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そこから、本格的に食事の手を進め始めたのですが、イオラートさんが食べ掛けのスプーンの手を止めてルイフィルさんにばっと顔を向けました。
「父上! レイカさん、いや妹だからちゃんかな? いやいやそれはどうでも良いんですが。物凄く可愛いレイカちゃんに縁談が来たりしたらどうしましょうか! というか、騎士団は辞めるんですよね? こんな汗臭いケダモノの巣窟にレイカちゃんは置いておけませんよ!」
動揺しながらのイオラートさんの発言にはちょっとドン引きです。
レイナード愛がこちらにシフトするのは、ちょっと迷惑です。
「うむ。騎士団には殿下を通してきっちり言っておいた。今直ぐの退団は難しいそうだが、しっかり対策するようにと。」
「何故です? 王太子殿下にお話が必要でしたら、私が行って来ます!」
「いや、魔獣の雛と魔物の飼育が問題だそうだ。」
話し込むルイフィルさんとイオラートさんから目を逸らして食事を続けていると、コルステアくんが溜息を吐きました。
「あんたの魔力が並外れてるのは変わりないんだから、第二騎士団を辞めても塔に勧誘というか、引き込まれるのがオチだと思うけどな。」
そのポツリと一言に、ギギギとコルステアくんに顔を向けました。
「え? 待って! 塔でモルモットは拒否だよ! それくらいなら、シルヴェイン王子に責任とって貰うってことで、第二騎士団で引き続き面倒見て貰いますから!」
「え? レイカちゃん、責任取ってってシルヴェイン王子に何かされたのか?」
イオラートさんが面倒臭い感じで絡んで来ます。
「はい? 男性のレイナードさんだった頃に、胸倉掴まれたりゲンコツされたりはしましたけど、まああれはこちらもちょっとだけ悪かったかもしれないので。」
「何! 胸倉?ゲンコツ? 何してるんだ殿下は! お兄ちゃんこれから抗議に行って来るから!」
いやいやちょっと待って! 話聞いて!
はしっと立ち上がり掛けたイオラートさんの袖を掴みつつルイフィルさんに目を向けますよ。
お父さん何とかして下さいって事で。
「うーん。イオラート、過去の事は仕方がないので堪えなさい。だが、これからはウチの可愛いレイカにちょっとでも触れようものなら、例え殿下でも、厳重抗議を行う。」
何気に拳を握って力説するルイフィルさんに、寒い鳥肌が立ちます。
「やっぱり、お父さんとかお兄ちゃんって呼ぶの、やめようかな。コルステアくん、仲良くしようね。この家の人達、ヤバいから。」
コルステアくんに向けてボソリと言いますが、しっかり聞こえていたルイフィルさんとイオラートさんから泣きが入って、更に面倒な事態に発展した事は、記憶の奥底に封印する方向で行こうと思います。
第二騎士団に残りたいアピールで、明日からも自主的に早朝訓練から参加しようと思うので、今日も早く寝なきゃですね!
「ご馳走様でした!」
色々含めて食後の挨拶を終えたところで席を立ちます。
本寝に入ってしまったヒヨコちゃんをそっと抱えて部屋を出ようとしたところで、ルイフィルさんとイオラートさんが立ち上がりました。
「「送って行こう。」」
二重奏にはやはり身が引けてしまいますね。
「え? いいですよー。兵舎から宿舎には渡り廊下もあるし、外には出ないし。」
「いや、レイカの部屋が本当に大丈夫か、お父さん確かめておきたいし。」
「魔獣の巣窟に帰るレイカちゃんを送っていくのは当たり前だろう? か弱いレイカちゃんに何かあったらどうするんだ!」
魔獣って、第二騎士団の騎士さん達捕まえて何てこと言いますかね。
ふうと溜息を吐いてコルステアくんに目を向けますが、しれっと目を逸らされました。
「あのですね。魔獣の雛抱えた私とか魔物と魔獣の飼育部屋って呼ばれてる私の部屋に何か仕掛けて来る度胸のある人なんかいませんよ!」
声を大にして主張してみますが、ルイフィルさんもイオラートさんも納得出来なさそうな顔のままです。
「はあ、おねー様。親孝行ですよがんばって。」
コルステアくんのやる気ゼロパーセントな激励が来ます。
「親孝行って、これまで育ててくれて有難うって事じゃないの? 育てて貰ってないけど?」
「あー、そのおにーさまの身体、五体満足だし、そこは我慢したら?」
無情にも見捨ててくれたコルステアくんにジト目を向けつつ、仕方ないので保護者連れで部屋に帰ることになりました。
部屋の外で椅子に座って書類眺めながら待っててくれたのが、穏健派諦めがちなカルシファー隊長で助かりました。
適当に父と兄を持ち上げつつ、くどくど言う2人の話に時折相槌を打ちつつ聞き流す。
中々の流しスキル持ちと見ました。
そんなカルシファー隊長に感心しつつの帰り道は、騒がしいながらも、何処かホッとするような温かさに包まれていました。
だからか、部屋で1人になると静かな空間にどっと疲れが溢れ出して来た気がしました。
ヒヨコちゃんをベッドにそっと下ろしてから待っていたコルちゃんを檻から出してあげると、一緒にベッドに向かいました。
「はあ、今日も無理〜、お風呂明日〜。」
口にしながら倒れ込んだベッドでモソモソと動く小さい影。
もう慣れましたからね、指人形め。
「我が君! 就寝前のお風呂は大事です! 先送りにされてばかりではいけませんよ?」
「はあ、指人形、口煩いお母さんタイプ?」
「は? 何を仰せです。」
そこではたと気付いてベッドから身を起こしました。
「あれ? てゆうか、お風呂って・・・どうするんだろ?」
第二騎士団の宿舎には、当然男風呂しかありません。
混浴? 無理ですね!!
女性化したレイナードがシワシワのお婆ちゃんだったら、まあこちらからの視覚はこれまで通りなので構わないかもしれませんが。
父と兄が発狂しそうですね。
流石にこちらも恥じらいがありますし。
という訳で、明日朝イチでカルシファー隊長に相談ですね。
「んー、お休み〜。」
コルちゃんのもふ毛に頰を寄せながら、今度こそベッドに倒れ込みました。




