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47/53

47 迎春。

書けたから更新しちゃいます!


前回のあらすじ

 二勝目を目指して白梅賞に出走したスペシャルデイズ。ゴール直前で差されて敗れてしまう。

47 


「負けちゃった……」



 しょんぼりとしながらスペシャルデイズと椿は装鞍所へと戻ってきた。


 伏兵の強襲によりハナ差で敗れた白梅賞。無言で鞍を外して、後検量へと椿は向かう。


(くっそー、やられたわ。あそこから差されるとは思わんかった)


 唇を噛む。しかも弟の幸次郎にしてやられたのが椿の悔しさを増強させていた。


 一瞬の隙を突かれたとはいえ、あぁも()()()とは。




 ふと、自分に近づく影に気付き、顔を上げると蒼井の姿が見えた。



「……蒼井調教師(せんせい)、勝てなくてすみませんでした」



 開口一番、椿は敗戦を謝罪する。


 蒼井は腕を組んでいたが、やがて渋い顔で頭をかいた。



「展開のアヤ……やな。出し抜けにうまく差されたわ。あんなんしゃあない」



 悔しさが滲んでいる。それでも叱責はない。責められないことが、さらに椿の心に刺さる。


 椿は一度深く息を吸って、顔を上げた。



調教師(せんせい)。次……次はどうしましょうか」



 早い時期に賞金を加算すれば、クラシック路線に余裕をもって臨むことができる。

 

 しかし、今日の敗戦によって、次を勝たなければ皐月賞に出るのが難しくなった。


 椿は静かな声色で希望を話す。



「上のクラスで走らせてはどうでしょう。デイズなら、十分通用します」



 蒼井は目を細めた。



「強い相手を相手に、どれだけやれるか……見たいっちゅう気持ちがないわけやない。せやけどな───」



 蒼井は目を閉じて黙り込む。



「……アイツは賢いな。負けたこともよう理解しとる。今回の敗戦でアイツは学んだはずや」



 その場で明確な回答は無かったが、蒼井が方針を固めつつあるのは分かった。





 敗戦から数日後、椿のもとに一本の電話が入った。



『蒼井や。デイズ、次はきさらぎ賞に行こうと思う』



「きさらぎ賞……ですか」



 二月の京都競馬場で行われるGⅢ。通称、西のクラシック登竜門だ。過去にはヒカレイマイやキタヨカチドキなど、ここを勝ってクラシックを制した馬の名が並ぶ。



『賞金的にも、ローテ的にもここが一番ええ。覚悟決めよか───勝負掛けや』


 

 電話を切った瞬間、椿の胸は熱く震えていた。


(よし……次こそはやったるで、デイズ!)


