10閑話 隣人の息子がテレビに出るんだって。
今回は閑話の4話目です。青葉賞の裏側でサンデーくんとマックイーンがテレビで応援するシーンです。
前回のあらすじ
マックイーンの息子・ポンポコポンが青葉賞に出走。途中あきらめそうになるが主戦騎手の柏木の檄に応えて激走する。
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テレビからはドドドドドという蹄音とともに、実況の男がレースの行方を伝えている。ダービートライアルの青葉賞は先ほどスタートが切られていた。
「むむむむ……」
「あ、動いた!」す
◇
今日はオレの隣人、メグロマックイーンの息子がダービートライアル・青葉賞に出走する日だ。
オレは厩務員のアンナに頼んで、テレビの見れる部屋に連れてきてもらった。前にマックイーンとアイツの息子を一緒に応援すると約束したからな。オレは約束を守る男だ。ふふん。
オレとマックイーンは椅子に座り、テレビに映る青葉賞のパドックを見る。八番のゼッケンを付けて周回するのがマックイーンの息子のようだ。
「息子くんの横断幕が何個か出てるじゃん。この間二勝目を挙げたばかりなのに、なかなか人気があるんだな?」
「そうみたいだね。競馬雑誌に写真入りで掲載されていたみたいだから、その影響なのかもね」
息子くんはマックイーンに似た芦毛の馬で、体つきを見た感じ、まだ成長の余地があるように思う。もう少し身体が大きく育てば強くなりそうだ。
もともとマックイーンの産駒は三歳の秋以降から活躍する傾向があるらしいからな。それでいて、この時期に二勝目を挙げた息子くんはやはり潜在能力が高いんだろう。
「お前の息子……なかなか期待できそうだな」
「え?そ、そう?アメリカNo.1のキミにそう言ってもらえるとお世辞でも嬉しいなぁー」
「まだ成長途上な感じは否めないがな。このメンバーならひょっとしたら、権利取り……いけるかもな」
パドックの映像を見ながらオレとマックイーンはそんな話をする。うん、麦茶が香ばしくてうまい。
「うわぁー、自分が走るより緊張するなぁ。そう言えば、こうやってテレビで観戦するのは初めてかも。ボクの産駒って晩成型が多かったから」
「そうか。お、ファンファーレだ!ジャポンのレースは華やかでいいよな。オレも一度走ってみたかったな」
「外国では静かにレースが始まるんだってね。んーじゃあボクと一緒に現役復帰しちゃおうか?まだオープン戦くらいならいい勝負できると思うんだよね」
……こいつ、また変なことを言い始めたぞ。よし、少しからかってやろう。
「良いこと言うなぁ。じゃあ、フジワラに言って現役復帰プランを検討してもらおうじゃないか?いっそ、オレはターフ、お前はダート。現役時代の主戦場を入れ換えてみるのも話題性もあって面白いんじゃないか?」
「あ、スタートする!ちょっとサンデーくん、静かにして!」
……はぁぁぁぁぁぁぁぁぉ!!!???こ、こいつ、お前から話を振っておいて、そんなこと言うのかよ。頭にきた!!!
いや、待て待てサンデー、アイツも自分の息子がダービーに出れるかどうかでナーバスになっているんだ。それにレースも始まったから、ここは一つ大人になってアイツの息子を応援してやろう。
そうだ、こんなことで腹を立てていては度量が小さいぞ、サンデー。笑って許してやろうじゃないか!
「マックイーン、悪か──」
「サンデーくん!静かに応援しよう?」
……コイツ後で覚えてろよ!!
◇
「あ、動いた!」
良いスタートから先行していたアイツの息子。第三コーナー手前くらいから早めに先頭の馬を捕まえに行くようだ。
それまで静かに観戦していたマックイーンも思わず声に出してしまった。それだけ仕掛けるのが少し早い気がするもんな。
先頭までは結構な差があるが、果たして捕まえられるのかな?
レースの行方を伝える実況の男の声が一気に熱を帯びてきた。それに連れて自然とオレの手にも力が入る。
青葉賞のレースも終盤、第四コーナーを回って直線に入ってきた。
お、一番人気の馬がさらに突き放しにかかった。まだ余力ありそうだし、これは後続の馬は厳しそうだ。アイツの息子も内から頑張ってるが……
「……いけ」
ん?隣でボソッと何か聞こえたぞ、何だ?
「……いけ!」
「……いけ!いけ!頑張れ!」
……気のせいじゃなかった。ちょっと目が血走ってるし、鼻息荒いんだけど大丈夫か、コイツ?
「いけ!差せ差せ差せ差せ!!ジョッキー!早く鞭入れろ!!差し返せぇぇぇ!!」
…………こわ!?え、何それ、普段のマックイーンと全然違うんですけど!?二重人格!!??
オレがマックイーンの豹変ぶりに恐れおののくうちに先頭の馬がゴールを果たす。
マックイーンの応援のお陰か、脱落したように見えたアイツの息子は、最後の最後に差し返して三番手の馬に並びかけた所がゴールラインだった。
「だぁぁー!!くっっそ!負けたぁぁぁ!!」
オレの隣で自分の息子が負けたことを悔しがるマックイーン。天を仰ぐように頭を上げた後、がっくりと項垂れていた。
「ま、負けたけど最後も良い根性を見せていたな。今後の成長が楽しみだな」
豹変したマックイーンに何と声を掛ければいいか、逡巡しながら恐る恐る話しかけた。
「…………そうだね。本当に惜しかったよー。勝てなかったけど三着争いに食い込めたし、ダービーに出れなかったとしても秋が楽しみだねー」
よかったーーーーーー!!
レースが終わったらいつものマックイーンの口調に戻ってる!!レース中の口調は本気でビビったからな……
オレがホッとしていると、テレビでは一際大きな歓声があがる。どうやら写真判定だった結果が出たようだ。
「あぁ……惜しかった。うちの子はハナ差で四着だったよ」
「惜しかったな。ダービーは出れないけど、秋に期待だな!」
「そうだね、ひと夏越して今度は菊花賞に向けて頑張ってほしいな。今度はボクとの親子制覇を期待するよ」
麦茶をぐいっと飲み干して、オレはテレビを消した。観戦の準備をしてくれたアンナに礼を言ってオレとマックイーンは厩舎に戻ることにした。
その帰り道、マックイーンは鼻唄を歌いながらオレに話しかけてきた。
「サンデーくん、今日は一緒に応援してくれてありがとう!緊張したけど楽しく応援できたよ。もし良かったらなんだけど……また、一緒に応援したいな?」
「え!?あ、うん。そ、そうだなぁ……」
少し声が上ずってしまった。またテレビ観戦に誘われたぞ!? コイツの豹変ぶり、ものすごく怖いんだよなぁ……。鬼気迫るというか……もし、レースに勝ちそうになったら何されるか分からない気がするなー。んーーーー、よし。
「じゃあさ、秋に大きなレースに出る事になったら、またテレビで応援しようか?」
「あ、いいね!じゃあまた約束しようよ!約束破ったら、針千本飲ますからね?フフフ」
「お、おう。分かった、約束するよ……」
満足げに笑うマックイーンを見て、オレは一抹の不安を感じながら苦笑いを浮かべるのだった。
これにて閑話も完結となります。
その後のポンポコポンの活躍はいかに?気が向いたら、その後のお話を書くかも……です笑。
今回で第一章完結です。第二章については11月下旬あたりから再開予定です。
お楽しみに~(ФωФ)
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