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第37話 救国の聖女

 私達は、それぞれの魔法で、次々現れる半魚人型の悪魔達と戦う。

 優勢なのは、私達の方だ。


「ええい、うっとおしい連中だ」


 アンリーヌが、遂に正体を現す。


 スカートの中から、黒く巨大な吸盤の付いたタコの足のような触手が、いくつも生えてくる。

 体が、ぶくぶくと太りだし、肌の色が、うなぎの様に黒くなる。


「うぉまえらぁああ、全員殺す!」


 アンリーヌの声が、野太いものに変った。


「きゃあ!」


 黒い触手が、私に襲い掛かってきた。


「シェイラ!」


 変身したジョナルド様が、私を抱えてジャンプし、触手をかわす。


「さっさと、焼きダコになれ!!」


 パイロ・ブラストが、両手から炎を出して、アンリーヌを攻撃する。


「そぉおれ!」


 ジャックが、次々襲い掛かってくる触手を、パンチで打ち返している。


「パイロ、私の竜巻に炎を集めろ!」


 クライシ―卿が、大きな竜巻を作り出し、アンリーヌにぶつける。

 その竜巻に、パイロが炎を注ぎ込み、炎の竜巻でアンリーヌを焼いた。


「ぎゃあああ!!」


 アンリーヌが、悲鳴を上げ、空中に飛び上がって空を飛び逃げだした。

 半魚人の姿の悪魔達も、それに続く。


「追うぞ!」


 クライシ―卿が、全員に指示を出す。

 私達は、それに従って宮殿の外に逃げ出したアンリーヌを追いかける。

 

 ジョナルド様が、私を抱えたまま、建物の上を次々飛び移って、アンリーヌを追っていく。

 ジャックもそれに続く。


 クライシ―卿と、パイロは、竜巻と炎の魔法で空を飛んでいる。


 この王都は、海に面した港町だ。

 アンリーヌは、海に向かっていた。


 海上に飛び出したアンリーヌを全員で追う事は出来ない。

 私達は、港で一時様子を見る。


 地平線に消えたはずだったアンリーヌが、再び海上に姿を見せる。

 近づいているのではない、巨大化しているのだ。

 おそらく、百メートルを越える巨体になっている。

 周囲の半魚人型の悪魔達も、アンリーヌほどではないが、20mくらいの大きさになって、アンリーヌの横に並んで海面に立っている。


「海の魔力を吸収しているのか」


 クライシ―卿が、その巨大化の力を予想する。


「まずい、海面が数mは下がっている!」


 その時、ジョナルド様が海面の異変を指摘した。


「こりゃあ、魔法で津波を起こす気だな。とんでもない魔力が必要だぞ。なんて奴だ」


 ジャックが、言った。


 アンリーヌがいる方の海面が盛り上がっているのが見え始めた。

 彼女等、悪魔達の姿が津波に隠れていく。

 おそらく、数百kmの幅があり、高さは百mを越える大津波を起こそうとしている。


「少しでも押し返すぞ!手伝ってくれパイロ!」


 クライシ―卿が、叫ぶ。


「はい!」


 パイロが、返事をする。


 クライシ―卿が、巨大な竜巻を作り出すと、パイロが竜巻に炎を纏わせる。

 巨大な炎の竜巻が、津波に向かって飛んでいく。

 しかし、幅数百kmの津波を抑えるには役不足だ。


「そういえば、クライシ―卿。両親に聞いたけど、ジャスリンの子供達を養子として引き取ったんですって?」


 私は、クライシ―卿に言った。


「あ、ああ」


 クライシ―卿は、少し恥ずかしそうに返事をした。


「ジャスリン、あなた、クライシ―卿といい仲なんでしょ?」


 私は、感じた事を、そのまま口にした。


「まあ、そうね」


 ジャスリンは、悪気も無く、はっきり答えた。


「ふふふ、お姉ちゃん応援してるからね。正式な結婚は出来ないだろうけど、幸せになってね」


 私は、優しい笑顔をジャスリンに向ける。


「何よ!こんな時に気持ち悪い。魔法への集中が途切れちゃうわ」


 ジャスリンは、顔をしかめる。


「ああ、私も、もう一度イケメンの旦那様の横を歩きたかったわ。どうして、あんたばっかりモテるのかしら」


 私は、溜息をついた。


「そりゃあ、性格でしょ」


 ジャスリンは、即答する。


「いいわ。ジョナルド様は、そんな私を愛してくれる。最高の旦那様よ!」


 そう叫ぶと、私は両手を、地平線に見える津波に向けて突き出し、覚悟を決める。


「救国の精霊よ!私の全てを使ってもいい!だから、私の大切な人達を守って!」


 私は、そう叫ぶ。


「承知した」


 私にそっくりな、青い肌、銀色の髪をした救国の精霊が現れ、魔力を集め始める。


「さあ、パパにも、いい恰好させろよ」


 後ろから、ジャックが私の左肩に片手を置く。

 彼の付与魔法なら、私に魔力を分ける事が出来た。


「ジャックさん、私の魔力も使って下さい」


 ジョナルド様が、私の右肩に手を置く。

 ジャックが、旦那様の魔力も私に送り込む。


「ありがとう、旦那様…」


 私は、後ろの旦那様に礼を言う。


「おい、パパには無しか?」


 ジャックが無視されて文句を言う。


 私は、それを無視して救国の精霊に魔力を与え続ける。


 やがて、魔力を集めた救国の精霊は、高さ数十mの巨大な青いドラゴンに変身した。


 ドラゴンが、魔力を吐き出すと、会場に青い光の壁が数百kmに渡って現れた。

 その壁が、押し寄せる津波を食い止める。


 私は、限界まで魔力を使って、壁を維持した。

 やがて、津波が引き始めた時、クライシ―卿とパイロ・ブラストことジャスリンが、津波の影から再び現れたアンリーヌと半魚人型の悪魔達の元へ飛んでいく。


「王子を惑わし、国を滅ぼさんとする悪魔め!成敗してくれる!」


 クライシ―卿とパイロの合わせ技の炎の竜巻が、アンリーヌを焼き尽くす。


「ぎゃああああ!」


 アンリーヌは、悲鳴を上げて海の底へ消えていった。


「はあはあ」


 私は、息を荒げて地面に手をついた。

 まだ生きている?

 確かに全ての魔力と寿命を使い尽くしたはずだ。


「…」


 その時、ジャックの体に、ガラスの様にヒビが入っているのに気がついた。


「ふふ、パパからの強制プレゼントだ。俺の寿命を全てやった。幸せに生きろ…」


 ジャックが、そう呟く。


「あんたからは、何も受け取らないって言ってるでしょ!」


 私は、泣きながら叫ぶ。


「最後くらい、恰好つけさせろ…ジョナルド、お前は気にいらないが仕方ない。娘を頼む」


 ジャックが、消えそうな声で言った。


「はい!命に代えても、彼女を幸せにします!」


 旦那様が、大きな声で答える。


「…」


 ジャックは、笑顔のまま砂のように崩れ去って消えた。



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