 負けたまま終わるつもりなどなかった。そして、それはデイズも同じだった。





 枠順発表の日。一枠一番が割り当たった。



「ええとこ引いたなぁ……一番かぁ。レースでも一番になれそうやん」



 本間は馬体を洗いながら終始ニコニコしていた。



「どこか痛いところは? 今日もええ走りやったで! 次のレースは強い馬がおるらしいけど、デイズが一番強いから大丈夫や!」



 熱気たっぷりの言葉に、デイズはくすぐったそうに首を揺らす。



「本間さん、声大きいよ。でもうれしい!」



 冗談めかした馬の返事に、本間はさらにテンションが上がるのだった。




 きさらぎ賞当日。


 冬の京都競馬場は澄んだ空気に包まれ、出走馬十六頭のカラフルな馬体がパドックを彩っていた。


 一番人気はスペシャルデイズ。


 二番人気には最優秀二歳牝馬に選出されたアイーンブライド。そしてデイリー杯二歳ステークスを制したコールドエンペラーが続く。


 そうした実績馬を抑えて単勝一・七倍の断然人気に推されていた。





「ははは。一勝クラスなのにな。みんなお前に注目してくれてるようやで?」



 椿が誇らしげに笑いながら声をかけると、デイズは胸を張って言った。



「本間さんが言ってたよ。“デイズが一番強い”って。だから今日は勝つよ!」



「頼もしいなぁ、ほんま」



 地下道へと足音が吸い込まれていく。早くも椿はゴーグルをおろし、じわじわと集中力を高めていった。




 ゆっくりと馬場のコンディションを確かめながら返し馬をしていると、椿たちの横を、見覚えのある赤い帽子がゆっくりと近くに寄ってきた。



「調子良さそうやね」



「幸次郎。今日はやられへんで。なぁデイズ?」


「うん、今日は負けないよ!」



 声の主は───アサヒクリックと椿幸次郎。牽制のつもりか、椿とスペシャルデイズの様子を探りに来た。



「兄ちゃん、今日は二着狙いやさかい、安心してや!」



 飄々とした態度で。そのくせ、目の奥はギラギラしている。幸次郎はニコリと微笑んで離れていった。



 初騎乗初レースでいきなりGⅡを勝ち、“天才の弟も天才だった!”と話題になったあの勝負強さは間違いない。


(こいつ……今日も狙っとるな)


 アサヒクリックは前回がフロック視されたのか、今日も七番人気と低評価だった。 しかし、椿とデイズは侮らない。その勉強代はもう支払った。




 一方その頃、二番人気のアイーンブライドは、パドックからずっとご機嫌斜めだった。



「ねぇ、なんで二歳女王のアタシより、あの黒いのが人気あるわけ? おかしくない?」



 吉川は慌てて首筋を撫でる。



「まあまあ……レースで勝って見返せばええやんか」



「……それもそうね。 いいわ、アタシが分からせてあげるわ!」



 急に持ち直すアイーンブライドに、吉川は胸を撫で下ろした。


(せやけど……ほんま、この子強気やなぁ)


 通常、牝馬──それも二歳女王が、三歳の初戦に牡馬相手のレースに出走するのは異例のローテだ。

 だが、常識に囚われないのが彼女の強さであり、美しさでもあると吉川は思う。


(今日も上手くエスコートしたらな)


 自身にGⅠ初勝利をプレゼントしてくれたアイーンに。できる限り寄り添いたいと思う吉川だった。




 スタート地点。二コーナー奥のポケット地点では、各馬のゲート入りが始まっていた。


 奇数番であるスペシャルデイズは、早々とゲート入りを終えた。ゲート入りは驚くほど順調に進み、まもなく大外・十六番オマタセサンシローが収まろうとしていた。




───『さあ、西からクラシックへの扉を開くのはどの馬か。 GⅢきさらぎ賞──スタートしました!』───



 重厚な金属音が響いたと同時に、十六頭の馬たちが一斉に飛び出した。


 先手争いはエスエフグッドワンがわずかに前に出る。差がなくイライラハリケーン、さらにシェイクブイブイオー、内からはコールドエンペラーと続く。


 どの馬も積極的に逃げる訳ではない。スタート後に続く、向こう正面の長い直線を使ってもなお、ペースは上がらなかった。




(うわぁ……団子のまんまやな)


 一枠一番のデイズは中団九番手。

 馬群が固まりすぎて、外へ出るどころか前後左右がすべて塞がれている。


(今日も難しい展開になったわ……さて、どうするか)


 椿は冷静だったが、超スローに慣れていないデイズは時折前に行きたがるような仕草を見せる。



「デイズ、抑えて。ここは我慢や」



「……わかった。がんばるー」




 この素直さ。デイズの武器の一つだ。





 そんなスペシャルデイズの外にいたのが、アイーンブライドだった。



「ちょっと! なんでそんなに近いのよ! どきなさいよ!」



 馬群のなかでイライラを募らせ、吉川は冷や汗を流していた。



「アイーン、落ち着いて! もうすぐ動けるから!」



 漫画なら完全に“怒りマーク”がついているな。そんな自虐的なことが吉川の脳裏をよぎる。

 吉川の思いをよそにアイーンは完全に頭に血が昇り、口を割ってしまっていた。





 三コーナー。スローペースにみかねて馬群が徐々にペースを上げ始めた。固まっていた馬群がさらに縮まり、窮屈さが増す。


 スタンドのファンたちは、各馬の蹄音が重なり、一つの生物の足音のように聞こえた。



───『三コーナーから、四コーナーへ!各馬一団の状態で直線に入ります。内の方はちょっとゴチャついている、スペシャルデイズ大丈夫か!?』───




 実況の上ずる声に反して椿は落ち着いて、進路ができるのをじっと我慢していた。


 手の先足の先まで感覚が研ぎ澄まされる。椿とデイズの周りの空気が変わり、周囲の音が遠ざかっていく。



(まだや、まだや。───来るぞ)



 椿の手が軽く動く。


 デイズの耳がピンと立ち、待ってましたと言わんばかりに、ハミを噛んだ。





───『ここでコールドエンペラー前に出た! 逃げ粘る二頭を交わして先頭に立つ!


