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52/53

52 炎熱。

前回のあらすじ

 皐月賞が決着。スペシャルデイズは惜しくも三着に敗れてしまう。

52 


 ゴール板を先頭で駆け抜けた。その直後、芦毛の馬上で、立仲は思わず両拳を天に突き上げていた。

 拳を握る力が強すぎて、指先が食い込んだ掌がわずかに痛む。だが、そんなことは些細なことだった。



「よっしゃ……よっしゃぁ!」



 声は自然と漏れ出ていた。


 カイウンスカイの首元を軽く叩くと、激闘を制した疲労を見せつつも、スカイも喜ぶように、そして、どこか誇らしげに鼻を鳴らした。


 カイウンスカイは、スピードを落としながら、ゆっくりとスタンド前へと向かう。


 ウイニングラン。それは勝者のみが許された行為。


 皐月賞馬───世代最速を証明した勝者に、割れんばかりの拍手と歓声が降り注ぐ。

 

 歓声は風となり、芦毛の背を包み込んだ。その中心にいる実感が、カイウンスカイと立仲の胸を満たしていた。




 その一方で───


 その光景を、少し離れた場所から見送る影があった。


 このレースの勝者に最も近づいた馬───クラウンヘイローと、その背にいた福河祐介。


 祐介はゴール板に向かって遠ざかる芦毛の背中を、じっと見つめていた。


 追い出しのタイミングは悪くなかったはずだ。

 仕掛けも、進路も、すべてが噛み合っていたはずだった。


 それでも、届かなかった。



「……あと一歩、足りんかった」



 祐介が無意識にこぼした言葉を、クラウンヘイローは黙って受け止める。


 名牝と凱旋門賞馬を父母に持つ良血。

 その誇りが、今はかえって重く胸にのしかかっていた。


 何が足りなかったのか。


 力か、運か、それとも───。


 祐介とクラウンヘイローは互いに答えを探したが、その霧が晴れる気配はなかった。




 皐月賞が終わり、競馬の舞台は次なる決戦地へと移っていく。

 

 東京競馬場。府中の大欅を越えた先で、次のステージが彼らを待っている。


 ダービーは皐月賞組に、青葉賞とプリンシパルステークスなどの別路線組が加わって出走馬十八頭が決まる。三歳世代七千頭の頂点を決める戦いだ。



 ──だが、今年は例年と様相が違った。


 ダービーの二週前にあるGⅠ、JHKマイルカップ。マル外が走れる唯一のGⅠ競走だ。例年ならそこまで盛り上がらないものだが、今年は一頭の馬に競馬界の視線が集まっていた。


 その馬の名は、エルコンドルピース。


 アメリカ出身の彼は、いわゆるマル外。クラシックに出られない立場だが、その名は連日のように紙面を賑わせていた。


 三戦三勝。どのレースも余裕のある圧勝劇。調教では良い動き、調教師の言葉も自信に溢れていた。

 怪我で離脱中の二歳王者・テラスワンダーの不在を感じさせないほどの存在感を漂わせていた。



 そのレースを、スペシャルデイズはトレーニング後の厩舎で、テレビ越しに見ていた。


 画面の中。

 一番人気の黒鹿毛が、直線で馬群の間を割るように抜け出してくる。



「───え?」



 思わず、デイズの口から声が漏れた。


 追われたのは一瞬だった。その馬は、次の瞬間には、他馬を置き去りにしていった。差はみるみる広がり、実況の声が驚きに変わっていく。


 GⅠでありがら、まるで格下相手だったと言わんばかりに、圧倒的な勝利だった。




(……何、この馬)


 デイズは言葉を失った。


 皐月賞で一緒に走った馬たち。あの激戦の中にいたライバルたちよりも、もしかしたら───上かもしれない。


 世の中には、まだ知らない強さがある。その事実を、初めて突きつけられた気がした。



 レース観戦をした翌日。スペシャルデイズのトレーニングは、どこか変わっていた。


 直線に入ると、デイズは自然と“数馬身前”を意識するようになった。そこにいるのは、テレビ越しに見た、黒鹿毛の馬。


 ───もっと速く


 ───もっと力強く


 追い風の中、蹄が地面を叩く音が、いつもより鋭く響いた。


 まだ、一緒に走ったことはない。だが、いつか───。


 未対決のライバルの存在を、スペシャルデイズは無意識のうちに感じ取っていた。



 マイルカップ後、とある競馬雑誌が特集を組んだ。



 ───「世代最強を争う馬たち」───


 そこには、皐月賞馬カイウンスカイと惜敗のクラウンヘイロー、三着のスペシャルデイズ。

 

 怪我で休養中の二歳王者テラスワンダー。


 そして、マイルカップを圧勝したエルコンドルピース。


 それぞれの写真と『三歳・五強』のタイトルが記載されていた。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 誰が一番強いのか?


 順調にいけば、その舞台はジャパンカップか、有馬記念か───。


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 答えの出ない問いが、競馬界を熱く包み込んでいく。


 そして、その前哨戦とも言える、内国産馬の頂点をかけた戦い。ダービーへの注目度は、日増しに加速していった。


 二冠か、逆襲か。はたまた、伏兵による下剋上か。


 決戦の刻へ、時間は確実に進んでいった。



お読みいただきありがとうございました!

今回は皐月賞後からダービーに向けての幕間でした。

この年代は強い馬がゴロゴロいて、何強と言っていいのか、迷いますw


さて、次回のお話は、ダービー前編となる予定です。

来週の(土)の更新まで、しばらくお待ちください!

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