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戦士たちの休息~思い出の『とんかつ』~

作者: トンカツのトントン

とある異世界では今、大国とその大国に隣接する小国が戦争をしていた。当初はあっという間に小国が蹂躙されるであろうと思われていたのだが、大国の行動に危惧を覚えた諸国が密かに小国を支援した為に現在はこう着状態となっていた。


そして今、昼間の戦闘が終わり一息ついた戦士たちは塹壕の中で支給された干し肉を齧りながらお喋りをしていた。


「けっ、段々とメシの質が落ちてきやがる。なんなんだこの干し肉はっ!筋ばっかじゃないかっ!」

「そうゆうな。まだ喰えるだけましだ。他の前線では危険すぎて補給が滞り草の根を齧って凌いでいるところもあるらしいからな。」


「あーっ、トンカツが喰いてぇ。俺の村にはよぉ、すげー美味いトンカツを食わせる店があるんだ。まっ、とは言ってもトンカツは高いから滅多に食えないんだけどな。」

「言うなよ、食べたくなっちまうじゃねぇか。でも確かにトンカツは美味いよな。とは言え俺もそんなに喰った事はないけど、たまに親父があぶく銭を手に入れた時は着飾ってトンカツ屋に連れてってもらったなぁ。」


「おうよ、特に揚げたてのトンカツは最高だぜっ!あのサクサク感と口に含んだ時のじゅわっと染み出る肉汁の味は堪えられん。」

「付け合せのキャベツもいい味だしているよな。」


「キャベツかぁ、確かにトンカツと一緒だとあれも美味く感じた。生キャベツなんて食い飽きているのにな。」

「はははっ、あれってやっぱりドレッシング効果なんじゃないのか?ほら、トンカツのソースって店によって味が微妙に違うだろう?」


「おうっ、俺の推しはなんたって胡麻ダレだな。初めは邪道な気がして普通にソースを掛けていたんだが強く勧められて食べたらびっくりしたぜっ!」


戦闘の緊張から解放された戦士たちは一時の平穏に饒舌になる。だが古参たちのトンカツ話も一回りした頃、ひとりの古参がそまで聞き役に徹していた少年兵に話を振ってきた。


「おうっ、坊主。お前はトンカツ喰った事はあるか?」

古参の問いかけに少年兵はにこりとして思い出を語り始めた。だが少年の話にその場にいた戦士たちは全員が沈黙した。何故ならば少年兵はハムカツの事をトンカツだと思って語ったからだ。


それはまだ少年兵が幼き頃の話だった。その当時、少年の家は働き手である父親を流行り病で亡くしていて裕福ではなかった。だがそれまでの蓄えと働き者の母親のおかげで少年が空腹を覚えた事はなかった。

しかしそれはあくまで食べる物があったとうだけで、それまで少年の家の食卓に『トンカツ』が乗る事はなかった。


そんなある日、ちょっと裕福な家庭の子供が親にトンカツ屋へ連れて行ってもらったと自慢した。その話を聞いた他の子たちも俺だって食べた事があるぜと追随する。

だがトンカツの話題で盛り上がる子供たちの中で少年だけが話しに混ざれなかった。なので気づかれぬように輪の中から抜け出し家へと帰った。


そんなしょんぼりして帰って来た少年をみて母親は心配し問い質す。そして原因が『トンカツ』である事を聞き出した。

そんな少年に母親は笑って「なら明日の夕飯はトンカツにしようかね。」と言ってくれた。

母親の言葉に少年は大喜びである。


そして翌日の夕飯を迎えた少年は母親が作った熱々のトンカツに目を見張る。そして絶賛しながら大喜びで食べた。

そんな少年に母親は自分の分も食べろと薦める。その言葉に少年は躊躇うがトンカツの魅力には勝てず差し出されたトンカツを半分にして母親と分け合った。


「おいしいかい?」

「うんっ、すごくおいしいよっ!」


少年兵はそんな昔のエピソードを語り終えた後「でもまぁ、僕が食べたトンカツはみんながお店で食べたやつみたいに分厚くはなかったんですけどね。でも本当に美味しかったんですよ。」と、ちょっと自傷気味に付け足し話を終えた。

そんな少年兵が語った話に周りの戦士たちは微笑みながら頷く。


「そうだな、やっぱりかあちゃんが作ってくれたメシが一番だ。」

戦士たちは少年兵の母親が作ってくれたトンカツが実はハムカツだったであろう事を薄々感づいていた。

だが誰もその事を指摘したりはしない。

そう、問題はそこではないのだ。母親がうな垂れる少年の為に作ってくれた事が大事なのである。


多分当時の少年の家庭事情では安いハムでさえ買うのは大変だったはずである。だが母親はなんとかしてハムを手に入れ少年に食べさせたのであろう。

それが判るから戦士たちは誰も茶化さなかったのだ。


多分少年も今では母親が作ってくれたあの『トンカツ』が、実は安く手に入るハムを使った『ハムカツ』だった事を理解しているはずである。

だが少年の中では今もあれこそが『トンカツ』であり続けているのだろう。


そして少年兵が無事戦場から戻れた時には、きっと母親は泣きながら少年を抱擁するはずだ。

そんな母親に少年はこうおねだりするはずである。


「また母さんが作ったトンカツが食べたいな。」


-完-

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― 新着の感想 ―
[良い点] 私も高校卒業するまでとんかつを食べたことがなかったのを思い出しました(•ᵕᴗᵕ•)⁾⁾ 私の場合、貧しかったからとかではなく、単に父親の主義みたいなものででしたが(*´艸`*) 本物、代…
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