第10話 私達の城
父の用意してくれた、白い馬に引かれた二頭立ての赤い馬車が、私の屋敷の門の前に止まっていた。
私とジョナルド卿、そして御付きとしてメイドのジェーンが、その馬車に乗り込む。
ジェーンは、私のお気に入りのメイドなので、結婚してもライオット家に移って仕えてくれるように父が計らってくれている。
今日は、私達の新居であるライオット城に一晩お泊りデートする日だ。
馬車に揺られながら、私は、久しぶりに上機嫌だった。
「ねえ、私達の泊まる部屋は、どうなっているの?」
ジョナルド卿と同じ側の席に座った私は、彼にもたれながら新居の部屋の内装について聞く。
「壁は木目の美しいオーク材を使い、床は羊毛で赤い花柄の絨毯です。急いで、寝室だけ先に設えさせました。まだ家具はベッドだけですが、レディ・シェイラの持ってくる嫁入り道具を充分置ける広さだと思います」
身を固くしながら、ジョナルド卿が言った。
「いやだ。もう、レディとは呼ばないで。私は、あなたの婚約者なんだから、呼び捨てで構わないのよ」
私は、彼の発言に満足しながら、腕に抱きついた。
「…お嬢様、はしたないですよ」
ジェーンが、私をたしなめる。
「ははは」
ジョナルド卿は、まんざらでもない顔で笑った。
私達は、川の側の小高い丘の上にあるライオット城の前で馬車を降りた。
古びた、その城は、武骨だが石造りの立派なものだった。
城の門が開いて、若い騎士達が出迎える。
「団長おかえりなさい。綺麗な奥さんですね!羨ましい」
ジョナルド卿の部下達が、口々に私を褒めてくれた。
彼は、嬉しそうに笑っていた。
少し薄暗い城の廊下を抜け、城の塔の上に進む。
そこに、私達の寝室が用意されていた。
窓が大きく、充分な日の光が差し込んでいて、明るい。
彼の言った通り、壁は虎斑模様の木目美しいオーク材、床には赤い花柄の絨毯。
中央には、大きなキングサイズのベッドが置かれている。
部屋はリフォームされたばかりで、新築の香りがした。
ジョナルド卿が、出ていった後、私はベッドの端に座って、ぽんぽんとお尻で跳ねた。
新しいベッドのクッションは素晴らしく、楽しい気分になる。
「お嬢様、また子供みたいな真似をして」
ジェーンが、呆れた顔をする。
「ここに鏡台を置いて、こちらには立ち見の鏡。そして、ここにはクローゼットね」
部屋を歩き回って、家具を置く位置を考える。
「お嬢様が、また幸せそうにしておいでで、このジェーンも嬉しいです。どうか、今度こそ末永くお幸せに」
ジェーンは、胸に手を当て、目を閉じて言ってくれた。
「もう!不安にさせないで。でも、あの方なら安心出来る気がするの。そんなに会ったわけでもないのに、何故かしら?」
私は、ジェーンを抱きしめて耳元で言った。
「さあ?でも、私もジョナルド卿なら、お嬢様を任せて安心だと思います」
ジェーンは、私に同意する。
その夜、城の大広間では、ジョナルド卿の部下数十人が、私の歓迎会を開いてくれた。
大きなテーブルの上には、沢山の料理と酒類が並んでいる。
ジェーンが、城のコックや使用人と一緒に酒をついで廻っている。
「団長!これが、団長が何年も好きだったという御令嬢ですか!婚約出来て、良かったですねえ!」
酒に酔った部下が、ジョナルド卿に絡んできた。
「余計な事を言うな馬鹿!」
ジョナルド卿が、部下をたしなめる。
「ふふふ」
私は、くすくす笑いながら、横に座るジョナルド卿を肘でこづいた。
「知ってましたか?団長は、あなたに縁談を一度断られて、半年は落ち込んでシュンとしてたんですよ」
別の部下の騎士が、私に言った。
「あら、まあ」
私は、そう言いながら、横目でジョナルド卿を見た。
大きなはずの彼の肩幅が、一回り小さくなったように見える。
下を向いて、ばつの悪そうな顔をしていた。
「もう!そんなに私の事が好きだったの?」
私は、もう一度彼を肘でこづきながら言った。
「お恥ずかしながら…」
彼は、顔を赤くする。
その夜、私と彼は初めて一夜を共にした。
「ちゅんちゅん」
朝の小鳥達のさえずりで、私は目覚めたわけではなかった。
「ぐがー!!」
獣の咆哮の様な、けたたましい彼のいびきで目を覚ましたのだった。
「うるさーい!」
私は、ベッドで一緒に寝ていたジョナルド卿の顔面に一発、思い切りパンチを入れる。
「ふがっ!これは失礼を!」
ジョナルド卿が飛び起きる。
「その、いびきを何とかしないと、一生寝室は別ですからね!まるで熊と一緒に寝ているみたい」
私は、ぷんぷんと怒った。
「必ず対策しますので、ご容赦を!」
彼は、すまなさそうに謝った。
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