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01 不遇のダービー馬あらわる!?

企画用の作品です。テーマは分水嶺。

4~5話くらいで完結予定です。


のんびり更新予定なので、面白かったらブクマよろしくお願いします(ФωФ)


01 

ここはアメリカのケンタッキー州にあるヒュージファーム。

広い草原の中に哀愁を漂わせて、ぽつんと佇む1頭のサラブレッドがいた。


彼の名は、『サンデーサイエンス』。

前年にケンタッキーダービーやブリーダーズカップといった、アメリカを代表する大レースにたくさん勝利した名馬である。


翌年の活躍を期待され、明け4歳になっても現役を続けたが、脚の怪我によって不完全燃焼のまま引退することになった。


そんな彼は生まれ故郷の牧場に療養のため帰ってきていた。


「あーーーー、暇だ……。何もすることがねーって、本当に辛いんだなぁ。足が痛ぇから本気では走れないし、毎日草を食って、突っ立って、厩舎に帰って寝る毎日。あー、ストレスでハゲそう。」


サンデーサイエンスは大きなため息を吐いた。


「あー、空が青いなぁ。走れないオレには関係ないけどな。はは。暇だから牧草たべてゴロゴロすっかなー。」


牧場に戻ってきて早数ヶ月。その間に春が来て、夏になり、秋を迎え、最近は冬の気配が近づいてきている。


風になびく漆黒のたてがみも覇気がなく、へにょんとくたびれている。

ぽっちゃりとした腹回りにボサボサの毛。


誰がどう見ても栄光のケンタッキーダービーを勝った馬には見えない。むしろ、落ちぶれた感じが漂い、何とも言えない残念さがにじみ出ていた。


「オレはいつまで、こんなことをしなきゃいけねーんだよ。脚の怪我で現役引退したのは仕方ないが、オレはダービー馬だぜ?一流馬が引退したら、その次は血を残すのがダービー馬の、オレの仕事のはずだろ?なのに、毎日立ってるだけって……Why????」







そう、確かにサンデーは強かった。しかも彼の同期には()()『イージーモア』がいた。

イージーモアは名門の牧場出身で、両親はともにアメリカの大レースを勝った偉大な馬で、その血縁にも活躍した馬が多かった。


競馬界で言われるところの良血馬と呼ばれる馬で、もちろん、関係者の間でも非常に期待されていた馬である。

例えるなら、オリンピックの金メダリストを両親に持ち、その両親と同じ種目に現れた期待の逸材と言えば分かるだろうか。




対してサンデーサイエンスは、父親こそ一流馬のヘンローだったが、母親は少し大きなレースに勝った程度で、祖母は一度もレースに勝てず、曾祖母に至ってはレースに走ることすら叶わなかった。

そういう意味では、血統的な注目度はイージーモアに比べて非常に低いものだった。しかも、産まれた頃から冴えない容姿が嫌われ、生産界の関係者にサンデーを見せると、乾いた笑みを浮かべ、何言わずに去っていく有り様だった。




だが、それでも走ってみないと分からないのが競馬の醍醐味の一つと言える。


実際に、イージーモアとサンデーサイエンスは現役時代に幾度もしのぎを削った。

4度あった対戦のうち、なんとサンデーが3勝をあげている。


その中のひとつに3歳馬のナンバー1を決めるレース、ケンタッキーダービーがあった。



────ナンチャラ競馬場

圧倒的な一番人気のイージーモア!

4コーナーを回って最後の直線に入ってきた!

爆発的な加速!速い速い速い!

あっという間に、あっという間に、あっという間に……追い付けなかったーーーー!?


イージーモアは2着!?

なんで負けた?!俺、今月の給料、全部お前に賭けていたよ?

え、うそ?今月の家賃払えないよ、どうしようぅぅぅ?


ウイナーいずWHO!?

サンデー?

何と、サンデーサイエンスが勝っちまったーーーー!!!アメーズィィィングゥゥ!!!!


────────




このダービーの勝利後、サンデーサイエンスは、3歳のトップレベルが集う三冠レースの残り二戦にも出走した。


第二戦目もイージーモアを破り優勝。

最終戦こそ2着に敗れるが、三冠レースで2勝2着一回と、元々の期待値を考えれば、これ以上無いほどのとてつもない結果を残したと言える。


みんなの期待を一身に受けてきたイージーモアと、そこまで期待をされていなかった、むしろ幼少期のみすぼらしさから、セール(競争馬を売買するイベント)に出しても誰からも相手にされなかったサンデーサイエンス。

ヒーローとヴィランのような、真逆のキャラクター性を持ったこの二頭の戦いには、全てのアメリカ国民が熱狂していた。


そしてその年の秋。サンデーはブリーダーズカップに出走した。

このレースは、年上の強豪との闘いであり、ライバルのイージーモアとの再戦でもあった。言わば現役最強をかけた戦いである。


このレースも前哨戦を年上の馬相手に20馬身という圧倒的な差をつけて勝った、《ヒーロー》イージーモアが一番人気となり、優勝するのはこの馬で間違いないと競馬ファンは確信していた。



─────スゴクオオキナ競馬場

最後の直線です!

イージーモア先頭!!その外側にサンデー!!

え、うそ!止めて!!

