霧中のぼやき
「はぁ?何言ってんの、あんた。」
グラスを傾けた先に月(魔法)を入れながらにんまりと満足そうな回答を得た、とばかりに黒髪の女は嗤った。
「いいじゃない、常永和にあるものなんて、これだけで十分なのよ。」
パリン、と音がして鏡は、通常であればそこに至る暴力を否定するくらいに、あまりにも静かに砕けていった。都市のきらびやかな夜景も、そこに映っていた二人の魔女も。
「魔法が使えりゃ楽になれると思ったら、結局はそれは手に負えないほどの犬だったわけ。どんなに強大であっても、いづれは力に呑まれてしまう。築き上げたものが幻想だったと呼ばれる日が来る。塵すら残らずに。」
「なんのために生きているのか、という過程すら、無になる。」
だから壊してやると、魔女は言った。魔法が強大過ぎたから。あまりにもシンプルすぎる答えに唖然とした赤髪の魔女は、やがて喉の奥から低く笑いをこぼした。
「あんた一人でなにができんの。なんのために魔法使いになったわけ。
あたしはねぇ、人のためになるからとか、そんなんじゃない、少なくとも初めのころはね。連中との争いで行方不明になったトモダチを探すのに・・・でも、この魔法すら、あたしを裏切った。あたりまえよね、火しか出せないもの。道なんて教えてくれない。世界もそう、壊すだけ壊してはい、おしまいだなんてありえない。ずいぶんご都合主義じゃない。」
「でも歴史は繰り返す。それにここは魔法界。パズルみたいに直っていく建物を見て、思ったの。ああ、まだ終わってない。こんなにインスタントなものなら、また誰かがプラスチックみたいに捨てられて、荒んだ心が増えてくだけだって。敵なんて不透明すぎてわからない。あなたは誰と闘ってる?それが見えない。」
「・・・。」
彼女は黙ったまま、外を眺めた。ジュースのなかの月は徐々に赤みを帯びてきていた。
「「奴ら」を野放しにしておけって?」
呟くなり呑みこんだ、やがて、頬に赤みがさしていく。
「またアルコール度数あげたわね??!」
どうしようもない、赤い髪の女性は途方にくれた。ほんとに、どうしようもない。
「この話は終わりにしましょう。明日ナダに聞いてもらえばいいじゃない。きっと笑い飛ばしてくれるわよ。」