08閑話 The Neighbor's Son will be on TV②
前回のあらすじ
マックイーン産駒、ポンポコポンが二勝目をあげてオープン馬に。次はダービートライアル出走を目指すことに。
08
二勝目をあげたレース後、短期の放牧に出かけたポンポコポンは、すっかりリフレッシュして厩舎に戻ってきた。厩務員の木山はポンポコポンのブラッシングをしながら話しかける。
「お帰り、待ちわびたよ!どうだ、ポンポコ。少しは羽を伸ばせたか?」
「うん、のんびりできたよ!でもトレセンでもちゃんとトレーニングをしていたから筋肉は落ちてないと思うんだ。木山さんどうかな?」
「確かにな!休む前よりもむしろ筋肉がついてきた気がするなー」
いくつか質問をしながらポンポコポンの体調に問題が無いことを確認する。これまでメグロマックイーン産駒は晩成型と言われ、三歳の秋以降に力をつけていく馬が多かった。ポンポコポンのように春先に二勝目をあげる馬はとても珍しい。
ましてや、次走のダービートライアル・青葉賞の結果次第で、ダービーに出れるかもしれないとなれば、にわかに競馬ファンの話題にも上ってくるものだ。
「木山ぁー!ポンポコの具合はどうだぁー!」
「小野寺調教師、ポンポコの具合は良いですよ!トレセンでも乗り込んでたようで前よりも良い身体つきになって戻ってきました!」
管理馬が重賞レース、それもダービートライアルに出走するとなれば、調教師として小野寺のやる気はギラギラと漲っていた。
ダービーには多くの逸話があり、古くは『大外枠で賞金も要らないから走らせて欲しい』と関係者が懇願した例や『ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になるよりも難しい』と発言した外国の首相さえいた。
小野寺厩舎の管理馬は二、三勝馬が大半で大きいレースに出れる馬がとても少なく、開業八年で重賞レースの勝ち星はまだ無い。久しぶりに誕生したオープン馬。それもダービーに出走できるかもしれないポンポコポンに、小野寺は並々ならぬ期待を込めていた。
「木山ぁー!さっき連絡があってな、競馬雑誌の記者がポンポコの取材に来ることになった!明後日の午前中に来るから、ポンポコを綺麗にしておいてくれぇー!」
「え、取材ですか!?すげーですね!分かりました。ピカピカにしておきます!」
初めて管理馬の取材申込に浮かれる小野寺厩舎。ポンポコポンも戻ってきてダービートライアルに向けて、かつて無い盛り上りを見せていた。
しかし───
◇
「雑誌キャンターの月島です。早速ですが、ポンポコポン号の普段の様子を教えてください」
「……」
「えーと、ポンポコポン号は普段どのような性格ですか?」
「…………」
「せ、調教師、し、質問されてますよ!?」
今日はポンポコポンの取材の日。前日からそわそわ落ち着かない小野寺と木山。二人とも取材など人生初の出来事のため、ひどく緊張していた。どれだけ水を飲んでも口がからからになり、朝食も喉を通らない。小野寺が調教に出かけようとした際には、うっかりパジャマのまま出かけようとした始末である。
そんな二人であったため、いざ取材が始まると頭が真っ白になっていた。記者の月山の質問に満足に答えられぬまま、月山とカメラマンも『あ、こりゃダメだ』という空気が漂っていた。そこに救世主が訪れる。
「こんにちはー!あれ、小野寺調教師、どうしたんですか?腹を壊したオラウータンみたいな顔をしてますよ?それにそちらの方達は……え、ポンポコの取材ですか?」
ポンポコポンの主戦騎手、柏木がたまたま小野寺厩舎を訪れた。そこはファンの前に出ることの多い騎手である。小野寺達に比べればメディア対応の心得も多少あり、記者の月山もこれ幸いと柏木に質問をぶつけていくのであった。小野寺と木山はたまに話を振られても、壊れた人形のようにぎこちなく首を縦に振ることしかできずに終わった。