そして、馬場の真ん中を割ってスペシャルデイズやってきた!一気に先行集団を飲み込む!!』───




 椿のムチに、デイズは即座に反応した。全身を使った大きなストライド。


 黒鹿毛の馬体が一気に弾けた。




 他馬が伸びあぐねる中、デイズだけが別次元の伸び脚を見せる。




───『スペシャルデイズだ! スペシャルデイズだ! 抜けた抜けた!!


今日は大丈夫だ! スペシャルデイズ! 後ろからは何も来ない!!』───




 椿は手を緩めない。


 先頭に立ったスペシャルデイズも、じっと前だけを見つめて、一気にゴール板に向けて飛び込んだ。






───『スペシャルデイズ、強い!他馬を全く寄せ付けない!完勝です!


二番人気アイーンブライドは伸びを欠き、馬群に沈みました!』───





 スペシャルデイズがゴール板を駆け抜けた瞬間。椿は自然と手綱から手を離し、拳を握った。


 グッと握りしめられた拳には、このレースにかける想いが込められていた。







「お疲れさん。ようやったな。これでダービーまで安泰や」


「今日は最後まで頑張ったよ! ユダンタイテキ!」




 デイズの言葉に、椿は思わず吹き出した。



「はは。ああ……そうやな。今日は油断せんかったな」



 首を優しく叩いて労う。その感触に心地よさを感じてスペシャルデイズは目を細める。



「ほな、帰ろか。蒼井調教師(せんせい)も喜んどるで」


「うん!よし、今日はたくさん褒めてもらおうっと!」



 デイズは鼻を鳴らし、軽やかな足取りで引き返していく。レースの疲れも感じさせず、元気一杯な様子に、椿も自然と顔が綻ぶ。


 スタンド近くを通る際、強い競馬を見せたスペシャルデイズと椿に拍手と声援が飛んできた。


 心地よい充実感に包まれながら、椿はスタンドに向けて、ムチを持った左手を挙げる。


 わぁーっと湧き上がる声を背にして、スペシャルデイズと椿の姿は地下道へと消えていった。




 翌週。競馬雑誌にはスペシャルデイズの名前が踊った。


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


   西から大物現る!きさらぎ賞を完勝!


        スペシャルデイズ


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



 朝日杯二歳ステークスをレコードで制したテラスワンダーはマル外でクラシックに出走できず。


 年末にあったラジオたんぱ二歳ステークスでは、クラシック候補と目されたノーブルヘイローが、同じくマル外のロードマックスに敗れてしまう。


 そのためこの年のクラシック戦線は混沌としていた。

 

 そんな中、クラシック戦線に名乗りを上げたスペシャルデイズ。

 きさらぎ賞でのパフォーマンスは大きく期待させるものであった。



 その雑誌の記事の最後には、こんな言葉で締め括られていた。




『鞍上は天才・椿航。悲願のダービー制覇はこの馬と、かもしれない。次走の弥生賞で春のクラシックへ王手をかける』


お読みいただきありがとうございました!

書いててゴールシーンは手に力が入りましたw


この世代は魅力的な馬が多くて沼りますね。良ければどの馬が推しか教えてください!



次は閑話サンデーさんのお話です。明日には更新できそうです!

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☆☆☆☆☆→★★★★★にしてもいいよ

ブクマ歓迎!

せめて、リアクションだけでも(・ω・`人)

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本編から外れる馬をテーマにした番外編を書き始めました。競馬好きな方は良けれ↓もご覧ください。

https://ncode.syosetu.com/n6988lm/

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