第2話 低音イケボ熊髭騎士と最低の出会い
第3話は、今日12時5分以降に投稿します。
我が家の庭の古代風の東屋。
そこで私は、ジョナルド卿と会う事になった。
ジョナルド卿は、私より少し背が低かった。
席に向かい合わせに座った彼は、縮こまっていて余計に小さく見えた。
全身の筋肉が発達していて、ぬいぐるみの様に丸い体。
若いというのに口の周りには髭を蓄え、黒い短めの髪は無造作に切りそろえられている。
まるで、熊さんが座っているようだ。
「よろしく、お願いします。レディ・シェイラ。今日は、お会いできて光栄です」
彼の口から、低いイケボが放たれる。
「私と見合い出来たからと言って、調子に乗らないでね。あくまで、父の顔を立てて会っただけなのですから」
私は、反射でそう言った。
少し言い過ぎだと思ったが、いつもこうなってしまうのだ。
そして、言った後に何故か胸が苦しくなる。
どうしても、いつもこうなのだろう?
「どうしました?何か気に障る事がありましたか?顔色がすぐれませんが」
ジョナルド卿が、心配そうに言う。
「いえ、大丈夫です」
ハンカチで口を押えて言った。
「そうですか。では、涼しい風を浴びに行きませんか?馬車を用意しております。近くの小山の展望台に行きましょう。今日は天気が良いので、景色がよく見えると思いますよ」
ジョナルド卿が、そう誘う。
5月の昼下がり、少し汗ばむ気温だ。
山の気持ちいい風にあたるのもいいだろう。
「分かりました…」
私は、了承して立ち上がった。
「ガラガラガラ・・・」
彼の用意していた馬車は、古びていてクッションが悪く、お尻にゴツゴツとショックが伝わる。
それに、車輪がガラガラと音を立てていて五月蠅い。
狭い車内でジョナルド卿と向かい合わせに座る私は、みるみるうちに機嫌が悪くなった。
「この馬車、古すぎませんか?アースキン伯爵家の娘を軽んじているのかしら?」
眉間にしわを寄せて、ジョナルド卿に訴える。
「申し訳ありません。知り合いから別の馬車を借りておくべきでした。私は、軍の暮らしが長く、こういう馬車に慣れてしまっていました」
ジョナルド卿は、焦った顔で言う。
「はぁああ…」
私は、大きな溜息をついて横を向く。
それを見たジョナルド卿は、大きな肩を縮ませる。
やがて、馬車は小さな山の上の、開けた草原に到着した。
彼が私の手を取り、馬車から降ろす。
草原には花が咲き、絶景が広がっている。
「寒い…」
私は、自分の体を両腕で押さえる。
いつの間にか空を雲が覆い、気温が急降下していた。
おまけに、強めの風が体を冷やす。
「申し訳ない!こんなに気温と変るとは思っていなくて…」
ジョナルド卿は、あたふたとするばかりだ。
せめて、体を寄せて私を風から守りなさい!
むしろ私に近づくチャンスじゃない。
この男は、私と結婚したいんじゃないの?
私の事なんて好きじゃないのかしら?
こいつも、私の家の権威が欲しいだけなの?
悪い考えが、頭をめぐる。
「うう…」
私は、ブルッと震えて、お腹を押さえた。
「どうかされましたか!?」
ジョナルド卿が、私に駆け寄る。
「ちょっと、お花を…」
私は、そう呟く。
「そうですか!花ですね!」
彼が、周囲の花を摘もうとする。
「違います!用が足したいのです!この無礼者!!」
私は、思わず大きな声を出す。
「すいません!すぐに戻りましょう!」
「あ…」
ジョナルド卿は、やっと私の腰に手を廻して馬車にエスコートする。
私は、彼の手が腰に当たった時に、少し声を出してしまった。
こうして、私とジョナルド卿の最初のデートは最低な雰囲気で進んだ。
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