そんな、ぐだぐだな取材から数日。いよいよ青葉賞を今週末に控える頃、雑誌キャンターにポンポコポンの記事が掲載された。青葉賞に向けての意気込み、ポンポコポンの普段の様子、カメラ目線でキリッと写るポンポコポンの写真が載っていた。
この記事をきっかけに、その可愛らしさが競馬ファンの間で有名になり、マックイーン産駒の期待馬であるとともに『グッドルッキングホース』としてファン交流サイトを中心にポンポコポンの名が広く認知されるようになっていく。
なお、某web掲示板ではポンポコポンと一緒に並んで写っていた小野寺と木山の能面を張り付けたような顔がシュールで面白いと話題になるが、ネット事情に疎い二人は知ることもなかった。
◇
────東京・ダービートライアル青葉賞・芝二千四百メートル
「よ、よし、ポンポコ。パドックに出るぞ?いつもよりお客さんが多いからって、び、びびるなよ!?」
木山の声は震えていた。彼がメインレースのパドックで馬を引いた経験は数えるほど。しかも今日はダービートライアルの青葉賞である。普段経験しているレースとは比べ物にならないくらいの観客が競馬場に詰めかけていた。これから現れる馬達の様子を見極めようとパドックには多くの人が詰めかけ、今か今かと待ち構えていた。
「うわぁー、たくさん人がいるね!あ、見てみて?ぼくを応援する横断幕が飾ってある!手とか振り返した方がいいのかな?」
「し、知らねぇよ!?周りの様子を見て判断してくれ!俺はこの中をちゃんと歩けるのか心配だよ……」
木山とポンポコポンの番になり、パドックに足を踏み入れる。一気に視線が二人に集まるのを感じ、木山はウグッと胃液が込み上げて来そうになるのを何とか堪える。足がガクガク震え、必死に手の振りと足が一緒にならないように小声で『右……左』と呟く。観客の視線が恐ろしくて顔など上げる余裕はなかった。
それとは対照的に、ポンポコポンは悠々とした足取りでパドックを回る。先日の雑誌記事の効果か、応援の横断幕が目立つところに掲げられており、ポンポコポンが姿を現すと一斉にカメラのシャッターが切られた。
『ターフの名優の意思を継ぐもの』
『グッド☆ルッキングホース』
『シンアイドル・ポンポコポン』
ダービーや天皇賞どころか、重賞レース初挑戦の馬にこれだけの横断幕があるのも珍しいことだった。観客の確かな応援を感じて、『今日も頑張るぞ!』とポンポコポンは気合いを入れる。
そうこうしているうちに係員からの合図があり、ポンポコポンの元に騎手の柏木がやってきた。
ひらりと軽やかにポンポコポンの背に柏木が跨がる。
「うん、落ち着いてるし、気合い十分だね!よし、ポンポコポン。俺たちも馬場の方に向かおうか?」
木山がぎこちなく引きながら、地下馬道
に向かう。その入口には調教師の小野寺が待ち構えていた。
「柏木ぃー、頼んだぞぉー!仕上がりも良いし、この馬の力は出せる状態だぁー!」
「調教師、分かりました。ベストを尽くします!」
────木山と小野寺、ポンポコポンと柏木。チーム・ポンポコが一丸となり、地下馬道を進む。
ダービートライアル、青葉賞の発走時間を知らせるファンファーレと共に観客の手拍子が鳴り響く。ダービー出走権をかけた十四頭の闘いがまもなく始まる。
取材のシーン、個人的にすごく好きです。笑
前中後の構成になっている閑話ですが、次回はいよいよ三話目を予定しています。
青葉賞はどんな感じになるんですかね?あ、時計とかラップタイム書いちゃうとぐちゃぐちゃになりそうなんで、割愛します(宣言)笑
現実だと、青葉賞を走った組は本番のダービーはいまいちみたいですね。シンボリクリスエスさんでしたっけ?やっぱりレース感覚が短いからですかね。私だったら長い距離のレース後はのんびり休みたいですねー(ФωФ)