2 一週間経ちました
ここに入れられて一週間。
自分の匂いにも馴れてきた。俺の体臭は、相当きついだろう。だが自分では気にならない。不思議だ。安心感さえある。
体育座りで、腕の中に顔を埋めていると、安心する。ここだけは俺の世界だ。自分の匂いのする俺の世界。
あのエルフ達は、これから俺をどうしたいのだろう。
ただ閉じ込めて置きたいだけなのか。
一日に一度、例の木桶を交換し、ついでに食事を持ってくる。一日一食だけだ。
寂しくなって、見回りのエルフに声を掛けても返事は返ってこない。只、じろりと睨まれるだけだ。
殆ど裸の割には、ここは寒くないので普通にしていられる。ただ、寝るときには、掛け布団が欲しい。ここにはベッドさえ置かれていない。木の床に直に横になるしかない。酷い扱いではないか。
「一体俺がなにをした。責任者出てこいや!」
怒鳴ってみても変化無しだった。
そんなある日やっと変化があった。
年老いたエルフのじいさんとばあさんが俺に面会しにやってきた。
エルフも年を取るのか。変な感慨に襲われた。
「もし、貴男。名前を申してみよ。」
妙に上から目線の物言いだ。俺は、この手の輩には、距離を置くようにしている。だがこのままでは、どうにもならないので、素直に名乗ることにした。
「秋野公平。」
「公平、何しにこの里に来た。」
何しに来た?そう言われても、招待状を貰ったから、来ただけだ。何をしに来たと言われれば、異世界を楽しみに来ただけだ。そう答えると老エルフは、じっとこちらを見て、誰に招待状を貰ったのか聞いてきた。知らない人だと言うと、
「貴男は、知らない人に貰ったものを信じて、ホイホイ来たのか。警戒心がないのう。」
そう言われてしまえば、確かに怪しい話だ。何時もは家を出ることがあれほど怖かったのに、何時もは異常に警戒をして暮らしていたのだ。
中学校の時に、何故か俺は、ハブられた。これといった理由は思い付かない。期待を持って、中学に行ったのに、皆の目が怖くなって、それ以来学校には行けなくなってしまった。一応卒業は出来たが、最終学歴は中卒、ということになる。親は、そんな俺には、期待を持っていないのか、其の儘にしている。弟は、普通に学校に行けていた。俺はパソコンが唯一の友達だった。
働いたことは、勿論無い。家族とは普通に話せていた。只、外には夜中にコンビニへ行く程度だった。
人が多い所へ行くと震えが走る。声も出なくなる。自分が汚いもののように感じて、人のそばに行けない。半径1メートル以内に人が来ると息苦しくなる。
親は一度病院に連れて行こうとしたが、俺は、「いやだ!」と言って暴れたのだ。
それ以来五年間引きこもり生活をしていた。
其れなのに何故、あの時外に出たのか。今考えても不思議だ。
それから暫くして俺は牢から、出された。
一軒の小屋を与えられて、そこで生活するように言われたのだ。