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51/53

51 余燼。

新年初更新!今年もよろしくお願いいたします!!


前回のあらすじ

 皐月賞がスタート。有力馬は好位につける中、スペシャルデイズは後方からとなってしまう。苦しい展開の中、デイズと椿は残り千メートルから上がっていった。

51


 三コーナー。

 先頭はコーエンテンカイチ。ここまでレースを牽引してきたが、その脚にもはや余裕はなかった。

 三馬身あったはずのリードは、コーナーに差しかかる頃には見る影もなく、後続の圧に飲み込まれつつあった。


 二番手集団の隊列は変わらず。外に芦毛のカイウンスカイ。内にエモジロン。その外目にクラウンヘイローと続く。


 そして───その後ろ。外から大きく弧を描くように、スペシャルデイズがじわり、じわりとポジションを押し上げてきていた。


 スタンドのざわつきが競馬場内に波紋のように広がる。

 後方からの競馬を余儀なくされた十八番が、ここにきてようやく先行集団の後ろまでやってきた。

 だが、その動きは決して派手ではない。

 大きなアクションはなく、自然に加速し、淡々と確実に前との差を削っていく。



 四コーナー手前。コーエンテンカイチの鞍上の手が、早くも動いた。粘り込みを図ろうとするが、その脚色は明らかに苦しい。


 逃げ馬の背後を狙うように、芦毛の馬体が、音もなく接近する。そして一気に襲いかかった。



───『コーエンテンカイチ先頭! 外から馬体を合わせるようにカイウンスカイやってきた! 内からエモジロンも付いてきている!』───


 実況の叫び声を追うように、スタンドから、ひときわ大きな歓声が弾けた。


 四コーナーで早くもカイウンスカイが、先頭に並びかける。

 芝を蹴る四肢は力強く、芦毛の馬体が緑のターフを跳ねるように躍動した。



「――ここや! 行けぇ!」



 福河祐介の声が、風の音にかき消される。その檄に応えるように、クラウンヘイローがガチっとハミを噛みしめた。


 重心が、わずかに沈むと滑らかに加速する。その身体のしなやかさは、父母譲りか。


 クラウンヘイローは、コーナーをやや外に膨らみつつも、ギュンと鋭く伸びていった。


 祐介はその手応えに、自然と口角が上がる。そして、先頭に立ったカイウンスカイの背中を追って、一気に末脚を解放した。





 エモジロンの手綱を取る松木は、カイウンスカイとほぼ同じタイミングで仕掛けていた。


 カイウンスカイが外へ進路を取った、その一瞬。逃げ馬の内───内ラチ側の最短距離へ、エモジロンの馬体を潜り込ませる。


 内ラチの芝は荒れている。だが、エモジロンはそこまで苦にしない。それ故に、最短距離を走るのはチャンスと言える。


(……ここしかない)


 外が伸びるのは承知の上だ。

 それでも最内を選んだのは、この馬を信じたからだった。

 直線を向く。エモジロンは、最内から先頭に並びかけていった。




───『先頭はカイウンスカイ! 差がなく内からエモジロン! 外からはクラウンヘイローも良い脚で追いかける!』───



 各馬、ムチが入る。スタンドからの歓声が、実況の声が、最速の名をかけた戦いに色を添える。




(……三馬身差)

 

 椿は、歯噛みした。


 レース前半の不利と先行有利の流れ。すべてを承知で、ここまで押し上げてきた。


 だが、それでも───まだ遠い。



 チラッと視線を下げれば、集中して走っている相棒の顔があった。幸い、手応えはまだある。



「ラストスパートや。もうひと頑張り、頼むで!」



 椿は低く指示を送るとともに、少しでも走りやすいように、馬場の外へと手綱を引く。


 直線に入ると同時に椿は右ムチを使って鼓舞をした。


 それに応えるように、スペシャルデイズのギアが一段上がる。

 芝をしっかりと掴むように力強く踏みしめた。ゴムまりのように弾む筋肉の躍動が、強力な推進力を生み出す。




───『ようやく、スペシャルデイズやって来た! 馬場の真ん中からはクラウンヘイロー! 二頭が先頭に迫る勢い! 

 

残り二百! 内のエモジロンはムチが入るが苦しいか!』───



 二百のハロン棒を過ぎたあたりで、勢いがはっきりと分かれた。


 馬場の差か。外に出した二頭───クラウンヘイローとスペシャルデイズが、凄まじい脚色で先頭を強襲する。



 奇しくも弥生賞と同じ三頭の争い。


 必死の形相で三頭は、ゴール前にそびえる急坂に飛び込んでいった。




「スカイ!父親のために、根性をみせろ!!」



 立仲が、手綱を押し、右ムチを振るう。その檄が効いたか、カイウンスカイは、頭を下げて最後の力を振り絞る。


 中山の坂へ───芦毛が、挑みかかる。



───『カ、カイウンスカイもう一伸び!! 後続を突き放した! 恐るべき馬だ! クラウンヘイローとスペシャルデイズも懸命に追う!』───



「くっ……! クラウン! ここで負けたら今までと一緒やで!!」



 祐介の叫び。再び左ムチが振るわれる。クラウンヘイローは、頭を下げ、疲労を振り払うように四肢を動かした。




───『外からもう一度クラウンヘイロー! カイウンスカイ先頭! クラウンヘイロー差を詰める! スカイか! クラウンか! 

 ゴール前、二頭が並んだぁぁぁ!!』───




 ゴール寸前で、クラウンヘイローが気迫で再度差し返した。

 しかし、カイウンスカイも最後まで簡単には譲らなかった。



 その二頭に半馬身ほど遅れて、スペシャルデイズがゴール板を駆け抜けた。




(……お釣りがなかったな)



 椿は悔しさから唇を噛みしめる。


早めにポジションを上げるのに脚を使った分だけ、最後は交わせなかった。



───もしも、大外枠でなければ


───もしも、スタートがもっと良かったら



 競馬にタラレバは禁句。そんなん言うたらキリがない。


……分かっている。分かっているのだ。




「……お疲れさん。惜しかったわ。あと一歩やったな」



 椿は込み上げる悔恨の念を押し殺しながら、スペシャルデイズに声をかけた。



 ハァ、ハァ、ハァ……



 大きく肩を揺らし、がっくりと項垂れるデイズ。全力を出しきっただろう、疲労の色が見えた。



「負けちゃった。ウイニングラン……出来なくなっちゃったぁ」



 デイズは今にも泣き出しそうな表情で、ポツリと返事をした。



 再び、椿の内に込み上げる想い。



「……一ヶ月後。───ダービーで、絶対勝とう」



 自身の初勝利なんて二の次や。俺はコイツと勝ちたい。勝たなきゃアカン。




 椿の胸の内に、決意の灯火が赤々と燃え出した。





 ざわざわとスタンドからの喧騒は止まない。巨大ターフビジョンにゴール前の競り合いがスロー再生で映し出される。


 繰り返されるゴール前の映像。


 そのたびに、どよめきと、ため息がスタンドを満たす。


 やがて───


 パッと確定のランプが点った。


 すべての視線が電光掲示板に注がれる。





□□□□□□□□□□□□□□□□□

  【三】

 【十二】 ハナ

 【十八】 1/2

  【一】 3

  【四】 ¾

□□□□□□□□□□□□□□□□□




 そこには激戦となった皐月賞の結末が、静かに刻まれていた。


お読みいただきありがとうございました!

皐月賞の後半戦、スペシャルデイズはわずかに及ばず…でした。


次回のお話は皐月賞のレース後、そしてダービーに向けて。をテーマを予定しています!


それではまた来週(土)に!

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