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ヒヨコちゃんの朝一番の餌やりが終わってから、図書館で本を借りて来る生活が始まりました。
魔法の本と、一般常識が身に付きそうな書物、文字の練習用に年長の子供向けの正しい文法で書かれた童話の本も借りておきます。
それから、料理の本に簡易な植物図鑑など。
毎日ザッと10数冊程を借りて、付いてきてくれた第二騎士団の騎士さん達が持ってくれるというのに甘えて運ぶのを手伝って貰っています。
速読チートは健在のようで、面白いように書物が読めて頭に入ってきます。
因みに、コルステアくんが泊まり込んでくれた翌日から、侍女さん達が毎日交代で部屋に付いてくれるようになりました。
朝、普段使いと言い張られましたが1人では着られないドレスの着付けを手伝って貰い。
ご飯も3食食堂から運んで来てくれます。
が、これはマナー講習の一環みたいで、どれで何からどう食べる、のレクチャーを細かくされる時間になっています。
2日に一度くらいはセイナーダさんが昼時来て、マナー講習に相応しい食事を運んで来てくれるので、急ピッチでテーブルマナーを身に付けている気がしますね。
セイナーダさんはその他、礼儀作法や貴族の慣例なんかも少しずつ教えてくれるんですが、それに時折ロザリーナさんが混ざる時があります。
ロザリーナさんは、早く一緒にお茶会とか夜会に行きたいと言ってくれますが、よくよく聞くと、女性化したレイナードを見せびらかしたい下心が満載のようです。
出来るだけ目立たず大人しくしていたいこちらとしては、少し迷惑かもしれません。
まあそれも、女騎士として働く許可が出たら、お断りの口実が出来る筈と、お茶を濁しておくことにしました。
ところで肝心の魔法訓練の方ですが、色々立て込んでいたシルヴェイン王子の身体がやっと空きそうだということで、本日夕方漸く時間を取ってくれそうな話を貰いました。
性別が入れ替わってレイカになってから、早いもので20日近く経ちます。
その間に、レイカとして騎士団宿舎で過ごす事には大分慣れて、そして何よりヒヨコちゃんが大きくなりました。
ところところハゲのある白いフワ毛がに覆われていた身体に、しっかりした色の濃い羽が生えてきて、翼が分かるようになって来ました。
当然体重も増えて、何とか抱えて歩ける限界が近い内に来そうな気配です。
騎士団の人達が近付いても威嚇したりはしませんが、触らせたり懐いたりする様子は残念ながらありませんでした。
これには隊長達もがっかりしていましたが、もう少し風切り羽が生え揃ったら、飛行訓練が始まるんじゃないかとクイズナー隊長が教えてくれて、一気に巣立ちに意識か向くようになりました。
そもそも、あのお母さん鳥と同じサイズになる筈なので、最終的にレイナード部屋に飼育し続ける事が可能なのかも怪しいです。
そして最近、生え変わる産毛で、ベッドと部屋の床の掃除が中々大変です。
第二騎士団で通常通り働きながらヒヨコちゃんのお世話やら掃除やらをこなすのは、相当大変だった筈なので、レイカになって準備期間というか休息期間みたいなものが持てたのは有難い事なのかもしれません。
「レイカちゃん! ヒヨコちゃんのお母さん来たよ!」
読書しながら考え込んでいたところで、部屋の扉を叩きながら声が掛かりました。
「はーい! 今行きまーす!」
この声を聞き分けるのか、コルちゃんとヒヨコちゃんが揃って起き上がるとこちらに寄って来ます。
そのまま本を置いて席を立つと、2匹を連れて扉に向かいます。
「モレナさん行っていますね〜。」
今日の当番の侍女モレナさんに声を掛けると、掃除中のモレナさんのお見送りを受けつつ廊下に出ました。
「レイカちゃん、この後餌やりが済んだら塔の魔法使いが全長の目視測定をしたいそうだから、羽まで広げたところを見たいらしいんだけど?」
そう声を掛けてくれたのはコルバースさんです。
騎士さん達には交代で毎日図書館やら餌やりやらの道中を付いてきて貰うようになったので、ケインズさんやオンサーさん以外の騎士さん達の名前も覚えて、少しは話せるようになってきました。
再び職場仲間になる可能性もあるので、なるべく仲良くしておきたい人達です。
「うーん、ヒヨコちゃんのご機嫌次第だと思うんですけど、ちょっと頑張って頼んでみますね?」
