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EP10 師のキズ〈弟子の焔〉

師匠の背中が、森の奥で揺れていた。

魔獣の咆哮が、空気を裂いている。

ボクは走った。昼の器の温度が、まだ指先に残っていた。


「師匠ッ!」


声が届いたかはわからない。

でも、師匠は振り向いた。

その瞬間、ボクの目が――熱を帯びた。


視界が赤く染まる。

風が止まったように感じた。

音が遠ざかる。

師匠の瞳と、ボクの紅い目が、重なった。


「……来るなと言ったはずですが」


師匠の声は、冷たい。

でも、その瞳は――驚いていた。

ボクの目を見ていた。

紅く染まったこの目を。


「ボクは……守りたかっただけだよ」


魔獣が吠えた。

師匠が魔術陣を展開する。

ボクは、紅い目のまま、師匠の隣に立った。


「やれやれ…来てしまったからには仕方ない」


カイは式を煉り札をかざした

「火烈・陸ノ型」


魔獣の動きを止めていた杭が膨張し激しく

燃え上がり魔獣を焼き尽くす


魔獣は吠えた―それは悲鳴だった

炎が立ち上がり、肉が焦げる嫌臭がする

カイの札が森の空気を一変させた


焔が魔獣の体を包み、皮膚を焼き、咆哮をかき消す。

地面が揺れ、木々が軋む。

師匠の術陣が、風の壁を張って炎を逸らす。


ボクは、ただ見ていた。

紅い目のまま、カイの背中を。

師匠の横顔を。


「……さすがです、師匠」


師匠の声は静かだった。

でも、少しだけ――誇らしげだった。



カイは札を収めながら、肩をすくめた。


「やれやれ…あれくらいで済んでよかったですよ」


魔獣の残骸が、煙を上げて崩れる。

森の気温が、少しだけ下がった気がした。


師匠が、ボクの方を向いた。



紅い目を、まっすぐ見てきた。


不吉な笑みを一瞬したかと思うと

すぐ口元を引き締めた


「話によるとあと2頭はいるみたいですね。

…どうせ戻らないのでしょ?」

カイが呆れながら聞いてくる


「はい!一緒に戦いましょう」

紅い目を輝かせながらアカネは答える


カイは札束の端を指で弾きながら、ボクに視線を向けた。


「では、アカネ。探索術をお願いできますか?

この森は広く、魔獣の気配も散っておりますので」


「はい、任せてください!」


ボクは紅い目を閉じ、深く息を吸った。

森の気温、風の流れ、魔力の残滓をこの手に

札を出し靡かせる


「……語式・探索の流意」


師匠が少しだけ眉を上げた。


紅い目が再び開く。

視界が、魔力の流れに染まる。


「北西に一体。南の沢沿いにもう一体。

どちらも、まだ動いていません。けれど……」


「けれど?」


「……気配が濃いです。さっきのより、ずっと」


カイは肩をすくめた。


「やれやれ、等級が上がっていくのは勘弁願いたいですね」


師匠は静かに頷いた。


「では、北西から参りましょう。

沢沿いは地形が複雑です。先に平地を制しておくべきかと」


「了解です!」



カイが先頭を走る。

ボクはその背を追う。

森の風が頬を撫でる。足が、地面を滑るように進む。


「アカネ、だいぶ走れるようになってきましたね」


振り返らずに、カイが言った。

声は軽い。でも、どこか張り詰めていた。


「それが……さっきから体が軽くて」


ボクは息を整えながら答える。

紅い目が、森の魔力を吸い込むように輝いていた。


「赤眼、開いたままなんです。

なんだか、体の芯が熱くて……でも、痛くはないです」


カイは一瞬、足を止めかけた。

でも、すぐに走り直す。

その背中が、少しだけ震えていた。


「……なるほど。

それが“赫灼”というやつですかね」


ボクは意味がわからず、首を傾げた。

でも、カイは振り返らなかった。


その手が、札束を握りしめていた。

指が、少しだけ白くなるほどに。


(赫灼――)


カイの胸の奥で、その言葉が静かに灯った。

紅い目が、走りながらも輝きを増している。

魔力の流れが、身体の芯から外へと滲み出ていた。


(予想より早い)


カイは笑いそうになるのを堪えた。

唇の端が、わずかに震えた。

それを隠すように、札を一枚抜いて指先で撫でる。


(これが“赫灼”か。目覚めの第一段階……)


(ならば、次は――)


「アカネ、足元に注意を。根が滑りますよ」


声は平静だった。

でも、心は騒いでいた。


森の奥、北西の気配が濃くなる。

風が止まり、木々がざわめきをやめた。

空気が、重くなる。


「……来ますよ」


カイが札を一枚、指先で弾いた。

その音が、静寂を裂いた瞬間――


地面が、膨らんだ。

根が裂け、土が跳ねる。

そこから、黒い影が這い出た。


「魔獣……“双尾の咆”か」


師匠――いや、カイが呟いた。

その声は、どこか懐かしげだった。


「アカネ、構えてください。これは少し厄介です」


「はい!」


ボクは紅い目を開いた。

赫灼の熱が、また身体を満たす。

視界が、魔力の流れで染まる。


魔獣は、二本の尾を振り上げた。

その先端が、雷のように光る。


「封陣、展開します」


カイが札を地面に打ちつける。

術陣が広がり、魔獣の動きを一瞬止める。


「アカネ!先程の術を!」


カイの声が、術陣の振動を裂いた。

ボクは頷き、札を抜いた。

紅い目が、魔獣の尾の軌道をなぞる。


「火烈・陸ノ型!」


札が空を切る。

術式が展開され、地面の封陣と連動する。

杭が膨張し、雷の尾を絡め取るように燃え上がる。


轟音。

焔が尾を包み、雷が爆ぜる。

魔獣が咆哮を上げ、地面をのたうつ。


「命中……!」


ボクは息を呑んだ。

でも、カイは、声を荒らげて


「まだ式を緩めてはいけません!」


その声に、ボクの指が震えた。

札が、わずかに揺れた。

術式が、崩れかける。


焔が揺らぎ、杭が軋む。

焼き焦げた魔獣が、術の隙間から身をよじり出す。


「……っ!」


牙が、ボクに向かって剥かれた。

焦げた皮膚の下から、赤黒い筋肉が露わになる。

目は潰れていた。

でも、殺意だけが残っていた。



「アカネェ!」


カイの声が、焔の中を裂いた。

次の瞬間、彼の体がボクの前に飛び出す。

魔獣の爪が、彼の背を切り裂いた。


血が、焔に混ざる。

札が、地面に散る。


「師匠っーーー!」


ボクの声が、森に響いた。

紅い目が、震えた。

赫灼の熱が、胸の奥で爆ぜた。


(守られた。師匠が、ボクを――)


(でも、傷ついた。ボクのせいで)


紅い目が、さらに輝きを増す。

術式が、脈動する。

赫灼が、強く輝く


ボクは叫んだ。

札を使わず、拳を握った。

魔力が、腕に集まる。


魔獣が吠える。

でも、ボクはもう止まらなかった。


「っっっ!」


拳が、魔獣の顎を捉える。

焔が爆ぜ、式脈が弾ける。

魔獣の巨体が、木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶ。


地面が揺れた。

森が、息を呑んだ。


ボクは、拳を握ったまま立っていた。

紅い目が、赫灼の熱で燃えていた。


カイは、血を流しながら笑っていた。

その瞳の奥で――何かが、静かに喜んでいた。



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