった。

音でもなかった。

ただ、空間の“意味”が揺れた。


ミリは息を呑む。

胸の奥に、誰かの記憶が流れ込んできた。


「……これ、誰かの“願い”?」


アカネは赤眼を細める。

瞳の奥で、断層が震えていた。


「違う。これは、願いの“残骸”だ。

 叶わなかった祈りが、構造に染み込んだ。」


アマツの輪郭が広がる。

空間が軋み、地面が沈む。

街の壁が再び言葉を吐き出す。


「わたしはここにいた」

「誰も気づかなかった」

「それでも、願った」


ミリは短剣を構える。

だが、刃は震えていた。

それは恐怖ではなく、憐れみだった。


「……願いが、届かなかったから、こんな形になったの?」


アカネは頷いた。


「語られなかった願いは、構造に拒絶される。

 だが、拒絶されたままでは、歪みになる。」


アマツが動いた。

その動きは、語られぬ痛みの奔流。

空間が裂け、言札が焼ける。


アカネが術式を展開する。


「〈断層干渉式・第六層〉——赤眼、逆流」


瞳が流れ、構造が逆転する。

語りが“拒絶”を貫き、アマツの核に触れる。


ミリが跳ぶ。

刃が空白を裂く。

今度は、語りが届いた。


アマツが叫ぶ。

それは、誰かの声だった。

名もなく、記憶もなく、ただ“願い”だけが残っていた。


ミリは叫ぶ。


「なら、あたしが語る!

 この願いが、無惨な現実に喰われないように!」


アカネが応える。


「語れ。構造が壊れても、語りは残る。」


二人の干渉が、アマツの核を揺らす。


そして——


街が、静かに応答した。


壁の言葉が、少しだけ“意味”を持ち始める。


「願いは、まだ残っている」

「語られれば、届くかもしれない」


アマツの輪郭が崩れ始める。

だが、その奥に、さらに深い“拒絶”が潜んでいた。


アマツが声を返した。

それは、誰かの願いの残骸。

語られず、届かず、構造に沈んだ祈り。


空間が軋み、街の壁が言葉を吐き出す。


「わたしはここにいた」

「誰も気づかなかった」

「それでも、願った」


ミリは跳ぶ。

刃が空白を裂く。

だが、アマツの核は深く、拒絶は強い。


アカネが赤眼を全開にする。

瞳が流れ、断層が逆転する。


「〈断層干渉式・最終層〉——語式、解放」


術式が空間に展開され、構造が震える。

アマツの輪郭が揺らぎ、街の記憶がざわめく。


ミリが叫ぶ。


「願いなんて、届かないかもしれない。

 でも、憐れむことはできる。

 それだけは、語っていい!」


彼女の声が、構造に触れた。


その瞬間——


アマツが叫ぶ。

それは、誰かの声だった。

名もなく、記憶もなく、ただ“願い”だけが残っていた。


アカネが前に出る。


「語られぬ名よ。

 お前は拒絶された願いの塊。

 だが、語られた今——構造は、お前を受け入れない。」


彼の掌が空間に触れる。

術式が収束し、赤眼が輝く。


「〈語式・終結〉——“願いは、届いた”」


アマツの輪郭が崩れる。

空白が赤く染まり、街の壁が沈黙する。


ミリの刃が、最後の一撃を刻む。


「……あたしが語った。

 あんたは、もう“無名”じゃない。」


アマツは、静かに消えた。

語られぬ名は、語られた願いとして構造に還った。


街の空気が、わずかに柔らかくなる。

壁の言葉が、意味を持ち始める。


「願いは、まだ残っている」

「語られれば、届くかもしれない」


ミリは膝をついた。

アカネは静かに目を閉じた。


戦いは終わった。

だが、語りは続いていく。


構造は、まだ眠っている。

願いは、そこに残っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