第5話 妹と王子
第6話は、21時5分以降にアップします。
私とジョナルド卿は、食事と会話を楽しんでいた。
「あら、お姉様。また、新しい殿方とのお見合いかしら」
私は、後ろから、聞き覚えのある声を聴いた。
思わず背筋が凍る。
「これは、イブラーク王子!ご無沙汰しております」
ジョナルド卿が、立ち上がった一礼する。
「いや、ジョナルド卿、そうかしこまらなくていいよ。非番だろう」
あの懐かしいイブラーク第二王子の声が後ろから聞こえてくる。
私は、思わず振り向いた。
そこには、イブラーク王子と、彼の現在の妻である私の妹が立っていた。
後ろには、王子と彼女の赤ん坊を抱いて運ぶメイドの姿があった。
金髪に優しそうな美しい顔、間違いなくイブラーク王子だ。
今でも、彼の姿を見ると嬉しい気持ちが沸いてきてしまう。
その横に立つのは、赤毛で私より少し童顔なジャスリン。
私が離縁された後に、代わりに王子に嫁いだ妹…。
彼等は、すぐに赤ん坊を授かっていた。
悔しい…。
女として、全てを妹に奪われた。
一瞬でも私に子供が出来ない原因は王子の方ではないかと疑った自分を恥じた。
そして、完全に私の心は砕かれた。
子供の頃から、ずっと私の側にいてくれたイブラーク王子。
彼と結婚する資格のある伯爵家の令嬢だった私。
彼に嫁ぐのを夢見ていた少女時代。
そして、それが叶った時は、どんなに嬉しかったか。
その幸せだった日々は、脆くも崩れ去った。
子を残すのが貴族の娘の仕事。
しかし、私は役立たずの烙印を押されたのだ。
「これはこれは、男爵家の騎士、ジョナルド卿だったかしら。お姉様とお似合いのカップルね。縁談が、うまくいく事をお祈りいたしますわ」
妹のジャスリンは、丁寧な言葉で、しかし、嫌味たっぷりの口調で私に言った。
いかにも3回目の縁談に丁度いい身分の低い相手だと言わんばかりだ。
「ジョナルド卿は、男爵とはいえ多くの武勲を立てた立派な騎士だ。馬鹿にしたような言い方をするのはいけないよジャスリン」
イブラーク王子が、ジャスリンをたしなめる。
「くっ…」
私の口から、思わず声が漏れる。
王子にフォローされて、私は余計に惨めな気持ちになった。
ジャスリンは、ハンカチを口にあてる。
「…どうやら、2人目が出来たみたいなの。しかし、2人目でもつわりが軽くならなくて。これで失礼いたしますわ。お姉様は、そんな心配がいらなくて羨ましいわ。どうか、ゆっくり食事を楽しんでいらしてね」
ジャスリンは、少し気持ち悪そうな顔をすると、ニヤリと笑った。
「さあ、もう行くよジャスリン」
王子に促されて、彼等は去っていった。
「…」
彼等が去った後も、ジョナルド卿と私の間に沈黙が流れた。
「顔色がすぐれませんね。すぐに屋敷にお送りいたしましょう」
真っ青な顔になっていた私を見て、ジョナルド卿が言った。
「いえ、気にしないで下さい」
私は、作り笑顔を浮かべようとする。
しかし、そうした瞬間、私の目から涙がこぼれ落ちる。
「これは、失礼を!私の言動が、何か気に障られましたか!」
ジョナルド卿が、焦った顔で言った。
「いいえ何でも、何でもないんです」
私は、涙をぐっとこらえて笑顔を見せる。
「私は社交界に疎く、何も知らなかったのですが、レディ・シェイラがイブラーク王子と別れた理由というのは…私は、馬鹿だ。何のフォローも出来ず、不甲斐ない。また、あなたを泣かせてしまった」
ジョナルド卿の口から、悔し気な声が漏れる。
「…」
私は、下を向いて黙る。
この人には悪気はない。
しかし、あまりに正直者すぎる。
その言葉に、私は何も言えなくなってしまった。
帰宅した私は、父の怒りを受けたが、彼との縁談を断った。
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