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「・・・レイナード様は。いえ、貴女様は、従者はどうしてもご不要なのでしょうか?」


 唐突にボソッと零すように口にしたハイドナーに、今度はこちらが驚いてしまいます。


「え? 私、貴方のレイナード様じゃないよ?」


「それは、何となく存じ上げておりました。出戻ってから後のレイナード様は、正直申し上げて別人でございましたから。でも、貴女様がレイナード様だと言い張られるなら、そのようにお仕えしていこうと。少しでもそんなレイナード様のお役に立ちたいと。そのように励んで参りました。」


 ハイドナーからの衝撃の告白に、思わず絶句していると、勝手に椅子に座って寛いでいたコルステアくんが呆れたような溜息を吐いているのが聞こえて来ました。


「え? 嘘、ハイドナーが主人の空気読んで合わせるとか。槍でも降るんじゃない?」


 ついそんな言葉を口にしてしまうと、セイナーダさんとロザリーナさんが何か微笑ましいような笑顔になっています。


 ふと目を戻した先で涙目のハイドナーがこちらをじっとり見ている視線に気付きました。


「えーと、でも私はお世話係はいらないんだよね。」


 少し気まずい気分で正直に返すと、ハイドナーはしゅんと肩を落としてしまいました。


「そうねぇ。レイカちゃんの身の回りのお世話は、今日連れて来たメイド2人に任せるつもりだけど、力仕事と簡単な護衛役として従者も良いんじゃないかしら? お茶も淹れられるし。家事も一通り出来るのでしょう?」


 セイナーダさんがそう言い出して、えっとそちらに目を向けます。


「あの〜。お世話されなくても、自分の事くらい自分で出来ますよ?」


 お嬢さん育ちじゃないので、ここでの一般的な女性の暮らし方さえ分かれば絶対やっていけると思うんですが。


「あら、ドレスは1人で着れるのかしら? それに相応しく髪を整えたり、お化粧をしたりは? お部屋の掃除や片付けは?そのドレスを着てするつもり?」


 その反論には、思わず唸りそうになってしまいます。


「ええと、私女騎士として生きて行ってもいいかなって。だから、ドレスとかじゃなくても。」


 これはまだ確定ではないので強く主張はしづらいですが。


「女騎士をしている方は確かにいらっしゃるけれど、彼女達も制服を脱いだら女性の装いをしているのよ? 特にレイカちゃんは、ランバスティス伯爵家の長女として今大急ぎで手続きを進めていますからね、明日くらいには正式に我が家の令嬢ということになりますよ?」


 何でしょうか、この外堀埋められてる感は。


「まあ、要る要らないの結論は、今直ぐ出さなくても構わないでしょう? まずは、2人とハイドナーを側に置いて、こちらの生活に慣れる事が先決ではないかしら?」


「・・・はい。」


 女主人、強いですね。


 結局押し切られる形になってしまいましたが、確かにこちらの女性の生き方をきちんと教えてもらってから、どう生きるのか決めてもいいかもしれませんね。


「では、メイドのお二人とハイドナー、宜しくお願いしますね。レイカです。」


 そう挨拶してみると、箱の片付けをしていたお仕着せのメイドさん2人と姿勢を正したハイドナーが並んで深々と頭を下げてくれました。


「「お嬢様、宜しくお願い致します。」」


 声を揃えてのご挨拶が、メイド喫茶みたいな雰囲気ですね。


 ど庶民育ちとしては背筋が寒いですが、しばらくは我慢って事になりそうです。


「それではレイカお嬢様、早速お茶をお淹れして参りますね。」


 ハイドナーがそれは嬉しそうな笑顔で言って、スキップしそうな足取りで部屋を出て行きました。


「おかーさま。やっぱり執事カフェとメイドカフェは自室に必要ないと思うんです。考え直して良いですか?」


 低めの平坦な口調でセイナーダさんに言ってみるとクスッと笑われました。


「まあまあ、レイカちゃんもこちらに来てお座りなさいな。そのペットちゃん達も、お席用意した方がいいかしら?」


 しっかり腕の中のヒヨコちゃんとコルちゃんも頭数に入れているセイナーダさんは、かなりのやり手と見ました。


 あのコルステアくんが、黙って目を逸らすだけで何も言わない辺りがランバスティス伯爵家のパワーバランスを物語ってますね。


 強く生きて行こうと心に誓った瞬間でした。


 椅子に座ったところで、ヒヨコちゃんと小型化したコルちゃんは黙って仲良く膝の上を分け合っています。


 少しだけ他の面々に警戒するような様子を見せていますが、今のところ威嚇の声は上げていないので、取り敢えずこのままお茶にしようと思います。


 机の上には、焼き菓子の他にサンドイッチのような軽食も並んでいるので、これで昼食に出来てしまいそうです。


 程なくハイドナーが運んで来たお茶が配られて、さあ頂きますのタイミングになったところで、セイナーダさんが咳払いしました。


「レイカちゃん、お食事の細かいマナーはメイド達にも手伝わせてゆっくり覚えて貰うとして、食前のお祈りだけはまず覚えましょうね。」


 成る程、これは多分大事な事ですよね?


 いただきますなしで食べるのは、こちらも落ち着かないですからね。


 こちらのお祈りに置き換えて食前のご挨拶にしましょう。


 セイナーダさんの教えてくれた食前のお祈りは、あちらで世界一信者人口が多い一神教の神様の食前のお祈りと似てますね。


 とか思うのは、自動翻訳機能の所為かもしれません。


 ちょっと色々長いんですよ。


 個人的には、色んな意味が込もってるのにシンプルな、いただきます、がお気に入りだったんですが。


「至高なる神ーーの齎す恵みに感謝をーー。与えられる日々の糧にーー」


 という訳で、流し気味にお祈りをこなしてから心の中でいただきますを付け足して手を下ろすと、サンドイッチに手を伸ばします。


 お上品を意識して噛み付いたパンはふんわり柔らかで、感動でした。


 シンプルな塩気多めのハムとちょっと苦味のある葉野菜が挟まっていて、マヨネーズやサンドイッチに合うソースが塗ってある訳ではないので、あちらでのサンドイッチを想像するとちょっと別物感がありますね。


 でも、食堂の冷めちゃった大量調理と比べると雲泥の差。


 食事情を考えると、ランバスティス伯爵家所属は捨てられないかもしれないです。


 そんな下心満載な邪念を抱きつつ、せっかくなので美味しく色々頂きました。


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