イージーモアがんばれ!!がんばれ!!


え?!やばいぞ、またサンデーが勝っちゃう?

無理無理!お願い止めて!?

おね……ヴォケェェェイ!!


イージーモア負けてしまった!!俺の馬券もまた紙くずに変わった!?おれ、母ちゃんに家を追い出されちまう!?

どうしてくれるんだ、サンデーサイエンス!!

俺はもうお前の顔を見たくない!!


───────








「はぁーーー。ハゲそう。」


今日もまた何もしない一日が終わる。そう思ったサンデーの元に二人の男がやってきた。


「おーい、サンデー!ちょっとこっちまで来てくれるかー?」


サンデーは声のした方に振り向く。

そこにはヒュージファームの社長と見知らぬオッサンが立っていた。


「社長どうした?引退を撤回して競馬場に戻るって相談なら、オレは戻ってもいいぜ?このままここにいたら、ストレスでハゲそうだからな。」


社長と見知らぬオッサンは顔を見合わせた後にゲラゲラ笑いだした。


「な、何笑ってんだよ?!」


「いや悪い悪い。お前のその立派な腹で現役復帰なんてジョークにしか聞こえなくてな。それより紹介するよ。こちらはジャポンから来た俺の知人のフジワラだ!」


サンデーサイエンスは紹介された男、フジワラを見た。

フジワラは小太りな中年のオッサンで、鼻の下に生やしている髭は、悪者に拐われた桃のお姫様を助ける赤と緑の配管工の兄弟のようだ。

身につけているサングラスは、お世辞にもあまり似合っているとは言えない。

パッと見で言えば、胡散臭いやつだな。とサンデーは思った。


「やっと会えたな。はじめまして、だ。サンデーサイエンス。俺はフジワラだ。さっそくだが、キミ。ジャポンに来て俺と一緒に働かないか?」


挨拶もそこそこにフジワラは、サンデーサイエンスの手を取りながらジャポンに行こうと誘った。

その物言いは、『ちょっと近所のコンビニまで行かないか?』くらいの気軽さを孕んでいた。


「おいおい、フジワラさんよ。ジャポンに?このオレが?ふふふ。面白いジョークだな。」


思わずサンデーはくすりと笑ってしまった。いわゆる場を和ますためのジョークであると受け取ったためである。

しかし、フジワラの表情は真剣そのもの。


自分だけが笑っていることに気づいたサンデーサイエンスは、戸惑いながら隣に立つ社長に視線を送る。社長はどこか痛ましそうな表情を浮かべている。


「サンデー……これはジョークなんかじゃないんだ。フジワラはお前の脚の速さに惚れ込んでいる。その熱意は本物だ!サンデー、ジャポンに行け!」


「ジャポンかー。まぁでも、スシとか言う食べ物がうまいんだろ?あとはスカイタワーとかスモウとか観光地もたくさんあるらしいから、一週間くらい気分転換に行ってみるのもありかなー。」


社長とフジワラは再び顔を見合わせ、小声で相談し始めた。『どうするフジワラ?やっぱり止めるなら今のうちだぞ?』、『いや、俺は止めない。自分の直感を信じたい。』

話し合いが終わると、今度はフジワラが諭すような優しい口調で話し始めた。


「なぁ、サンデー?キミは観光でジャポンに行くんじゃない。仕事をしに行くんだ。これはビジネスの話なんだよ。分かるかい?一度ジャポンに行けば、もう二度とこっちには帰ってこれないかもしれない。だが、キミはジャポンに来れば、今度こそスターになれるかもしれないんだ!なぁ、俺と一緒にジャポンで頑張らないか?」





「……いやいや、待ってくれ!だってオレ、ダービー馬だよ?去年の最優秀サラブレッドに選ばれた馬だよ?確かに脚の怪我で引退したけど、種牡馬として期待されているだろ?フジワラには悪いが、どうしてジャポンに行かなきゃいけないんだ?」


オレ何かおかしいこと言ってる?とばかりにサンデーサイエンスは一気にまくし立てた。


「……サンデー。お前はダービー馬だ。そして最優秀サラブレットにも選出されるほどの成績を残した一流馬だよ。」


社長はサンデーの肩に手を置き、ことさら優しい口調で、────残酷な現実を突きつけた。


「だがな、成績は一流でもお前は血統が悪い。そして見た目もみすぼらしい。そのせいでどこの牧場からも種牡馬としてのオファーが来なかった。俺も手を尽くしたんだ。頭を下げてお願いして回ったが、門前払いもいいとこさ。アメリカの生産界はお前を見捨てたんだ!」






サンデーサイエンスは雷に打たれたような強い衝撃を覚えた。

社長から伝えられた衝撃の事実を理解することができず、ただただ呆然とするほか無かった。

およそ一年前に確かな栄光を掴んだ漆黒の名馬は、もうどこにもいなかった。

馬の世界って厳しいんですね。

レースで活躍して繁殖入りしても、人気がなければお払い箱になっちゃうなんて。

先日、イクイノックスが200頭超に種付けしたって話を聞きましたが、引退後も注目されるってすごいんですね。


さて、本作のサンデーくんはどんな決断を下すのか。

◆次回更新は来週の(金)21:20の予定です

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