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「風呂・・・」


 切り出した途端に、返って来たその絶望に打ちひしがれたようなカルシファー隊長の言葉に、目を瞬かせてしまいます。


「えーと、あの?」


 そんなに重い話題だったでしょうか?


「まあ、時間決めて他の奴ら締め出して、見張りでも立てとけば良いんじゃないのか?」


 フォガート隊長がさらっと流しに掛かりますが、それをカルシファー隊長がキッと睨み返しています。


「あんたは分かってない! ウチのガキ共がどれだけ野獣じみてるか!」


 謎の力説に、フォガート隊長と共に首を傾げてしまいました。


「下らない想像で風呂の湯が赤く染まるくらいならまだ良い! 何処までもアホな奴はアホなんだ! 騎士団の風呂なんか使わせられるか!」


 カルシファー隊長の中身を濁された力説が今一つピンと来ませんでしたが、フォガート隊長は肩を竦めたところを見ると、何か思い当たる事でもあったようです。


「えーと、じゃ、どうしろと?」


 あちらでは欠かさず毎日お湯張ってお風呂に入ってた身としては、身体拭くだけ生活とか耐えられそうにありません。


 足を伸ばして湯船に浸かってって、とても大事なリラクゼーションだと思うんですよね?


「女中寮の風呂を借りられるように、団長許可を貰うから、それまではタライにお湯で身体を拭いて我慢していてくれるか?」


 カルシファー隊長の申し訳なさそうな申し出に、仕方なく頷くしかありませんでした。


 が、ちょっと考えてみて、もう許可を取らない形でやってしまう手もあるのでは?


 すごすごと部屋に帰ったふりで、部屋の鍵をきちんと閉めます。


 それから振り返った室内で、何故かソファで寛ぐコルステアくんと目が合いました。


「ただいま? てゆうか、こんな時間にどしたのコルステアくん?」


 問い掛けてみると、深々と溜息を吐かれました。


「父上と兄上と母上と婚約者が、あんたが心配だから泊まり込めって煩かったから。」


「・・・はあ。鍵閉めれば問題ないよ? またソファで寝るの?」


 何となく可哀想になってそう返すと、コルステアくんがまたムスッとした顔になりました。


「だから、僕が泊まり込まないなら、兄上が泊まるって言うから。」


「え??」


 それは何だかとても微妙な気分になりますね。


 そこからコルステアくんのまたまた深い溜息が聞こえました。


「えーとね。それはともかくコルステアくん。これからお風呂に入るんだけど?」


「はあ、行ってらっしゃい。」


 途端に手元の書物に目線を落としたコルステアくんに、頭を掻きながら困った笑みを向けてみます。


「ええと。ここで入るから、一度外出ててくれる?」


「はあ?」


 半眼で顔を上げたコルステアくんに背を向けると、まず構想を立てる事にします。


 完全防水結界を自分を含む周りに張って、湯船と洗面器を生成します。


 素材はプラスチックは作り方が分からないので、洗面器は木製、湯船は石造りでどうでしょうか?


 サイズ感はやっぱり足を伸ばせるくらい?


 それとも湯冷めを防ぐ為に五右衛門風呂的なものの方が場所も取らずで良いでしょうか?


「あのさ、今度は何するつもり? マニメイラさん達に弄られたくないなら、ちょっとは自粛したら?」


 とここで、コルステアくんの冷たい言葉が来ます。


「ええと? バレなければ、とかは? ここで入るならコルちゃんとヒヨコちゃんもお風呂イン出来るし。清潔にして、尚且つもふふわお手入れも自在!」


 夢が膨らみますが、チラッと見たコルステアくんの顔は相変わらず小馬鹿にした風情ですね。


「はあ? 魔獣風呂に入れたいとか、あんたの頭ホントおかしいわ。てゆうか、王城で魔法使ってバレない訳ないでしょ? この間のハザインバースの事件の時も、あんたが張った結界魔法、しっかり塔で検証されてるからね? 聖なる魔法しか使えませんよって路線貫くなら、もう王城で他の魔法使うなよ。」


「ええ? うっそ、どんな魔法使ったかとか、バレてるの?」


 背中に冷や汗滲ませながら返すと、コルステアくん躊躇いなく頷き返してくれました。


 これはもう、聖なる魔法の括りに入るもの以外は王城では使っちゃダメですね!


 修復魔法アレンジ、これは早く取り掛からないと死活問題ですね。


「ううっ! コルステアくん、お風呂入りたい! お姉ちゃんの為に完全防水結界張って湯船と洗面器とお湯用意して欲しいです!」


 力を込めて力説すると、また呆れたような溜息が返って来ました。


「馬鹿じゃないの?あんた。そんな面倒なことするくらいなら、女風呂があるとこまで送迎すれば良いんでしょ?」


 あれ? 送迎まではしてくれる気あるんですね?


 これはちょっと意外でした。


「えーと、でも。許可を貰わないといけないから、今日はダメなんだって。」


 しょぼんと返すと、コルステアくんがまた溜息を吐きながら立ち上がりました。


「はいはい。許可取れば良いんでしょ? 父上のところに飛ばすから待ってて。」


 言うなりコルステアくんが机に歩み寄ってさらさらっと何か書き付けると、その紙を魔法でサクッと何処かに飛ばしたようです。


「着替えとか用意しといて。」


 あれ? コルステアくん、意外と良い子ですね。


 どうしたんでしょうか? もしかして、姉認定してくれたんでしょうか?


 でもそんなことは突っ込みませんよ?


 気でも変えられたら困るので、さっさとお風呂セット用意します。


「そいつらは置いてくからね! どうしても行きたかったら、ここで大人しく待つように説得して!」


 ヒヨコちゃんとコルちゃんを指して言うコルステアくん、中々侮れないですね。


 仕方ないのでウトウトし掛けのヒヨコちゃんをベッドに連れて行って、コルちゃんはしっかり撫でてあげてからブラッシングしてあげます。


 ベッドで寝かし付けの体勢に入ってから、部屋で待っててねと説得してみると、コルちゃんはヒヨコちゃんを包みこんでのお休み体勢に入ってくれました。

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