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46/53

46 昇日。

書けたので投稿しちゃいますw



前回のあらすじ

 スペシャルデイズのデビュー戦。圧倒的人気に応えて見事に勝利する。椿を背に、鮮やかな勝ち方から早くも来年のダービーの声が上がる。

46 

 十二月最終週──。


「除外か……しゃーないわ」


 蒼井が書類を見て肩を竦めた。


 新馬戦の圧巻の勝ち方が話題を呼んだスペシャルデイズだったが、二勝目を狙って登録したレースは、あいにく登録頭数が多く、運悪く出走枠からあふれてしまった。



「まあ、一週延びるだけや。調子はええし、問題あらへん」



 蒼井の言葉に、馬房の奥で干し草を食んでいたスペシャルデイズが耳をぴくりと動かし、反応する。そして不満げに蒼井に尋ねた。



「ぼく……まだ走られないの?」



「来週に延期や! 心配せんでもええ」



 蒼井が軽く首を撫でると、デイズは満足げに目を細めた。


 そうしてスペシャルデイズの次走は、年明けの京都千六百メートル・白梅賞に目標が振り替えられた。



 白梅賞の追い切り。冬晴れの栗東トレセンのウッドチップを、黒鹿毛の馬体が豪快に跳ね上げていく。


 その背には椿航の姿があった。


「ほな、もう一丁いこか」


「うん、任せて!」

 


 元気いっぱいに返事をする。走るのが楽しくて仕方ないといった様子だ。


 椿が軽く合図を送ると、スペシャルデイズはタテガミを揺らしながら加速する。


 ウッドチップの上を滑るように伸びていくその脚は、前回と変わらぬ迫力───いや、それ以上だった。




 追い切り時計を確認した蒼井は、満足そうに頷く。



「調子落ち? そんなもんあるかい。むしろ上がっとるがな」



 除外で一週延びたことによる再調整は杞憂に終わった。勝負気配は整っている。万全と言えた。




 迎えた京都競馬場・白梅賞当日。パドックでは落ち着いた足取りでスペシャルデイズが周回していた。


 サンデー産駒とは思えぬその大人びた雰囲気は、競馬ファンのあいだでも密かに話題になっていた。



「今日も断然人気やな。また単勝一倍台かい」



「二番人気と倍以上離れとるで。こりゃ一着は固そうやな」



 観客のざわめきがパドックに満ちる。だが当の本人───黒鹿毛の若駒はどこ吹く風。僅かに外を眺めているだけで、気負いすら感じさせない。



「ええ落ち着きや。よし、いくか」



 号令がかかり、椿が跨がる。スペシャルデイズは大人しく受け入れ、軽く首を上下に振った。



「今日も頼むで、デイズ」



「うん。がんばるよ」



 地下道を抜けると、どっと歓声が押し寄せる。それでもデイズは足取りを乱さず、芝の感触を確かめるように前へ進む。軽やかな走りで待機所までゆっくりと進んだ。



 返し馬でのしなやかさは新馬戦と変わらない。椿は手綱を軽く握り直した。


(今日も調子良さそうや)


 係員の誘導でゲートへ向かい、三番ゼッケンの黒鹿毛はすんなりと枠へ収まった。


 椿がちらりと外を見ると、他の馬がゲート入りを嫌がって跳ねている。


(早よ入ってくれんかな……まぁ、デイズはゲートを嫌がらんから助かるわ)


 スペシャルデイズは微動だにせず、静かに前を見据えていた。集中している様子がその目から伝わってくる。椿は安心して他馬の枠入りが終わるのを待った。



 そして───全馬枠入りが完了し、金属音が響き渡る。




 ガシャンッ!!



 一斉に十六頭が飛び出す。スペシャルデイズも綺麗にスタートを切った。


 内から白い帽子の二頭が競りかけ、ハナ争いを演じていく。僅かに譲らぬ気配で、十六頭は望む位置へと殺到していった。



 二頭の逃げ争いの後ろに単独で収まったのは九番のサンライズトーリョウ。その直後には人気上位の馬が固まり、一団を形成する。


 スペシャルデイズはその内。七、八番手のポジションにつけていた。


(お、囲まれたか)


 断然人気ゆえ、どの馬も黒い帽子を意識している。外から被され、前も塞がれ、身動きがやや取りづらい。


 その状況に椿はわずかに眉をひそめた。


(さて、どこで外に出すか……)


 椿は全体のペースを感じとりながら、進路を見極めようと感覚を研ぎ澄ませていった。



 先頭を引っ張るのはゼンノショチョウ。平均よりやや速めのペースで逃げていた。その半馬身後ろをバンガードフラッグが追走する。


 そこから三馬身離れてサンライズトーリョウ。さらにその外に二番人気のダイニチレーサー、セッセトタクマ、セイントボーカルと続いていた。


 スペシャルデイズは依然として動けないでいた。しかし、椿は焦らない。これまでの経験から、仕掛けるタイミングを静かに待っていた。



 一番人気の馬が包まれて動けないでいるのを見て、観客席からざわめきが広がっていく。



「おいおい、大丈夫なんか!?」



「出るとこないぞ!」



 前方の馬たちはすでに三コーナーへ差し掛かる。



───『先頭はここでバンガードフラッグに変わったか? 後続もじわりと差を詰めてきた! スペシャルデイズはまだ中段!なかなか進路が見つからないか!?』───



 実況の声も熱を帯びる。

そして、先段は四コーナーに差し掛かる。



 場内からワァッと歓声が上がった。



 逃げ粘ろうとするバンガードフラッグ。そこへダイニチレーサーとセイントボーカルが襲いかかる。



「よし、今や!」



 コーナーで膨らむのを利用して、椿は手綱を操り、外へと馬体を持ち出す。スペシャルデイズはそれに鋭く反応し、肩を沈めてギアを上げていった。



───『ダイニチレーサー、セイントボーカルが馬体を合わせる! 外からスペシャルデイズが良い脚で上がってくる!!』───



 残り二百──。



 前の二頭を射程に捕らえ、黒い馬体が一気に迫る。その様子を見て、スタンドは勝利を確信した。椿も、スペシャルデイズも、前だけを見据えて末脚を伸ばす。



(よし、もろうた!)



 手応え良く伸びるデイズ。半馬身、クビ、ハナと先頭の馬との差が無くなっていった。


 スペシャルデイズも『よし!交わした』と思い、大きく息を吐いた。


───しかし



───『スペシャルデイズがここで先頭に立つ!! 


いや大外だ!! 大外から!! アサヒクリィックゥゥゥゥ!!』───




「──は?」


 椿が思わず声をもらす。


 スペシャルデイズが勝ったと思って、ほんのわずかに勢いが緩んだ、そのタイミング。


 真っ赤な帽子が、大外から矢のように突っ込んできた。その勢いは前の馬を根こそぎ飲み込む。



「よっしゃ!!もろたわ!!」



 アサヒクリックの背で、椿幸次郎が歓喜の雄叫びを上げた。



 単勝万馬券。十四番人気の超伏兵。

昇りゆく朝日のように煌めく末脚で、(スペシャルデイズ)の勝利を(アサヒクリック)がさらっていった。

お読みいただきありがとうございます!


さて、年内は何話更新できるか。私もよく分かりませんw


次回はおそらくクリスマス頃の更新になるかと思います!


==============

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