第6話 騎士団長様へのラブレター
第7話は、明日以降にアップします。
ジョナルド卿との縁談を断ってから、私は何件かの見合いを精力的にこなした。
しかし、ピンとくる人はいなかった。
やがて、見合いへの興味も失い、父も縁談を持ってくるのをやめてしまった。
庭の花の世話をし、ドライフラワーや造花を作る日々。
趣味に没頭していると、いつの間にか時間がすぎていく。
私は29歳になっていた。
「…」
庭の温室の中にあるテーブルで、私は布を張り合わせて造花を作っていた。
考え事をしていた私は、ボーっと作りかけの造花を見ていた。
「また、何か考え事ですか?まさかまた、昔の夫の事を思い出しているのかしら」
私の前で、一緒に造花を作っていた母が、私に声をかける。
花の趣味は、全て母から教わったものだ。
「違います奥様。このジェーンには分かっております。お嬢様はジョナルド卿の事が忘れられないのです。ジョナルド卿は、まだお一人との事。まだ遅くはありませんよ!」
後ろに立っていたジェーンが、はっきりそう言う。
「なっ!あんな熊髭に未練があるわけないでしょう!馬鹿を言わないで!」
私は、顔を赤くして怒った。
「お前がずっと一緒にいてくれるのは幸せな事だけどね。でも、心残りがあるなら、当たって砕けていらっしゃい。お前をちゃんと、子供が出来る子に産んであげられなくて、ごめんなさい。でも本来は、お前はもっと人を素直に愛せる子だったはず」
母が涙ぐみながら、私にそう言う。
その時ジェーンが、クシャクシャに丸めた紙を取り出し、広げる。
「何とか、ジョナルド様とご縁が無いでしょうか?出来れば、もう一度お会いしたいです…」
紙に書かれた内容を読み上げるジェーン。
「ああ!!やめて!プライバシー侵害よ!人の部屋のゴミ箱を漁らないで!」
私は、叫んだ。
「この様な手紙を、夜な夜なしたためては捨てるお嬢様を見ていられません。いつか、やめると思っていましたが、今でも続けられていますね?そんなに思いつめられているなら、実際に行動なさっては?」
ジェーンが、私に言う。
「そうですよ、シェイラ。たった2回会っただけで、こんなに気持ちが続くとは…それは本物の恋です。もう一度ジョナルド卿に縁談を申し込んであげますから、あなたもジョナルド卿にお願いなさい」
母が、私に、そう言った。
「まさか、お母様も知っていたんですか?」
私は、赤くなった頬に手をやる。
「わたくしが報告させていただきました。悩むお嬢様を見ていられなくて。ジョナルド卿が騎士団長になられたのを聞いて、余計にひどくなるばかり…」
ジェーンが、言う。
「分かりました!分かりましたから、もうやめて!私は、ジョナルド卿が騎士団長になったと聞いて、惜しくなった卑しい女です!認めますから!」
私は、頭を抱えて叫んだ。
「何も、そんな事は言っておりませんが」
ジェーンは、呆れた顔をした。
「とにかく、私と一緒にいらっしゃい。ジョナルド卿に、復縁を真摯に願うのです」
母が、ピシャリと私に言う。
「はい…」
私は、下を向いて、大人しく返事をした。
母と一緒に父に頼み込んで、見合いの再開をライオット家に頼んでくれるようにお願いする。
父は、渋々ライオット家に連絡をしてくれた。
私は、母に連れられて、ライオット家に挨拶に向かう。
ライオット家の屋敷は、うちと比べると質素で小さなものだった。
ジョナルド卿の母上が、私達を出迎える。
「失礼ながら、今回は、ジョナルド卿と娘の縁談を再開していただくお願いに参りました」
アースキン伯爵家の当主夫人である母が、格下のライオット家の夫人に頭を下げる。
申し訳ない気持ちで、一杯になった。
しかし、もう後には引けない。
「頭を上げて下さい。しかし、アースキン伯爵家が相手とはいえ、一度自ら断った見合いの再開を願うのは、あまりに非常識。もし、認めれば、うちの息子の面目が立ちません」
ライオット夫人が、困った顔で答える。
「さあ、あなたからも、お願いするのです」
母が、私に促した。
「もし、ジョナルド卿との、ご縁がまだあるのならお願いいたします。この手紙に、私の気持ちを書かせていただきました。どうか、この手紙を彼に渡すだけでも、お願いします」
私は、頭を下げて手紙を差し出す。
「分かりました。あなたほどの身分で美しい方なら、二度離縁されているとはいえ、もっと良い相手がいるでしょうに。そんなあなたに、これほど請われる息子は幸せ者です」
ライオット夫人は、そう言うと手紙を渡す事を約束してくれた。
私と母は、一時帰宅して返事を待つ事になった。
ジョナルド・ライオット様
3年前、お会いさせていただきましたシェイラと申します。
お元気にされてますでしょうか?
あれから、どうしてもジョナルド様のことが気になり、もう一度お話したいという思いが日々強くなり、一旦、お断りをしているにもかかわらず、大変、失礼なことと、充分わかっておりますが、連絡させていただきました。
お忙しいところ、恐縮ですが、もし連絡をいただけるのでしたら、よろしくお願い致します。
今回の連絡で、ジョナルド様の御気分を害してしまいましたら本当に申し訳ありません。
シェイラ・アースキン
手紙には、そう書いた。
自分でも大変な失礼を事を、お願いしているのは分かっている。
3日後、使いの者から私にジョナルド卿からの返事の手紙が渡された。
レディ・シェイラ様
こちらこそ、私の配慮が足りず申し訳ありませんでした。
再度の申し込み、嬉しく思います。
あなたの様に美しく高貴な方に、お見合いの再開を求められるとは光栄です。
ぜひ、お会いしたく思います。
正式な申し込みを楽しみに、お待ちしております。
ジョナルド・ライオット
「んふふふふ」
私は、その返事を見て、私は笑顔が隠せない。
自室で、ベッドの上を転がって喜んだ。
「お嬢様、はしたないですよ」
ジェーンが、私をたしなめる。
「んふふふふ、美しく高貴な方だってー」
私は、ベッドに横になり、手紙を天井にかざしてニヤニヤしながら言った。
さっそく私は、父と母に再度の見合いの申し込みを願い出た。
「いいか、シェイラ。再度の申し込みをする以上、この縁談はもう決まりだ。断る事など出来ない。アースキン家の名誉に関わるのだぞ!覚悟は出来ているな。」
父が、私に確認する。
「もちろんです。私は、ライオット家に嫁ぐ覚悟です」
私は、父と母にはっきりと言った。
この時は、確かにそう思っていたのだ。
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