ヒヨコちゃんも最近では簡単なお願いなら察して聞いてくれるようになっています。
コルちゃんに至っては、聖獣化してから、絶対人語を理解してるんじゃないかって程、知的な顔付きと行動を取るようになっていますね。
そして忘れてはいけないのが魔人の指人形ですが、彼の出没頻度は最近下がっていて、ただし夜寝る時になると現れてベッドで一緒に寝るので、その時にちょっと会話する程度の関わり方になっています。
最近のお休みなさいの挨拶は、早く契約しましょうね我が君、が代わりになっています。
良く分かりませんが、このまま引き延ばし続けたら、もしかして契約せずに済むんじゃないかと思い始めてしまいましたね。
「ヒヨコちゃん、抱っこする?」
とてとてと可愛らしく歩くヒヨコちゃんに声を掛けてみると、つぶらな瞳をこちらに向けたヒヨコちゃんは、ピヨピヨピと鳴いてから、歩く速度を少しだけ上げました。
どうやら、気分が乗って歩きたい様子です。
「うーん、我が子の成長は嬉しいような寂しいようなって話、本当だねぇ。」
しみじみと呟いてしまうと、コルバースさんが隣で咳払いしました。
「えーと。ヒヨコちゃんの育児が終わったら、結婚して自分の子供を育てるのも、良いんじゃないかな?」
チラッと覗き見たコルバースさんの顔が照れたように赤くなっていて、こちらの顔が引きつってしまいました。
「あはは。それはまだ全然良いかなぁ。」
バッサリと切り捨てておくと、コルバースさんがずんと落ち込んだ顔になりましたが、ここは気を持たせる方が良くないと思うんです。
そんな訳で出て行った兵舎前広場には、慣れた様子でお母さんが降りて来ます。
コルちゃんが聖獣化してからは、餌やりの間側にいるようになりましたが、初めは警戒するような目を向けていたお母さんも最近では慣れたものです。
一通りルーチンをこなしてお母さんが飛び去って行くと、早速マニメイラさんが広場に出て来ました。
「レイカさん、宜しくねぇ〜。」
それでも離れた場所から声を掛けて来るマニメイラさんに、こちらも手を振り返して合図します。
「はいヒヨコちゃん。バンザイね〜、お手て広げてみようかぁ。」
こちらも身振りで真横に伸ばした手を上下にバタバタしてみせると、少し小首を傾げたヒヨコちゃんが何となく真似らしき事を始めます。
お寛ぎモードだと、嘴で羽を毛繕いしたりバタバタ広げてみせたりしているので、動かすことは知ってる筈です。
しばらく拙く羽を広げるような動きをしてくれたヒヨコちゃんですが、途中から飽きたのか、翼は仕舞ってとてとてとこちらに歩いて来て、足にスリスリしてきます。
上目遣いにこちらを見て来るのは、上手に出来たでしょ、褒めて? の視線でしょうか。
その可愛らしさには一瞬で絆されてしまうので、眉を下げて存分に頭を撫でてあげます。
「よしよし、良い子ですね〜。上手でしたよ〜?」
チラッと見たマニメイラさんは苦笑いでしたが、大凡の目算は出来たのではないでしょうか。
「そう言えば、今日から魔法の訓練始めるんですってね?」
近付きながら話し掛けて来るマニメイラさんに、乾いた笑いを返します。
「良くご存知ですね? シルヴェイン王子がやっと時間が取れるようになったみたいで。」
無難に返してみると、マニメイラさんが肩を竦めました。
「塔に任せてくれれば良かったのに。」
「いえいえ、レイナードはシルヴェイン王子の部下でしたし。」
「何でそう警戒するかしらね? それはこの間はちょっとやり過ぎちゃったみたいで、コルステアくんのお母さんに怒られちゃったけど。あれは反省してるのよ?」
「いえいえ、セイナーダさんは私のお義母さんにもなったので。」
不毛なやり取りが始まる気配に、さっと見渡したところで、餌やりの様子見に来ていたカルシファー隊長と目が合いました。
「カルシファー隊長! これからちょっといいですか?」
さも用がありそうに話し掛けてみると、露骨に嫌そうな顔をされました。
確かに、もうカルシファー隊長の部下ではなくなりましたし、何かと面倒な相談もさせて貰ってますが、そんな顔せずにマニメイラさんの防波堤になってくれるくらい、ダメでしょうか?
「あ、ああ。事務室行くか。」
何やら諦めの顔になったカルシファー隊長。
頭髪問題が勃発してしまったら、頑張って育毛剤の開発に取り組みたいと思います!




